宴会3
今回は少ないです
その合図とともに、その貴族の男が前に出て素早くレイピアをふるい、返す刃で俺を追撃しようとしてくる。
なかなかの腕で、的確に俺の受けづらいところへと刃をふるい、突いていく。
確かにこれほどの腕だったならば少しぐらい調子に乗るのはわかるし、これまでそれでずっと褒められてきたのだろう。
男の顔を見ると俺が反撃しないのを、手も足も出ないせいだと思い、その顔は嗜虐心に醜くゆがんでいる。
確かに強い!! だが、それは普通の20歳に比べればだ。
俺の心は少しの揺らぎもなく、落ち着いている。
チラッと横を見ると、カイさんはあきれたようなにやにや笑いを浮かべている。
すでに二桁目に上ろうとしているレイピアの突きを軽く当てて逸らし、その伸び切ったその刀身めがけて攻撃を当てる!!
本来ならば向こうのレイピアのみを壊せるのだが、どうやら俺に反感を持っている貴族が…… 特に高位の貴族に多そうなので、恨みを買わないように、引き分けになったと見せるため刃を少し横にしながら力づくで自分のレイピアごと相手のレイピアを破壊する。
パリーン!!
澄んだ高い音が広間に響き渡るとともに、双方のレイピアが刃の真ん中から折れて宙を舞う。
そして少し離れたところに折れた刃が床に突き刺さる。
広間に今の決闘に対する感嘆の声が響き渡る。
年が倍以上に違うのに、勝負を互角に持ち込んだことに対する俺に対しての称賛の声なのか、小さくしてすでに有名な神童に対して引き分けたことに対する目の前の男に対する称賛かはわからない。
だが、周りの人々はなかなか見られることのないほどの高レベルの試合が、自分の目と鼻の先で行われたという事実にすっかり興奮をしてしまっている。
俺に反感を持っている貴族でも今の試合は高レベルだったということに関してだけは認めなければならなかっただろう。
それでも年下のぽっと出の低位の貴族が、高位の貴族である自分たちを負かしたということが悔しいのだろう。
唇が青くなるほどにかみしめ、こちらを呪い殺さんとでもばかりに睨んでくる。
だが、それも周りの大部分の貴族がレオンの方に傾いている中で露骨に罵るわけにもいかず、俺から一番遠いところの一角で、互いに俺のことでぶつぶつ言いながら過ごしていた。
ほかのものはあまり気にかけなかった…… というよりも気にかけたところでこの彼らの気持ちをいらだたせるだけだった。そして触らぬ神に祟りなしとばかりに近くによらないようにしていた。
周りの貴族たちが口々にレイピアの腕や、その美しさに驚嘆し、ほめたたえるのをさも当然とばかりに艶然と笑って受け止める。
いかにも悠然と落ち着いて、艶やかに、そしてにこやかにしながら、機知に富んだ少ししゃれた会話をするだけで、将来宮廷をにぎやかすであろう若い貴族の美姫たちはほとんど悶絶せんばかりだった。
それではいよいよ面白くないのは、顔をつぶされてしまった貴族である。
「けっ、なんという騒ぎだ」
「その通りだ、まったく女たちというのは……」
どうにも胸の収まらぬといった様子で華やかな渦とその中心にいるレオンの姿を見ていたライルが不意に表情を変えた。
ほかのテーブルを囲んでいた貴族はなぜライルが顔色を変えたのかわからずに、その視線の先を追う。
そしてそれに行きついたとたん他の貴族も顔色を変える。
そして、固まってしまった彼らの顔に黒い影がかかる。彼らの目の前には1人の男の人が立っていた。
およそ年は20代でこの場にいるののとしては少し年がいったほうだ。
そして、ライルが口をおずおずと開く。
「あなたは…… なんでこの場なんかに? 興味がないのではありませんでしたっけ?」
その男はにやりと酷薄そうな笑みを、わずかに口の端に浮かばせる。
「うん、そのつもりはなかったんだよ。だけどねちょっと野暮用ができたんだよ」
「いったい野暮用とは…… セルd……」
ライルがすべてを言い終わる前にその口が閉じられる。
いや、閉じさせられた。
「その先は言わないようにね。周りの注目が集まっていない今が一番のチャンスなんだから」
「そのチャンスとは……?」
そして、男は周りをチラッと一瞥して、注目されていないのを確認して再び口を開く。
「欲しくないかい? あのレオンというやつを陥れる権利を。 僕もあいつが邪魔なんだからね」
「セル…… いや、あなた様もですか?」
「そうだよ!! で、やるの? やらないの?」
その男をのぞいた貴族たちは互いに顔を見合わせる。
もちろん目を交わしたのは、その返事にうなづくかどうかだ。この国では貴族同士での陰謀は禁止されていて、ばれてしまった場合に大変なことになる。
国から処分を受けて、最も処罰が軽くてもかの有名な貴族用の牢獄…… セント・ルイスに長い間幽閉されるのは確かだし、酷ければ処刑もあり得る。
それほどの危ない橋を渡ろうなど、普通の神経では考えられないものの、今は思いっきり赤っ恥をかかせられたことで少し興奮していたのだろう。
深く考えることもなく一人の貴族がうなづくと、ほかの貴族も首を縦に振る。
その様子を見ると男は満足そうにうなづく。
「よかったよ。もし、断っていたら…… 殺さないといけなかったからね」
その言葉に貴族たちの顔が一瞬固まり、そのあと首肯したことに対してほっとしたように見える。
その貴族たちの様子を気にした風でもなくさらに言葉を続ける。
「それじゃ、違うところに行こうか。 ここじゃ人の目が多い」
そういうと、彼らはぞろぞろと連れ立って宴会から抜けるが、それに気が付いたものはそこまで多くはなかった。
「うん、どうしたの? レオン」
決闘が無事に終わって、ほっとした様子のエリーが聞いてくる。
どうやら、俺が若干顔をゆがめたのが気になったようだ。
「ちょっと寒気がしてね」
「??」
分からないといった様子のエリー。
少し首をかしげて、こちらを見てくる。
そしてなんとなく不吉な寒気が背中に走るのを追い払うかのように軽く首を振る。
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