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天才とは

 今日は待ちに待ったレベルアップの日だ。

エルザに弁当を包んでもらい、カインさんのところに行く。

この件はすべてカインさんが全権を負っていて母親も何も言わない。

その分僕に何かあったら責任はカインさんがすべて負うことになる。

本当におれのためにそんな責任を負ってくれるなんて申し訳ない。

けがをしないように気を付けないと…


 最もカインさンは用事があるとかで、行くのはユウエルさん1人。彼だけが付き添いだ。

普段は互いに憎まれ口をききあっているが、厚い信頼関係がそこにある。

男の友情がかっこいい。

そんな友達を早く見つけたいたいと思う。


 さて、いまの俺の恰好は、革の軽鎧に、小振りの軽い剣を装備している。

はじめにバルディッシュを持ち上げられるほどの弩力を身に着けてからの訓練だ。

いま持っている剣は細身で軽く攻撃速度が速いものの、攻撃を受け止めるには華奢ですぐに折れてしまう。

基本的に、攻撃を受け流す、回避が主な手段になる。

体術の訓練にもなる。

しかし、1歳児、育ちがいいから2歳児に見えるとしてもそんな小さい子に普通戦わせない。

前世だったら児童虐待そのものだ。

最も自分で頼んだから、文句はないのだが。



「今日はゴブリンを狩るのですか?」


「う~ん、悩んでる。」


「なぜですか?」


「レオンが魔物を狩れば狩るほど基礎能力はドンドン上がる。だがそれだと身体能力に頼り切った戦い方になって、動きが雑になり技術も身につかず、ただの力業になってしまい、本当に強いとは言えないんだな。」


 確かにそうだ。

力だけでごり押しするような戦い方をしたくない。

同じ力のものが戦ったら勝つのは技量が高い方なのだ。

それに圧倒的に勝てる戦いは強い相手と戦う時の戦い方を知らないともいえるし、強者の圧力に精神的にも負けてしまうだろう。それならばもう早めに慣れてしまおう。

しかも「常戦常勝の軍は極めて強いと同時に脆い」とも言われている。確かにその通りだと思う。


「お前には強者との戦い方を知ってほしい。」


「わかりました。強い方でお願いします。」


「?? 強いのはゴブリンで弱いのはウサギとか小動物の魔物とかだ。ゴブリンは雑魚とは言えそれなりに強いぞ」


 確かに小動物とかもっと弱いのがいるな…


「それじゃ行くぞ。ゴブリンは森の浅層部分にいるからな。そんな危険な目にあったりはしないはずだ。」


 そうして町の門から出て、一キロ先の森に入る。


「さて気を抜くなよ。」


 森には濃い死の気配が漂っている。

歩いて5分前方にいくつかの気配がする。


「早速現れたぞ。ゴブリン3体だな」


 言う通りに、木の陰から現れる。


「俺が2体始末するからな。一体は自分でやれよ。」


そういうとユウエルは2体を一瞬で切り裂き始末した。

彼の武器は大剣だ。

一振りでまとめて上半身と下半身に両断される。

カインほどではないとはいえ相当な強さだ。



 この前は直感と運で逃げ切れたものの今回はそうはいかない。体をほぐしながら、見定める。

残りの1匹のゴブリンは仲間を殺されたことでアタフタとしてたが、こちらに目を向けると剣を振り上げながら、

向かってきた。



 この半年でそれなりの筋肉をつけたため前よりもはるかに楽だ。されど半年だが俺にとっては人生の3分の1にも値する。

しかし前よりは余裕はあるもののかなりキツイ。

まさに自分より一段高見にいる敵だ。

技術はないものの勢いよく振るわれた剣はかするだけで重症だろう。

だが、前ほどではない!!



 まずは敵の攻撃を予測することから始める。

右足に体重が乗り肩、脇腹の筋肉が締まっている。相手の体重が乗った重い一撃!!



 身を半歩引き最小限の動きでかわす。

大きな身振りは体力を消耗させる原因となる。

攻撃は防御側の3倍程のエネルギーを使うが余計な動きはそれの差を縮める。



 横なぎの払いが来れば、半歩下がり上段および下からの剣戟は剣を相手の剣に添え方向をそらす。

これほどの動きができるのも、この前奪った剣術スキルの補正が効いているのかもしれない。

成長力アップのスキルの補正も効いているのか長引けば長引くほど相手の動きが手に取るようにわかるようになっていく。はたから見ていてもずるいとも思える成長スピードである。


 最初はかなり危うげだったすれすれの回避も次第に洗練され余裕をもって躱せるようになる。


 さすがはゴブリン、すれすれで当たりそうで、いつまでも当たらない僕に、業を煮やし、捨て身の攻撃になってくる。

 



 攻撃も荒くなって隙だらけである。

俺が隙をわざとさらしてみると今が好機だと思ったのか。思い切り振りかぶり一気に勝負を決めようとした。


 その瞬間ゴブリンの剣を持つ手を切り飛ばす。赤い血潮がまちきらされる。



 ゴブリンは痛みでのたうち回っている。

こちらのことなど頭からすっぽ抜けたかのようだ。

そのまま様子をうかがうと痛みにも慣れてきたのかこちらに背を向け逃げ出した。

その背を切り付け、殺す。

ウギャと小さく悲鳴を上げると痙攣して次第に動きがなくなっていく。

どうせ片腕と武器をうしなえば生きていけないのだ。

今殺すのが情けだろう。

もちろん、ゴブリンの事情などどうでもいい。

すぐ殺さなかったのは観察のためだ。

 

ゴブリンが死んだとたん体に力が流れ込むのが感じられる。

魂の一部が身体に流れ込んでいるのだ。

高揚感が身体を駆け巡り気持ちいい。初めて生き物の命を奪ったが嫌悪感などまるでない。

殺される弱者が悪なのだ。生きるか死ぬかだ。

あっ、強奪忘れた。





 「レオンお前ほんとに一歳児か?強いな。」

ユウエルは言いながら思う。

あいつ化け物かよ。

普通の一歳児が魔物を倒すなんてありえない。もしゴブリンの前に立ちはだかったとして、

意に介さず弄ばれるだけだ。だが半年前も初見でよけ切ったといわれる。

 

 しかも倒すなんて!!


 最初の方はゴブリンの方が優勢。強者だった。

最初から俺はゴブリンを倒せるなんて思ってなかった。俺が始末しようと思っていた。命のやり取りを知ってほしかっただけだ。

強大な敵を前にして、あの冷静さ。

洞察力。精神力。

戦力さを的確に見抜く目。

こちらの言いたいことの本質を一瞬で理解する利発さ。


 最初はゴブリンの優勢だが、次第に変わっていったのだ。

攻撃をしてるのはゴブリン。わからない人が見ればゴブリン有利に見えただろうが、俺にはゴブリンの方が攻撃されてるような錯覚すら起こしていた。


 戦っている途中に成長するのがハッキリと見て取れた。もはや敵に同情したいぐらいだ。

まさに悪夢にしか思えない。自分が勝っているはずなのに気づいたら敵の方が強くなっている。

そんな理不尽とは戦いたくない。


 短期決戦に持ち込んでも躱され逆に殺されるような感じがする。

カインが才能があるって言っていたのもわかる気がする。

いやわからない方がおかしい。


 敵でなかったことをほんとに感謝しないといけない。

この成長スピードだと5歳ごろにはもう抜かれそうだ。

俺だってカインに馬鹿にされてるが決して弱くない。いや強い方だ。なのにだ。あれにとっては俺など乗り越えて当然の壁なのだろう。


 こういうのは、天才とかそういうのに当てはまらない。言葉で言い表せない何かだ。

ウヌゥ~・・・




 カインがずっとうなり黙りこくっているがどうしたのだろう?

今なら不意打ちで何とかできそうだ。

いやまだ無理だな。

今の僕じゃ図り切れない。


「さっきから唸ってどうしたの?」


「??  あぁ? 何でもない。感心してただけだ。」


 反応が鈍い。


「それで今日はどうするの。帰るの?」


「そうだな…」

 

 さっきから空返事だ。本当に大丈夫なのか?



 

 家に帰るとそのまま、布団にもぐり眠り込む。

冷静にやってもかなり精神的疲労が起きるのだ。

いや冷静に張りつめてるからこそだろうか。

性能の上がった体に制御が追い付かない。

少しずつ慣らすしかないな。






 カイン、エルザ、ユウエルが3人で話し込んでいる。

「おい、カインあれは天才じゃなくて化け物だろう」

バキッ!!

エルザに殴られるユウエル

「俺の見立てよりも上回ったか?」

「ああいうのがまさに神にめぐらまれたとでもいうんだよ。カイン過小評価しすぎ」

「私が最初にこの子は天才だと分かったのよ。すごいでしょ」

「馬鹿でもわかる」

「あぁ?!」

「まぁまぁ」なだめ、仲裁するカイン。

彼はいつも板挟みになってる苦労人だ。

「ゆっくり成長を見守ろうぜ。」

「「そうね。」だな。」

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