ヴェルナンド
更新遅くなりました。
ザクスと夜中に密会していたころに急に家の扉が勢いよくたたかれる。
いったい誰なのだろうか? ひょっとしてザクスと密会をしていたことがばれたのだろうか? だとしたらこの若い男はいったい……
そんな俺の内心に気付いた風もなくその浅黒い色をして、快活そうな若い男は陽気に、しかしところどころに緊張をはらませた声で言ってくる。
「こちらは…… というか、あなたはレオンか? 俺はヴェルナンドというんだ。よろしくな」
ず
ぶっきらぼうに、というよりも無礼な感じにヴェルナンドは言う。
この話し方は相当に人をいらだたせるものではあったが、不思議とこの男の陽気な感じのせいなのかその怒りもすぐに消えてしまう。
「そうですよ。私がレオンハルト・レンフィールドです。それでヴェルナンドはいったい何の用で?」
「いや、あの…… レオン様に見てもらいたいものが……」
先ほどまでの調子に乗った感じも消え、少ししどろもどろになりながらヴェルナンドは言葉を返す。
「私に見てもらいたいもの? まぁいい。じゃあそれを出してみて」
「えっとこちらです」
そういうと、服の内側のポケットから薄汚れた一枚のぼろきれのような紙を出してきて、俺にそれを手渡してくる。
2つに折り畳まれたそれを開けて中を見る。
そして思わず笑ってしまいたい衝動に駆られる。
「うん、今日は本当にいいことが続々と起こるな。すべての運は私の方に向いてきているようだ」
本当に今日は様々な愉快なことが起こる。
先ほどは暗黒魔道王朝の対になる国家、聖魔道王朝からの挟撃の誘いの手紙をザクスが持ってきてくれたかと思ったら、次もまた同じような感じだ。
まさかまたこちらに援軍を申し出てくれるような国があるとは!!
直接的には戦争に参加しないとは言っているものの、軍事物資など他より安く売り払うとの意思の表明をしてきている。
確かにこの国…… アルヴォンは貿易などで莫大な富を築いているともいわれている大陸の南沿岸部にある海洋国家だ。
確かにそこの人々は陽気で享楽的だといわれているし、この密使のイメージとよく合う。
だいぶ物事は俺の思うように進んできているようだ。
ひとしきり落ち着いた後に詳しい話を聞くために、ヴェルナンドを部屋にある椅子に座らせる。
初めはすっかり恐縮をしてしまっていたが、その緊張を和らげるためにやさしく話しかけ部屋の雰囲気を明るくする。
「それでヴェルナンド、詳しいいきさつを教えてくれないかい?」
「えっと、たぶん俺はレオン様の思っているようにアルヴォンの密使ではないんです」
たどたどしく、ひょっとして処罰をされるんではないかと伺うような目つきで言ってくる。
「へぇ~、それは興味深いね。ぜひその話を聞かせてくれ」
非常に興味をそそられないようなので、話を進めるように促す。
すると目を輝かせ、意気揚々とそのいきさつを話し始める。
「おい、お前さん!」
サンクスの町は、にぎやかな港町である。
港には絶えず船が付き、漁船の陸揚げする魚、貝、貨物船の運び上げる積み荷で桟橋は、早朝から夜遅くまでごった返すのだ。
そのアルヴェンの港を一望のもとに見下ろすのは、姿も美しいアルナ山…… サンクスは、山と海とをと主に控えているのだ。そして隣には貿易大国のアルヴォン控えている。
港からアルナ山のふもとまで広がるのは娼館、賭け場…… 主に下層階級の住む下町で、山のふもとから上は高くなるにつれ住む人も位が高くなってくる、上流階級の住まいだ。
「何だっ?!」
いきなり呼びかけられ、ぱっと振り向きざま話しかけてきた相手の喉元に向かって剣を突き付けたのはヴェルナンドだ。
下町の中でも最もいかがわしく、娼館も近い通りである。
「おぉ、物騒だ!!」
「何だ、あんたか、ヨーク」
ヴェルナンドは声をかけた相手を見て、スッと剣を鞘に戻した。とは言うものの、すっかり気を許したのではない証拠に、目がキラキラと鋭く光り、眉は長い前髪の下で険しくしかめられている。
つい最近ヴェルナンドと酒場でともに飲んで、馬が合っった感じのヨークはそんなヴェルナンドの様子を、感心したように口笛を吹いて眺めた。
ヴェルナンドはそれなりには形は整っていたが、むしろそのしなやかな体、ふてぶてしい態度、身の回りに漂わせている雰囲気に、何かしら見ているものを無性に引き付ける魅力があった。
年は20行ったばかりだろう。ほっそりとしていて背が高い。
浅黒い肌にほっそりとした顔立ちは典型的な下町のものの顔だが、どこかしらに品のいい趣があるのは両親のどちらかに上流の血が少し入っていたかもしれない。
そして話しかけてきた相手…… ヨークに向かいにやりと片頬だけあげ何かを企んでいそうな笑いをする。
しかし笑うときつい、ふてぶてしい顔が一筋縄ではいかないものを感じさせる。
どこからどこまで何かしら人目を惹き、将来はただ物ではなくなりそうなものを感じさせる。
「もうひと仕事終わったのか?」
ヨークが訪ねてくる。
「あぁ、今回の戦争ではがっぽり儲けたぜ」
そしてヴェルナンドはにやりと笑う。
もともと貧しい育ちだった彼には、傭兵など体を張るような仕事しかなかったのだ。
対するヨークはネズミのようなどこか油断のならない空気を纏っている男でもあった。そして彼も傭兵……だと言っていた。
「お前さん、これでしばらくは暇だろ。今日は飲みに行かないか?」
「それはいい案だ。よし酒場に行った後は女でも買おうぜ」
「よし、それじゃ行くか」
そして彼らはごみがそこら中に落ちてて、不潔な通りを歩いていく。
もっともかなりの腕利きの傭兵である2人にとっては大したことはないかもしれないが、女子供なら通りも抜けるには命も覚悟しなければならないという強盗もたくさんいる通りを陽気に鼻歌を歌いながら歩いていく。
「おい、お前さんいい話があるんだ」
すでに夜遅く、暗い室内で先に声を出したのはヨークだ。
既に2人は酒場でたんまりとのみ、女も買いすっかりと出来上がっていた。
気の合った2人は、一緒の部屋をとっており、出会って数日にしてはなかなかにうまくやっていた。
そしてそのいかがわしい誘いを聞いたヴェルナンドは興味を示す…… だが
「悪いが断る。そういう話は乗らないほうが得策だ」
だが、ヨークは断られたことに特に気分を害した様子も見せないどころか、ほっとした様子だ。そして一言。
「そうか」
そして互いにその話については蒸し返すようなこともなく、意図的に他の話題…… 傭兵の仕事などについて深夜まで話し込む。
「それじゃ寝るぞ」
そういったのはどっちが先だったのだろうか?だがすでに夜のだいぶ遅い時間になっていて、もう片方もそれに異論がなかったのだろう。時期に部屋は物音ひとつしなくなり、闇に全てが飲み込まれる。
グハッ!!
そしてすぐそのあとに続いて聞こえてくる打撃音、鉄の打ち合う音、血の匂い。
「ちっ、どこに隠した?」
「おい!! ヨーク何があった?!」
傭兵で普段からぱっと起きられるようにしていたヴェルナンドは、もうすでに朝になろうとする時間に起きたただ事ならない物音にすぐさま目覚めて、隣のベットに寝ているはずのヨークに向かい話しかえるが、聞こえてくるのは苦悶の声のみ。
すぐさま布団をはぎ、ベットから起き上がり、すぐ隣のベットまで駆けつける。
そこには肩から斜めに大きく剣で切り付けられ、すでに息も絶え絶えなヨークがいた。
「おい!! どうした!?」
「あぁ…… ヴェルn ゴホッゴホッ!!」
そして苦し気に血をはきながら、ヨークは自分の身の上を次々へと明かしていく。
自分が本当の傭兵ではないこと。名前もヨークではないこと。アルヴォンの国の密使であること。はるか大陸の北西で起こっている戦争について。暗黒魔道王朝の追手から身を隠しながら移動していること。先ほどの黒い影も暗黒魔道王朝の手であること。
次から次へと明かしていく。そして最後に……
「これをっ、 お前の…… 好k…… つk」
ヴ
そして、懐から小さな紙きれを出して渡そうとするも、途中でその手から落ち、妙に響き渡る音で床にパサリと落っこちる。
口から幾筋もの血の川を吐きながら……
「おいっ!! ヨーク!? 大丈夫か?」
だが、其の体はすでに冷たくなっていて、ヴェルナンドの呼びかけにも一切答えることはない。
だがその口はかすかに笑っていた。
だが、彼にもその死を悼む暇はなかった。
下から今のすさまじい騒ぎに何が起きたのか気になったのであろう宿のおかみさんや、従業員たちの階段をどたどたと踏み鳴らしてやってくる音が聞こえる。
そこでここにいてはそのまま犯人にされると思ったのだろう、ヴェルナンドは急いで着の身着のままで宿の2階の窓から外へと飛び出し、薄暗く青紫色に染まり始めている通りを走る。
宿の方からは「殺人事件だ!!」という叫び声が聞こえて来てあたりは急にあわただしくなり、町の警備をしている人間などもやってくる。
そして、町から少し遠ざかった田舎の村の民家で初めての休息をとり、そしてヨークから受け取った手紙を見てみる。
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密命: ローレンシア王国首脳部へ
此方アルヴォン王国には戦争に参加する意思はないものの軍事物資などを援助したく思う
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中にはたった2行で簡潔にこのように書かれていた。
「これって……かなりやばい内容じゃないか?」
思わず唇から漏れてしまう。
「考えろ、俺!! 暗黒魔道王朝とローレンシア王国のどちらに味方をするほうが得か」
どちらにしたほうがいいのか? ヨークの意思を考えるならばローレンシア、だが今は暗黒魔道王朝が戦争を有利に進めているという。負けるほうについたら自分の命が危ない。
すぐには決められずひたすら暗黒魔道王朝、ローレンシア王国のどちらもある北西へと進んでいく。
そして酒場に入り、傭兵の情報網、酒場の店主に聞き込みを続けたりする。
どれもヴェルナンドが傭兵ということで大した疑いは持たずに、すぐにいろいろな情報を教えてくれる。
ヴェルナンドにとって大陸の北というのは未知の地みたいなものだ。様々な知らないことがわかってくる。
そして数週間にわたる聞き込みでわかったことがいくらかある。
・暗黒魔道王朝には新しい戦術を発明した人がいて、それが今の戦況の有利につながっていること
・その戦術を発明した人はすでに死んだこと
・ローレンシア王国には神童がいる
・数はローレンシア、質は暗黒魔道王朝 等々……
だが、何よりも驚いたことがある。
今まで聞き込みをしている中でほとんどの人が、今苦境のローレンシア王国の方が勝つだろうと予測していることだ。
どうやら、誰もが噂の神童がまだローレンシアにいるからだという。神童のレオンハルト様さえいれば絶対に負けることなどないだろうと。あまりにもその誰もが断言する様子に何も言えなくなってしまう。
彼が本気で動けば暗黒魔道王朝は一週間持たないだろうと。
まるで狂信者のようだ。命すらささげかねないものまでいる始末だ。そしてその様子に嫉妬をしてしまう自分に顔をしかめてしまう。なぜそれほどに人気を集める人が貴族にいるのかと。
結局、最終的にローレンシア王国にその手紙を渡すことに決める。
レオンハルト・レンフィールドならば絶対に情報を持ってきたものを無下にすることはないだろうと判断をしたからだ。
すでに一時間近くも話し込んでしまったようだ。
「なるほど、君の話はとても面白かったよ」
「どうもありがとうよ、いや、えっとこういう時には恐縮したよだっけ?」
あまり敬語を使い慣れていなさそうな様子に、心の中で面白おかしく思う。
「君の手紙は本当に助かったよ。何か欲しい褒美はあるかい? あと無理に警護は使わなくていいよ」
そういうと幾分ホッとした様子にヴェルナンドはなる。
「えっと最初は貴族にしてくださいというつもりだったんだけど…… あなたに仕えさせてください」
その提案に驚く。てっきり爵位を要求してくるものだと思って、そちらの方の算段を頭の中でつけていたからだった。
「そんなのでいいの?」
相手の目を見据えながら確認をするが、その目に揺らぎは見られない。
「わかった。その覚悟を受け取ろう」
そういうとヴェルナンドは椅子から立ち上がり、一歩進み出て剣を鞘から抜き放つ。
部屋の端からヒィッという悲鳴が聞こえた様な気もする。
「えっと、これしか知らないので許してください」
そういうと無骨な剣は俺の右肩に置かれ、そしてヴェルナンドは俺の前で跪く。
「我ヴェルナンド永遠の忠誠をレオンハルト・レンフィールドに捧げる」
「その忠誠しかと受け取った」
なんとなく今日あったばかりのこの男と長年連れ添ったような不思議な感覚に見舞われる。
そう人に思わせるのもこの男の魅力なのだろう。
「それではもう人も起きる。ザクス出て来て」
そういうとザクスとアイラはうっそりと部屋の端から出てくる。
「えっ!? ザクスってあの伝説の暗殺者の」
ヴェルナンドが驚いたようにこちらを見る。
「そのあだ名は恥ずかしいからやめてくれ」
いやそうにザクスが言う。
「話はまた今度にして。ザクス、それじゃ先ほど教えた家に行って」
そして話の途中で教えた家…… エリーに用意をさせた家に3人に行くように促すと、ザクスはうなづき、そして2人を引きずってまた外へと出ていく。
そして3人が出ていったのを確認してから目をつむる、と同時に部屋の扉が開かれる。
どうやらメイドだ。
「あらあら、レオン様。こんなにぐっすりと眠っていて。それにしても薬品臭いわね…… まぁいいわ見たところ何もなさそうだし」
そういうと、一度部屋から出ていき、毛布を肩にかけてくれる。
そして次第に本当の眠りについていく。
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