エリーの帰省
試験が終わると、先生たちは筆記の採点のため、授業を行うことができなくなってしまう。
そのためこの1週間はずっと学校は休みだ。
ちなみになぜ入学試験の時より、ただの試験の方が量も少ないのに時間がかかるのかと言えば、全学年が試験を受けるため、よりたくさんの時間が取られるのだ。
この1週間をどのように過ごすのかと言えば、セーネとエリーと共に泊りがけで1週間王都を観光するのだ。
俺たちは一度王都に行ったもののほとんど遊ぶ暇はなかったし、エリーは温室暮らしのため、ほとんど外に出て遊ぶことはなかったのだ。
そのためお互いに身近でよくわからないところということで王都の観光が決定したのだ。
ちなみにこの予定は試験が終わった帰りのホームルームの時に立てられた。
俺はほとんど親も世話を放任していて、身軽なもののエリーはそうはいかない。
親に相談するとは言っていたがおじゃんになる可能性もある。
明日の朝にどうなるか王城から使者がくるのだ。
そのためエリーは親を説得させるとのことで、夜なのに王都に帰っていった。
どっちにしろエリーがいなくても観光には行くため準備は万全に調えておく。
「楽しみだね。レオン」
「そうね。宿はどうしようか?」
「あなたの言うエリーが来るなら宿は最高級にしないといけないけど、もし来ないならそれなりにいい宿でいいわね」
「そんなエリーが一緒に来ることにつっけんどんにならないでよ。もともとこの観光計画はエリーが立てたのですから」
「なっていないわよ。だけどレオンと2人っきりがよかったわ」
「いつか2人でどこか行こうか」
「約束よ」
1週間分の着替えや、下着に旅費などを準備して、アイテムボックスに入れていく。
「レオンのアイテムボックスは便利ね」
「いつも重宝しているよ」
アイテムボックスのおかげで荷物を手に持たなくても済み、とても身軽な恰好で行ける。
手早く観光の準備が終わった後に、護衛やメイドさんに明日からしばらくいなくなることを告げると、護衛はともに行くと言い、メイドは弁当の準備をしようとするが同行者が王女ですべて向こうが用意してくれるというと、おとなしく引き下がる。
来なかった場合は改めて頼むことになるが…
レオンと一緒に観光に行くという計画を立てた私は急いで馬車を用意させて、学園の寮から王城へと帰る用意をする。
急の帰宅ということで寝耳に水だった護衛達は慌てふためくも、そんなのは知ったことではない。
レオンとの観光の方が大事なのだ。
どうやらレオンは彼女と一緒に行くと言っていたが、今回の観光でその彼女より私を好きになってもらうという決意を胸に馬車の中で揺られながら帰る。
私が一体いつレオンを好きになったのかよく覚えていない。
だけど初めて会った時のことはよく覚えている。
それは入学試験の時でこれから魔法の試験を受けようという時だった。
周りのだらしない貴族たちの中でふとレオンが目に留まったのだ。
かっこいいなと思う前に足はそちらの方向へと向いてしまう。
ちなみにその時は恋愛感情はなかったはず…
レオンに話しかけるも頭は真っ白になってしまい、でもよく見せたいという一心で、本当の心を知られまいとするあまり乱暴な口調になってしまう。
相手が自分をどう思っているかわからないがその時レオンはそこまでいい感情は持たなかったはずだ。
今でもあの時の自分を殴りたいくらいだ。
相手はあきれながらもそれでも親切に返してくれる。
たわいもないことを話して、どこのだれかということを探り、調べていく。
ちなみに私の正体は明かさない。正体を明かした結果おべっかを使いすり寄られる姿を彼にしてほしくなかった。
私は王城でも常に周りの人から美しい、頭がいい、十年に一人の逸材だと言われほめられ続けた。
だからそんな反応をしない彼に興味を持った…
入学試験の結果は結局私は3位だった。
ウキウキしていた心が急速に冷めるも、一番上にある名前を見て、なぜか知らないが心は温かくなった。
そしてなぜ彼が私にたいしてあんなぞんざいな扱いだったのか理解をする。
私など眼中になかったのだと。
入学式では若干敵意のこもった眼になってしまったがしょうがないだろう。
それからは一生懸命頑張った。
少しでも追い付けるようにと。
周りは無理をするなと。
それでも壁は頂上どころか、足元ですらようやく見えるというレベルだ。
彼には敵わない。
初めての心からの敗北を味わった。
その時に恋愛感情の芽が芽生えたのだと思う。
それからずっと彼の傍で過ごす。
恐ろしい誘拐の時も、どんなピンチでも常に冷静沈着で、堂々としていて、余裕のある彼に芽はどんどん育っていく。
彼の姿を無意識で目で追ってしまい、話すときも目と目を合わせられなくなる。
彼の姿を見ると、胸がポカポカとしてくる…
「もうすぐ、王城です」
御者の声に思考は中断され、体の火照りも落ち着いてくる。
今回は急な帰省ということで城は大慌てになったが、大したことはないと伝えている。
そのおかげか、盛大なお出迎えもなく、見ているのは夏の夜空の星のみ。
城の裏からひっそりと馬車は入っていく。
懐かしい匂いのする城の通路を歩く。
ほんの短い時間しか城を開けていなかったのに、こんなに懐かしいとは思いもしなかった。
城を守っている衛兵は私の姿を見ると、急に固まって敬礼をする。
これも懐かしい景色だ…
しばらく歩き、城のてっぺんにある自室にたどり着く。
4か月ぐらいぶりに入った自室は、最後に出て行った時と全く変わりがない。
それなりに長い間開けていた部屋は塵一つ積もっておらず、清潔に保たれている。
付き添いの女官にタンスから部屋着を取り出してもらい、旅行用のきつい服装から白と同じ匂いのゆったりとした服に着替える。
気分もだいぶリラックスできて、布団の上に寝っ転がる。
「長いようで短かったな…」
随分学園では肩を張った生活をしていて、体や精神はかなり疲れていたようだ。
このまま眠ってしまいたいような気分に襲われるが、親に学園での報告と旅行の許可をもらいに行かないと行かないのだ。
パンっと頬を叩き、気持ちを引き締めなおす。
女官を呼び、訪問するということを両親に伝えさせる。
女官は軽く頭を下げ、それを伝えに部屋を出ていく。
しばらくその女官が返事を持ってくるまで、ベットの上をゴロゴロとしている。
自分でもなんか心が浮ついているような感じがしないでもない。
目をつむると、暗い青色の顔を持った、非常に整った顔立ちの男の子の姿が瞼に浮かび上がる。
「許可をもらいました。両親はただいま食事をとっておられます。どうぞ食堂にお出ましください」
いつの間にか戻っていたらしい女官が告げる。
「わかったわ。すぐに向かうわ」
久しぶりに両親と会うからなのか、何とも言えない気持ちになる。
食堂の扉が見えてくる。
扉を軽くたたくと中から応えが聞こえる。
小姓が豪華な扉を開けてくれるので、そのまま中に入る。
部屋には縦に長い机が置かれていて、奥に小柄で豊満な男と、妙齢の美女が食事をとっていた。
「久しぶりね、エリー」
「お母さん!!」




