母のやさしさ
「お母さん!!」
グッと前に飛び出して、抱き着きたい衝動を抑える。
今は食事中なのだ。迷惑をかけることになる。
「どうしたのエリー? 抱き着いてもいいわよ」
「!!」
少し気恥ずかしいものを感じながら、母のもとへ行き、その胸に抱かれる。
子供の頃の様に戻れ、気が休まる感じがする。
「エリー、お父さんとは?」
国王である父が威厳のない様子で聞いてくる。
最も父に威厳というものは全くないのだが…
変態の発言をする父を無視をして、母のところにずっと居座る。
娘に無視をされがっくりした父と、それをおかしそうに眺める母。
子供のころから慣れ親しんだ光景がそこにある。
少しの間懐かしい家族の団欒というものを楽しむ。
そこでやはりというのか、母が急の帰省について聞いてくる。
「それでエリーはどうして今回は急に帰ってきたの? 特に厳しく禁止されているわけでは無いけど、あまり長期休みを学園以外で過ごすことはないと聞くわよ。勉強も大変ですし、どの生徒も学園でひたすら勉強をしているよね…」
「勉強はできるし、今回も学年順位は2位だと思うよ。今回のことはお母さまに許可をもらいに来たの」
「許可を…」
母は何かを思案するような感じになり、軽くうつむいている。
「エリーより頭がいい学生がいるなど信じられん」
父が親ばかな発言をしているが、本当に勝てないものはしょうがないのだ。
出来れば自分でもレオンに勝ちたいと思うものの、一生かかっても今のレオンにすら及ばないだろう…
少しは現実を見てほしいといつも思う。
ふとそこで母が軽く顎を上げ納得をしたというような顔をする。
「その学年一位の人って… 確か神童だったけ…」
「そ、そうよ。いきなりレオンのことを持ち出してどうしたの。お母さん」
「仲いいの? 今回のこともその子と関係ある?」
痛いところを的確についてくる。
どうやら母は女の直感というもので、何となく察したようだ。
父はついて行けずにきょとんとしている。
それを母は横目で見て、クスリとかすかに笑う。
「それじゃ立ち話をしているのもなんだから、エリーも一緒にご飯を食べない?」
そういうと母は手を叩き小姓を呼ぶと、すぐに夕食の用意をするように命じる。
きっちりと父と母が食事をさらに所望したときに備えて、食事は大量に用意をされ、冷えることもないようにずっと火にかけられていたようだ。
すぐにホカホカの夕食が運ばれてくる。
長机の一番奥に両親は座っていてるのだが、空きがないため母のすぐ横に座る。
運ばれてきた夕食はいい匂いをあたりにまき散らしていて、食欲を大いに刺激する。
まちきれずに軽く食膳の挨拶をして、ナイフを手に取り食べ始める。
その様子を両親はほほえましそうに見てくる。
「それでレオン君はどうなの?」
「ゴホッゴホッ!!」
思いっきりせき込んでしまう。
「かっこいいんでしょう? そう評判だけど」
「別に顔で好きになったわけじゃないし。なんでさっきからそんなに気にしているの?」
「今好きって言ったわね。ふふっ、あのエリーが色気づくなんて。びっくりだわ」
「あっ!!」
鎌をかけられ、見事に引っかかる。
「もう何なのよ。わざとやるなんて。嫌らしいわよ。」
恥ずかしい気持ちをごまかすのと、自分の気持ちをばらされたということで慌てふためいてしまう。
「エリーに好きな人だと? それは認められん。エリーはすでに7大公爵家のうちのどこかの子息と結婚させるのだぞ」
父がいきなり置いてきぼりになっていた会話に復帰をする。
小さいころから決定していたような縁談だったけれども、急に現実に引き戻されたような感じがして、気持ちも萎えてくる。
ちなみに7大公爵家は貴族の中でも最高の権力者たちだ。
4つの家は武を担当し、残りの3つは文を牛耳っている。
今回の戦争での全軍を率いている副騎士団長のリンドバークも、この7大公爵のうちの1つの家アルブェン家の人間だ。
レオンの家のレンフィールド辺境伯爵も広大な領地を持ち、権力も侯爵並みにあるがさすがに公爵レベルとまではいかない。
おそらくレオンと結婚することはできないだろう。
気持ちがだいぶ沈んで来る。
「エリーをそんなことにはさせないわ。大丈夫お母さんが何とかするから」
「お母さん…」
「いつまでもお前はそんなことを。どうしようもないだろう」
両親の間に険悪なムードが漂う。
「もういいわ。この話はおしまいにしましょう。気分が悪くなる」
お互いにこの争いを不毛と思ったのか、それ以上その話題には触れられなかった。
「ともかくまだ、学生の間だけは認めてあげてください」
父も母の剣幕に押されたのか、しぶしぶとうなづく。
「それでエリー、今どのくらいまで進んだの?」
「まだ全然。告白してもいないわ」
「そういう時はぐいぐい押すのよ」
「でもレオンには彼女がいるらしいし…」
「何、エリーを袖にしているだと。許せん」
またもや口をはさんでくる父。
「あなたは黙っていてくださいます?」
「はい…」
母の冷たい目で一蹴される。
「そんなあきらめきれないものよね。でもいつか振り向いてもらえるから」
「うん」
「それで今回のお願いは?」
「そのレオンと彼女と3人で一週間王都を観光するの。いい?」
「そうね… 予定は組んでいるの? どこの宿をとるかとか、身の安全はどうするのかということね」
「あっ!? 全然」
「詰めが甘いわね。大丈夫よ。護衛は城のものを10人ぐらい連れていけばいいし、宿は王都の中心にある…確か豊穣の熊といういいところがあったわ。そこに行くといいわ。もちろん彼と相談してね」
「わかった!! ありがとう」
「どういたしまして」
そのあともこまごまとしたことを母と決めていく。
「それじゃレオンのところに使者をだすね」
「えぇ」
優しく微笑んでくれる母とそれと対照的な父の渋面。
母に礼を言って、食堂を出る。
随分と長い間話していて、ご飯もいつの間にか全部食べていた。
掃討にのめり込んでしまったようだ。
最後に母から声をかけられる。
「レオン君を連れてきてね。それと買い物はだらだらしないこと。いいね?」
「うん!!」
にこやかに返事をする。
これからの観光がとても楽しみだ。
学園にいるレオンには母が馬車と一緒に人を送ってくれるそうだ。
母にはいつも感謝してもし足りない。
あとはレオンがくるのを待つだけだ!!




