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見逃す…

 暗殺者をしっかり拘束したのを確認した後、セーネの無事を確認するためにボロボロのあずまやに入る。

戦闘中でもあずまやには攻撃がいかないように注意をしたので、傷んではいるものの破壊されているようなところはない。

そのあずまやの扉を開けるときにギィッと耳に触る音を立てる。



 あずまやは全体が木でできていて、どことなく質素な感じがする。

扉を開けて入ってすぐのところのリビングを通り抜け、さらに奥にある部屋に進んでいく。

すでに奥の部屋にいるというのは最初の段階でわかっているのだ。

だが罠などを仕掛けられている可能性を考え、慎重に開けてみる。



 いきなり矢が飛び出してきたり、毒が噴射されることがあるかと心配はしたが杞憂だったようだ。

安全を確認した後はすぐ中に入ってセーネの姿を探す。

部屋はそこまで広くないのですぐにその姿を見出すことができる。

セーネは部屋の奥に丁寧に寝かされてすやすやと眠っている。まるで外で起こっているうるさいことになど関係ないというかのように眠りこけている。

布団も別途も随分と上質のもので意外に大事に扱われていたようだ。

幸せそうな寝顔を見ていると起こすのも忍びなくなるが、起こさないわけにはいかないので肩に手をかけ揺り起こそうとする。


「ほら、セーネ? もう起きて。もう大丈夫だから」


 ゆする力は最初は軽く、徐々に強くするも目をうっすらと開けることもなくこんこんと眠り続けている。

こうなると白雪姫の伝説が頭にふとよみがえってくる。

王子様がキスをすると今まで何をしても起きなかった白雪姫が起きたとかそういうたぐいのものだったはずなのだが…

許可をとらずにキスをするのはどうなのか、寝ているすきに唇を奪うのはいかがなものかと自問自答するも物は試しとばかりにセーネの薄いピンク色の形のいい唇に軽くキスをする。


「ん? んん~っ?」


 本当に起きた…

逆にやっているこっちのほうがびっくりだ。

お話での出来事が本当に起こるなんて。

そもそも起きない前提でしていたのでかけるべき声も急には思い浮かばない。


「おはよう? もう目が覚めた?」


「うん? う~ん?」


 まだ薬が効いているのか、頭がぼんやりとしている様子だ。

口もおぼつかず目の焦点が合っていない。


「レオン?! ここはどこ?」


 焦点が俺にあった後に急にピクッとなって、焦ったような声を出す。


「そうだね、王都から3kmほど離れた郊外のあずまやかな」


「えっ!? そういえば最後に誰かに誘拐されたような…」


「まさにその通りだよ。それでたった今誘拐犯をどうにかしたところね」


「だいぶ…迷惑をかけたようね。ごめんね」


「気にしていないからいいよ」


 そこでセーネはベットから起き上がろうとするもフラッと倒れこみ俺の方に寄り掛かってしまう。


「まだ駄目みたい。もう少し休んでいい?」


「もちろん。僕の方も少しやることがあるからゆっくりとしていてね」


 ぐったりとしていて具合の悪そうなセーネをベットで休憩させて、自分はさっきの暗殺者の尋問を行うためにまた外へと出る。






 ほっとしたことに暗殺者は気絶から目覚めていないらしく、俺が縛った時の状態のままだ。

傍らに近づきいつでも戦えるようにしながらそっとたたき起こす。


「おい、起きてくれ」


 さすが暗殺者とでもいうべきか、ふと意識を取り戻したとたんに急いで警戒の姿勢になっている。

そしてこちらの様子を伺い殺されるときにもせめての抵抗ができるようにしている。

このままでは尋問ができないのでひとまずは警戒心を溶かす努力をしてみる。


「あなたは負けました。それは理解できますね」


「あぁ、わかっている。だが尋問など無駄だ。さっさと殺すがいい」


「殺すつもりはないよ。だけど君が死んだら君の愛しい人はどうなるのかな」


「くそっ、人の弱みに付け込みやがって… いやらしい奴だ」


「そんなことを言われるなんて心外だな」


 眉の端を軽く上げ驚いたかのように言う。

だが相手は俺の反応にあきれたかのようだ。


「もういい。それで何を言えばいい?」


「その前に1つ提案があるんだけどどう?」


「なんだ?」


「国を裏切るつもりはない?」


「何だと!?」


 予想外の反応に落ち着いた態度も崩してしまっている。

それほどに俺の言葉が意外だったようだ。

そもそも敵を寝返るなど基本の策だと思うのだが。


「意外? こんなことを言うなんて」


「当たり前だ。ふつう考えないぞ。裏切る可能性を考えるからな」


「でも君はわかりやすい。その好きな女の子と一緒に来るなら白。おいてくるなら黒だ」


「よくわかっているんじゃないか、俺の性格を」


「そりゃ一日もかけて戦えばね」


「その話に乗るとすればどうすればいい?」


「彼女を救う方法はわからない。だけどこっちに逃げてきたら住む場所の保障をしよう」


「それはありがたいのだが…どうやって彼女を見つけるのかが問題だな」


「確かにね。上の方の人間は腐っているから少し脅せばすぐ吐くけどね。だけど…」


「臆病だから常に護衛が付いている」


「それはわかっている。だから議員とかだっけ… とにかく議員のうちの1人だけに利益をちらつかせて… 1人にすればどうにでもできるでしょう? 重要なのは1人だけ選ぶことね。そうすれば勝手に分裂をするから」


「悪魔か? 確かに最低な考えだな。どんなに仲がよかろうと莫大な利益を目の前にしたらそれは互いにとって相手は煩わしいものになる」


「それで逃げる時間を稼げばいい」


 俺の考えを伝えた後相手は少し思案するような感じとなる。

だがそう間をあけずに俺の目を見てうなづく。


「信用していいんだな?」


「神童の名にかけて」


「わかった。信用しよう。よろしく頼む」


「名前を聞いていなかったね」


 縛っている縄をすべて切り裂きながら相手に問う。


「ザクスだ」


「よろしくね」


 握手を固くかわす。

そして相手に向かって優雅に微笑む。


「早く行ったほうがいいよ。もう捜索隊が来るから」


「わかった。この恩を忘れない。次会うのはいつか分からんがさらばだ」


 そしてザクスは曙の森の中へと入っていき、そしてその姿はすぐに見えなくなる。


「レオン今の人は?」


すでに体調も万全らしいセーネがいつの間にか起きてきていて俺の後ろに立っていた。


「哀れな被害者だよ。僕と同じように愛する人を助けに行ったんだよ」


「そう、助けられるといいね」


 その声がかすかに涙声になっている。


「ほんとに最低ね。暗黒魔道王朝は」


「そう思うよ」






 セーネが来てそう経たないうちにがやがやと王都の方から人の話し声が聞こえてくる。

相当の人数がいると思われる。

そして先頭の人がこちらに気付いたのか、後ろの方に合図をしたあと手を振ってくる。

俺たちもそれに応えて振り返す。



「レオン君にセーネさん」


「久しぶりね。カイ」


 捜索隊のリーダーはカイさんだった。

こちらを見つけると嬉しそうな顔になって近づいてくる。


「ははっ!! それで暗殺者は?」


「逃したよ。姿も分からない」


「レオン君でそれとは… ひょっとしてザクスかもしれんな」


「いえ、隊長。おそらく違います。彼は任務失敗を選ぶなら死を選ぶといわれてます」


 1人がそれに疑問を呈す。

しかしザクスってそんなに有名な暗殺者だったんだ。

暗殺者なのによく知られているってな…


「それもそうだな。だがレオン君が逃すほどの暗殺者をまだたくさん持っているというのか…?」


 混乱したかのように何回も首をひねっている。

いろいろと身体的な特徴、例えば身長は175ぐらいか? だの髪は赤かったか? や、目も赤か?などだ。

すべて当てはまっているのだが、黙秘権を使用し全く分からないと言い続ける。






「それでは帰りましょう」


 カイさんが言う。


「「えぇ」」


 そして捜索隊と俺たちは意気揚々と王都へと引き上げる。




 




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