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初めての危機

 この世界には魔法がある。

俺は現在たくさんの魔力を持っているが、魔法を使ったことはない。

常にエルザに見張られていたからでもある。

魔法をつかえば火が出る、水が出る、土が出る、風が出る。

風は見えないかもしれないが、締め切られた密室のため風が動けば違和感を持たれてしまう。

この世界で生きていくためには、強くなければいけない。

日本では弱者のための生活保護、社会保障、など完備をしていてとても住みやすい社会だ。

ただし、この世界は違う。

働けないものは餓死をするしかない。

もしお金を借りても返さなければ、奴隷となって死ぬまでこき使わなければならない。

女の人の場合は娼館に勤めるのもありだが、あいにく自分は男であるし、ホモではないので男は抱きたくない。

今は、親が貴族で将来の心配はしなくてもいいとはいえ念のためにはいざという時のため準備も必要だろう。

そして一番に思いつくのは、冒険者という職業だ。

この仕事は危険はとても大きいが、強くなればその分危険度も下がるし効率もよくなる。

冒険者は上のランクに行けば行くほど稼げる給料は、ウナギ上がりになっていく。

しかも神様からチートスキルはもらっているため、それなりに上位に食い込めるだろう。

貴族の子供は騎士か文官としての国勤めはあるが、どちらも縛られるし、自由の方がいいのだ。

誰だってそうだろう。うえで威張っていたいなら話は別だろう。



 それで今は脱走中だ。

まちの外で、魔法の修行をしたいからだ。

屋敷の構造はこの前やその後も何回か本を読みに行くときに確認したのでOKだ。

子供の都合のいい勘違いを利用してウロチョロ、見つかってもテヘペロでごまかし、出入りのしかた構造も完璧に学んだ。

 


 それで初めて家から出たが、まさに中世ヨーロッパの街並みだ。

うちの家は小高い丘の上に威風堂々と立っている。

そのおかげで町を一望できる。

町の大きさとしては、家が400件ほど。

日本の地方都市にすら負ける。

うちは辺境伯爵という通り辺境にある。

つまり、辺境にある。

僕としては助かったことに、この地域では敵は人ではなく魔物だ。

魔物から守るための最前線の砦である。

(生贄の間違いじゃないか?) 

そのため住民の半分は戦闘に携わる仕事をしている。

つまり、戦闘職以外の人としてはいつ魔物に襲われるかわからない辺境より、王都、中心の都市に住みたがるのだ。

400件ある家はすべて石造りで頑丈な作りになっていて、まるで要塞都市だ。

町の周りには5メートルほどの石垣がめぐらされ、蟻のはい出る隙間もないほどだ。

? ?! !!!!!

俺が出られない。

魔法の修行ができない。


 考えろ俺。どうすればでられる?

状況確認だ。

まず僕は一歳だ。+ 町は蟻のはい出る隙間もない。= 出られない

いや違う。そのまま歩いて出ても、とっつかまり強制送還。

案は三つ思い浮かんだ。

1:根性で壁を上る。

2:町から出ていく商人の馬車の荷台に隠れる。

3:町から出る人の後ろを歩きその人の子供の振りをする。

どれがいいか?

まず1番 できないし、5メートルの壁をよじ登れる一歳児がいたら、冗談抜きで怖い。

2番と3番を比較する。

無骨なつくりの物々しい建物の間を歩き、町の入り口のところまで歩き、様子をうかがう。

まちから出る人はみなカードみたいなもの提示して出ている。

小さい子供は・・・いるわけがない。こんな都市だし。

だが小さい子まであのカードの掲示が必要かわからないが危ない橋は渡らないのだ。

つまり2番。こっそり乗って、町の外に出る。これがいいだろう。

手頃な馬車を探そう。

まずこれ以上荷物を積まないと予測され、あたりに注意を払っていない商人。

人数が少ないのも考慮すればいいだろう。そして周りから見えないのは・・・

 

 町の入り口から少し離れて、通りの端に止めてる、武器屋さんの前に止まっている、褐色の馬車がいいだろう。馬車なんて褐色以外の色はあまりないのだが。商人のおじさんも人が好さそうだ。

しかし、この顔はなんかどこかで見た気がするな。


 今にも出そうなので路地を回り込み、周囲の目に気を付けとびのる。

中に入ると鉄の匂いが充満している。武器の運搬がメインのようだがそのほかのものもある。


 ピシャリ!!


 鞭が振るわれる音がして馬が高くいななく。

急いで馬車の隅にうずくまり隠れる。

馬車がゆっくり動く。随分と遅い。だがこの時間は緊張のあまり1分が1時間にも感じられる。


   

 馬車が止まり、話声が聞こえる。

緊張のあまり心臓の音が大きく聞こえる。

汗がにじみ出る。


 また動き出す。

どうやら無事に切り抜けたようだ。

揺られながら注意深く顔をひょっこりあげ、四角い風景を見る。

衛兵はこちらにもう注意を払っていない。

だが降りるにはもう少ししてからだ。


 5分ほどすると

町が最初の3分の1ほどの大きさになった。

後続の馬車も来ていない今が下りるときだろう。


 ヒョイと飛び降りる。

体重が軽いため音はほとんどしていない。


 うつ伏せになり離れるのを待ち、街道から外れたところまで移動し、茂の陰に隠れる。

見られたくないのだ。


 これでようやく魔法の練習ができる。


 今までやっていたのは、魔法を使える容量を大きくするための練習で魔法の練習ではない。

ただ魔力を垂れ流しにしていただけだ。

もうこれでファンタジーの世界の住民になれるかと思うとドキドキだ。

魔法を使うには、魔力、イメージ力この2つが最も重要だ。

魔力の扱い方はもう小さいころからの積み重ねで完璧だ。

発動させるためには詠唱が必要とされるが、それはあくまでイメージの補助であり必須ではない。

強く念んじればいいのである。


 使う魔法は見られているときのために風魔法にしておこう。


 (風よ!敵を切り裂け!)

空に放つ。

 ポフゥ

何とも気の抜けた音がでた。

なぜだ?魔力も込めたし、強く念じたはずなのになんでこんなヘロヘロなんだ?

う~んと、ラノベを思い出せ。

登場人物みたいにうまくいかない。

何が足りていないんだ?

イメージね。

次は細かい原理を考えながらやろう。これが原因でなければお手上げだ。


 風・・・

火だったら酸素を使うとか二酸化炭素の排出とか高温だと青いとかあるんだが風はな~

頑張るか!!

形は30cmほどのブーメラン型。厚さは極限まで薄く。空間ベクトルを使い、押しのけた空気が後ろに回り込み、さらに加速をさせる。薄く!早く!鋭く!

風よふけ!!

シュンッ

すごい勢い不可視のブレードが飛んでいく。草を切り裂き彼方に消える。通った後に空気が流れ込み緩やかな風が巻き起こる。

【風魔法レベル0を手に入れた】

成功だ!自分1人でできたんだ。日本で高等な教育を受けてたからな。他の転生者も楽にできるだろう。

楽しみになってきた。

この調子で他のも手に入れよう。

火は酸素を使い高温になれば青く輝く。

火よ灯れ!

指先に青い炎が揺らめく。自分で魔法を使うには自分に害をおよばさないのか。

【火魔法レベル0を手に入れた】

よし次。

水は2つの水素元素に一つの酸素元素で成り立っている。

水よわが手に!

自分の服がビチャビチャに濡れる。胡坐をかいているため下半身が濡れる。

おもらししたかのようだ。

【水魔法レベル0を手に入れた】

さあ、残り一つだ

土は普遍的にこの世にあるケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、カリウム、ナトリウムその他諸々だ。土よ顕現せよ!

手のひらに土が生まれる。

先ほどの水と混ざり合い泥になり気持ち悪い。洗い流そう。

【土魔法レベル0を手に入れた】

ウォーター! 

水で洗い流す。

【スキルを統合し、4属性魔法レベル0を手に入れた。火属性魔法、水属性魔法、土属性魔法、風属性魔法を失いました。】

スキルは条件を満たすと変化、進化を起こすことがあるそうだ。

こんなそうそうにみられるとは、幸先がいいな。

このスキルのいいところは何を使ってもすべてに経験値が入るのがいいところだ。

つまり、家で使えない火属性魔法も水属性魔法も土属性魔法も風属性の訓練でレベルが上がるのだ。

あと、家でも常に経験値稼ぎをするための風属性魔法を作らないとな。

ばれないようにするには・・・

自分の周りに空気を回転させればいいだろう。

思い浮かべるんだ。

自分の周りに空気が回っていることを。

ブロウンウインド。

これでいいだろう。自分の周りで緩やかな回転が起こっているのがわかる。

さて、魔法の検証も終わったし、帰るか。魔力もだいぶ使ったし、精神的にもキツイ。

重石が乗っかっているようだ。

入り口でどう入るかが問題だな。

怒られるかな?


 ガサッガサッ!!

後ろに何かいる気配がする。


「誰だ?」


「ギィャーギィャー」


 人じゃない!!

かの有名なゴブリンだ。頭が剥げて、申しなわけ程度に5、6本の毛。貧相な恰好。

間違いなくゴブリンだ。

随分長い間いたからな。見つからなかった方が不思議だ。ここは魔物の楽園だ。

魔力もない。眠気もある。でもまずやばいのは一歳児だということだ。

身長は60㎝ほどそれに対しゴブリンは130㎝ほど。70㎝ほどの両刃の剣を持ってる。それが二体。

倍以上に高く横幅も圧倒的に負けている。

転生じゃなくて転移だったら勝てたのに。前世は喧嘩も強かったからな。

口調は落ち着いてるが、かなりあせっている。

想像してほしい。あなたが一般的な日本人の身長170cmとすると、

相手は3m70㎝それに2mほどの大剣を持ってる怪物2体。何そのムリゲー。

どうすればいい?あきらめたらそこで終わりだ。

スキルを確認しよう。

幸運はこんな怪物にあってる時点で機能してるとは言えない。幸運ではなくて不運だ。

役に立たない。次は直感だ。直感で2,3回はよけられるかもしれないが、決め手にはならない。

スキル強奪。これだ! 神様からもらったチートスキル!

(強奪)

【剣術レベル1を奪取しました。】

 レオン「・・・」

 ゴブリン×2「・・・」


 剣はないし、さっきのたとえで行くと

3m70cmの2mの大剣を持った、剣道一段の剣士2人が3m70cmの2mの大剣をもったチンピラ1人と1人の剣士に変わったところで勝てるようになるか?いや絶対無理だ。勝てたら本当に尊敬する。

ただのリンチだ。

来るっ!! 右に急いで転がる。耳元すれすれにとんでもない風圧がかかる。

直感でよけられたが、動体視力もまだ未発達で感知できても体が動かない。

恐怖からではない。筋肉がないのだ。

転がった先に1体が回り込む。

目の前に大剣が迫る。

ゆっくりとしか動かない足。本当にもどかしい。

ゴブリンごときにやられるとは。とんだお笑い種だ。

少しだけど楽しかった。ふふっ。エルザは悲しんでくれるかな。


 ガキン。目の前に火花が飛び散る。





 カイン視点

 俺はレンフィールド家直属騎士団の騎士団長だ。

この地域の治安および魔物の退治が仕事だ。

ここの騎士団は魔物も相手にするのだ。

ある日、昼過ぎ。

俺が訓練を団員としていると屋敷から赤ん坊がトコトコと歩いて出てくるのが見えた。3男のレオン様だ。

こちらには気づかないでどんどん町へ進んでいく。

一瞬止めようかと思ったが、午後は時間もあることだし、見守ることにした。

「ユウエル、俺訓練ちょっと抜けるわ。」

「うっわさぼりすっか?」

「そんなわけないだろう。用事があるんだ。」

「まぁ、わかりましたよ。あまり遅くならないでくださいよ。隊長が訓練終了の合図出さないと終わんないんですよ。」

「わかってる。わかってる。そんじゃ行くぞ」


 この町から出られることはないと思うが陰から見守っておこう って馬車に乗り込んだぞ。

状況判断能力といい。ただのがきじゃないな。エルザがほめるだけある。

さて、追わないと。


 「隊長、そとに行くんですか?気を付けてください」

「あぁ」


 馬車をばれないように追いかける。

しばらくして降りて、うつぶせになりだれかいないか探っているが、俺はこれでも団長一歳児には負けないさ。


 そして茂に入り込み何かをやっている。こちらに背を向けてるが何をやっているんだろう。


 茂に入り込んでから1時間後ようやく出てきた。


 なんかウキウキしてるな。楽しいことででもあったのか?


 急に飛びずさる。

何があったのか注意深く目を凝らすとゴブリンが2体いた。

これは不味い。あれじゃ殺される。

そう思うと同時に駆け出した。

あいつに向かって剣が降られる。殺される。助けられない。

そう思ったら彼はなんとよけたのだ。

ゴブリンは技術はないものの野生としての弩力が強い。

それを一歳児がよけるとは。将来が恐ろしいぜ。

2体目が剣をふるうが余裕で間に合う。

そして剣を受け止めた。





 殺されたかと思ったが、誰か30代ぐらいの渋いおじさんが守ってくれた。大人のカッコよさがある。

誰だ?それより邪魔にならないようにどかないと。

そして、ゴブリンを一瞬で葬った。


 「大丈夫ですか?レオン様?」

「ハイ。あなたは誰ですか?」

「レンフィールド家直属の騎士団長です。ずっと陰から見守っていましたよ。」

ばれてたのか。全然わからなかったぞ。

「今日のことは内緒にしますから。もう帰りますよ。レオン様。」

何!紳士じゃないか。超かっこいいぞ。

「これからは私に言ってからにしてくださいね。約束してください」

「うんわかった。約束する」





 町に入るのも団長特権で詮索されることもなく、屋敷にたどり着いた。

「エルザが心配してると思います。ちゃんと謝るんですよ。」

「うん」

「それではまた会えるといいですね」



 誰にも見つからずに部屋に戻る。

  

 部屋にエルザが椅子に座り泣いていた。


「ただいま。そして、ごめん」

「!!!」

泣きはらした赤い目でこっちを見てくる。

「レオン様。 心配してたんですから。もう心配させないでください。 でも必ず帰ると信じてましたよ」

「ほんとにごめん」

泣き笑いのような表情になる。

 

 その日はエルザと一緒に寝た。

いやといっても聞いてくれなかったのだ。

僕も悪いことをしたしな。

エルザはいい匂いがする。

あたたかなぬくもりに包まれて眠りについた。




 同じころカインは酒場で

「団長機嫌がいいですね~」

「将来有望なガキを見つけたんだよ。」

「あの団長と一緒に入った子供ですか?」

「そうだ」

「誰ですか?教えてくださいよ。」

「内緒だ。ガハハハッ」



 

 今日のことを知ってるのは天空に浮かぶ青白い月のみ。

夜は更けていく。










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