テスト返却
翌日また学園へと戻る。1週間が経ちすでに休みも終わったのだ。
王都のテロでも学校は中止になることはなく、清々しいほどの平常運転だ。
王都と学園都市は近くても、騒ぎはどこか遠い別のところで起きているのだ、とでも言わんばかりだ。
昨日王城で別れたエリーもいつの間にか学園都市に戻ってきていて、今教室にいる。
こちらを見ると嬉しそうな顔をして、駆け寄ってくる。
「レオン!!」
「どうしたのそんなに慌てて?」
「慌てているわけじゃないもん。あのね、これからの国の方針が決まったよ」
「へぇ~。どんなふうに決定されたの?」
「ひとまずは防衛に専念するって。敵もいつまでもこういう攻撃を続けられるわけないってさ」
「そう…」
いったいどうなのかな?
被害は確実に少なくなるだろうけど… いつまでもこの攻撃を続ける可能性がないわけでもないしな。
まぁ、悪くはない案だろう。
「ねっ!? レオンもいい案だと思うでしょう?」
「そうね… 成功するといいね。ところでそれを一般人の僕に漏らしてもいいの?」
「何を言っているのよ… あなたほど一般人という概念からかけ離れた人はいないのに。」
「そうかもね」
「お母さんも言っていいって言っていたよ」
「それは…光栄ですね」
仲良く談笑をする。
具体的には旅行のこと、テロのこと、国のこと、それに貴族のゴシップなどだ。
エリーはこの会話にことのほか熱くなっていて、様々なことを話す。
途中で意味も分からないところでエリーの頬が膨れたり、語気が荒くなる。
察するにどうやら父親と7大公爵家の悪口のようだ。
7大公爵家のことはよくわからないものの、国王のことはよくわかる。
確かにエリーの言う通りめんどくさそうな人だと思う。
話の途中でヨゼスも加わってきたが、ヨゼスも一度防衛にすべての力を傾けるというのは賛成のようだ。
2人でこれからのことを熱く語り合っていた。
日本でこんなに国家間のことに熱く語り合えるなど、この年齢にはあまりいないのではないかと思う。
俺は中身が高校生なので話は余裕で理解できるものの、周りはキョトンとしている。
「エリー? そういう話はばらさないほうがいいんじゃないの?」
「えっ!? 敵もいないし、情報も漏れないでしょう」
不思議そうな顔で聞いてくる。
「いやっ、生徒の中に密偵がいないとも限らないし、相手は盗み聞きができる魔法を使えるかもしれない。それに脅されて仕方なく吐く人もいるかもしれませんよ」
「えぇっ、それじゃ今のは無しね」
思いのほか注目を集めていたのに気が付いたらしい。
周りを見て慌てて、話があったという事実を揉み消してしまう。
さすが王女様…
必死にエリーが隠ぺいに走っているところに担任のケインが入ってくる。
「お前らうるさいぞ。そんなに余裕でいいのか? 今日テストが返ってくるんだぞ」
あっ!? 忘れていた。あまりにもテロの衝撃が大きすぎて…
そういえばテストの後の採点でこの休みがあったのか。
根本のところを忘れていた。
周りの生徒は嫌なことを思い出させたケインにきつい目を向ける。
だがケインはたじろぐ様子を全く見せない。
ここでちょっといたずら心を起こしてみる。
「先生、余裕な人は騒いでいいんですか~」
「お、お前らしくないな。そんな風にしゃべるなんて初めて見たぞ。そっ、それで質問には答えられない。いっ、いや、つまり騒ぐな」
「僕、駄目だったんですか?」
「いや、完璧だ。ハイ終わり」
話が勝手に終了させられる。
「レオンがそんな風に話すなんて初めて見たわ」
「ふざけただけですよ」
「そうよね。一瞬耳を疑ったわ」
「先生をからかうな」
どこかほかのところに行ったかと思ったケインがいつの間にか後ろに立っていた。
思いっきり怒られてしまう。
ふざけすぎたかな? これならばまだ軽い部類に入ると思うのだが。
ケインが教室の前に立ち、今回のテストに対する講評をする。
俺を除く全員の顔が固くなる。
教室は奇妙な静寂に包まれ、誰かのつばを飲み込む音が聞こえる。
「えっと、そんなに固くなるな。それじゃ一位は当然だがレオン。非の打ちどころもない、いや何も言えない。二位はエリザベス。前回よりずいぶん成績を上げたな。よくやったな」
褒められたエリーが後ろで嬉しそうにしているのが想像できる。
なんだか陽気なそわそわした空気が感じられる。
ずいぶんとうれしかったようだ。
その間も講評は続けられる。
「四位はヨゼス。学力はエリザベスよりはるかにいいぞ。ただ他を…がんばれ」
隣のヨゼスは最初は嬉しそうにしていたが、後の言葉で思いっきり落ち込む。
どうしたらいいのかと自問自答をして、ぶつぶつとつぶやいている。
「それでこのクラスの総評だが、悪いな」
はっきりと言われて、空気が一気に殺気立つ。
「そう怒るな。事実だ。例年のA組より難易度は同じなのにはるかに平均点は低い。もちろん突出した点は除いているがな」
「ちなみにその突出した点を入れるとどうなるんでしょう」
1人の男子生徒が手を上げ、質問をする。
「点が1.2倍ぐらいになるな」
あちこちで驚きの声が上がる。
しかし低すぎではないだろうか?
俺の点が300点満点だと仮定すると、平均は40点ほどだろうか。
ケインが文句の一つを言いたくなるのも分かるような気がする。
だが、本来のA組は大部分が誘拐されていて、ここにいるのは繰り上がってきたものばかりだ。
もともとのA組より数段落ちるのは仕方のないことだろう。
だが、ケインは納得がいかないようだ。
教室をさっと見渡すと宣言する。
「お前らに夏休みは無しだ」
生徒たちは一瞬何を言われたのか理解できなかったようだが、言葉の意味理解すると一気に批判を始める。
やっぱり子供というのは夏休みが好きなようだ。いや大人も好きだが…
それが削られるというのは子供にとっては拷問の類に近いものだろう。
先生に思わず詰め寄る生徒までいる。
「お前らが駄目なのがいけないんだろう」
ぐうの音も出ない正論を言われ、全員が黙ってしまう。
しかし俺はどうなんだろう?
「お前らは基本的に魔法はまだいい。だが、筆記が壊滅的だ。夏休みは毎日図書館で勉強しろ。これは決定事項だ」
ぶつぶつと不平の声は上がるが、ここまではっきりと言われると文句のつけようがなく、しぶしぶと認める。
俺のことは明言をされていないが、もともと王都の家に帰るつもりはなかったし、ずっと図書館で過ごすつもりだったので問題はない。
ちなみにエリーもヨゼスも家には帰らないようだ。
テストの返却が終わると、三々五々生徒たちは自分の寮へと帰っていく。
俺も家に帰るために荷物をまとめ、席を立ち門の近くまで歩いていく。
「どうしたんです、ヨゼス?」
「!!」
びくっと体を震わせる、子羊みたいなヨゼスが俺の20m後ろにいる。
「教室から出た時からずっと後ろをついてきていましたよね?」
「ばれていたの?」
「当然。それで用事はなんですか?」
「いやっ、レオンに武術を教えてもらおうと思って…」
そういうとヨゼスは思わず下を向いてしまう。
「別に構いませんが、僕に何かできることなどあります?」
「エリザベスがもし武術を教わるならレオンがいいって言っていたの」
「そうなの?」
「おいおい、手伝ってやれよ。お前らは頭がいいから図書館で勉強しなくていいからな」
「先生…」
後ろにケインが立っていた。
「なぜここに?」
「エリザベスからお願いされたからな。レオンを説得しろと」
「別に嫌がっているわけではないのですが、先生が教えればいいのでは? それが仕事ですし」
「俺じゃ無理だった」
「ごめんなさい」
ヨゼスが頭を下げる。
「気にするな。それじゃレオン頼んだぞ」
「えっ!?」
そういうと手をひらひらと振り、反論する余地も与えてくれないまま去っていく。
「えっと、ヨゼス、仕方ないからやりますか」
「ごめん、僕ができないせいで…」
シュンとなっている。
「気にしないで」
結果として、夏休みはヨゼスの武術の訓練に費やされることとなった。
俺としてはひたすら自主練がよかったのだが…
だが人に教えるというのもいい経験になるかもしれない。
とにかく頑張って教えてみよう。




