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武術の試験。またもや…

 今日はいよいよテストの日だ。

低学年の生徒は今日一日を使い、テストが行われるのだ。

会場はいつもの教室で行われ、開始時間もいつもの授業の始まる時間とほぼ同じ時間だ。

どの生徒もやる気にみなぎっていて、学園全体が活気に満ちている。


「私、今回は勝つわよ」


 後ろから目の下に濃いクマを作ったエリーが自信に満ちた声で言ってくる。

かなり、ふらふらとしていて歩きも不安を感じさせるものだった。


「ふらふらしているし、眠そうだけど大丈夫です?」


「そんなに眠そうかな? 昨日徹夜をしたのだけど」


「え!?」


 驚いた声をあげたのは隣のヨゼスだった。


「そんなにやっていたの? 僕は先に寝ていたからエリザベスが全然眠っていないなんて知らなかった」


「ヨゼスは早すぎよ、2時に寝るなんて。今回は私が主席を取るから。それでレオンはどのくらい勉強したの?」


「まったくしていませんね」


「「え!?」」


 目を見開き驚きの表情をされる。


「馬鹿なの?」


 馬鹿を見る目で言われる。


「いや今回も勝ちますよ」


「そう、それなら賭けよ。まったく勉強していないなら私が勝つわ」


「たいそうな自信ですね。それで賭けの内容は?」


「えっと、負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くということはどう?例えば無理やりキスをするとか…」


言葉の最後は尻つぼみになり、顔を赤くしながら言われる。


「別にいいですよ」


 負けるつもりはないので賭けはなんでもありの方がありがたい。

特に今はエリーに何かを頼みたいことはないが、そういうことをする方がテストにも緊張感が出るだろう。


「エリザベス。そんなこと言って、負けるのじゃないの?」


 ヨゼスがエリーの何でもあり発言に不安を覚えているようだ。

しかしキッとエリーににらまれ、いつも通りにすごすごと退散する。

教室でたわいもない話をしながら、テスト開始までの時をつぶす。


教室にケインが入ってくる。


「それじゃ、まずは武術の試験から始める。全員闘技場に移動してくれ」


 40人全員でぞろぞろと闘技場まで向かう。

闘技場に入ると、真ん中にどうやら人が1人立っているのが見える。

これは試験官がたくさんいた入学式の時と大違いだ。

ケインが彼のところまで行き、二三言言葉を交わしている。


「試験は彼が担当してくれる。しっかりやれよ」


 そう言って闘技場から出ていく。

取り残された生徒の不安は大きくなる。


「そんなびくつくなって。取って食いやしないぜ」


 その先生があきれたような声で発言する。

見ると彼は入学試験の時のいかつい先生だった。

意外にも怖そうな外見に反して、声色は優しい。

どうやら彼が試験の採点を行うらしい。

彼の促される声により、出席番号が早いものから並んでいく。

俺は出席番号が一番初めなので列の一番初めに並び、試験が始まるのを待つ。





 クラス全員が並び終わったところで、試験が始まる。


「それじゃ、始めるぞ。一番初めのやつ出てこい」


 俺が前に進み、マジックポーチからバルディッシュを取り出しながら、彼のところまで向かう。

周りのものは闘技場の端に身を寄せ、試験の行方を気にする。


「お前は!!」


 彼が驚愕の顔になる。

声が上ずっている。

身体が震え、じりじりと足が後ろに下がっている。


「くっ、来るなら来い」


 その声に従い、フェイントをして気を逸らしたすきに、後ろに回り込み首に刃を当てる。


「降参だ!!」


 1秒もかからずに、戦闘を終了させる。


「ありえないわ」


「先生が一瞬で…」


「これほどとは…」


 周りにいる生徒たちから驚きの声が漏れる。


「うっ、化け物かよ」


 負けた衝撃から復帰した試験官が言う。


「一応ハロルドさんには全戦全敗ですけれどね」


「お前たち2人ともおかしいからな」


 採点で満点をもらい、闘技場の端に戻る。


「次はエリーですよ」


「あっ、ありえないわ…」


 茫然自失としていて、俺の声が聞こえていないようだ。


「次のやつは早く出ろ」


「もう始まりますよ」


 肩を軽くたたき、現実に戻す。


「えっ!? もう」


 エリーは急いで闘技場の真ん中までスタスタと走っていき、そこで試験が始まる。

当然のごとく、エリーもアイテムボックスを持っていて、そこから剣を出して試験官に切りかかっていっている。

試験時間は1人当たり5分与えられ、そこでどれほど動けるのか採点される。

エリーの剣の質はかなりいいものも正直なところ振り回されてしまっている感がある。

そのため結局エリーはまともに入れたのは3発のみだ。


「いつもよりかなり動けたんだけど、あなたと比べるとおこがましいほどね」


「そうなのですか?」


「レオンから見てどうだった?遠慮しなくていいから」


「そうね… 動きが単純に鈍いし、相手の動きに振り回されてしまっている気がします。はたから見ると遊ばれている感じですね」


「そう…」


 エリーの声がかなり暗くなっている。

このままにしておくとかわいそうなので励ます。


「エリーみたいな可愛い子は、後ろで守ってもらっている方がお似合いですよ」


「!! ありがとう!!」


 先ほどに比べ声がかなり明るくなっている。

顔も赤くなっていて、口端が緩むのがやめられないらしい。

ぼんやりとしてしまい、夢想の世界に入っているようだ。




「レオンってすごいんだね」


4人目の生徒が試験を受けているのを見ていると、隣からヨゼスに声をかけられる。


「藪から棒にどうしたのです?」


「エリーってねクラスでは負けなしなんだ。それよりすごいなんて」


「へ~、エリーが… それは初耳でしたね。随分とすごいんですね」


「うん。ファンもいっぱいいるしね」


「エリーにファンがたくさんいるのか。本当に人気があるんですね。ファンがいるなんて彼女ぐらいのものではないですか?」


「そうかな~、レオンもいるにはいるけどね…」


「??」



 確かに生徒たちが次から次へと試験を受けているのを見ると、エリーは頭1つ抜けているようだ。

他の人は傷を与えることすらできていない。

俺の感覚がいかに狂っているのかわかる。

どうやら俺が気が付かないレベルでハロルドさんは戦闘のスピードを上げていたようだ。

そのせいで、さらに体感スピードが遅く感じるようだ。



 次から次へと試験が行われ、ついにヨゼスも受ける。


「不安だな~」


「頑張りなさいよ」


 現実に戻ってきたエリーがヨゼスに発破をかける。


「努力します…」


 落ち込んだ様子で試験を受けに行く。


「どうしてあんなに意気消沈しているのですか?」


「あれっ? レオンは知らなかったっけ? ヨゼスは武術がダメなんだよ」


「そう言えばそんなことを言っていたような気もしますね」


「見ていてね」


 ヨゼスが勇ましい気合とともに切りかかっていくが、その剣はヒョロヒョロで当たっても大したダメージを与えられそうにない。

いや、その前で派手に何もないところで転んでしまう。

そして手から剣が飛んでいき、この動きを予測してなかった試験官に一発当たる。

それに対して、周りにいる生徒が失笑をする…


「やめなさいよ!!」


エリーがすごい剣幕で切れる。


 その剣幕に周りで笑っていた生徒も急に黙り、辺りはしずかになる。

そのため中央で何を言っているかが聞き取れる。


「ほら、あと3分あるぞ。頑張れ」


 試験官が一生懸命励ますも、かなり意気消沈している。

再び剣を取っても、その動きは鈍い。



 結局何もできないままに残りの3分も過ぎる。

ヨゼスががっくりとして、戻ってくる。



「全然だめだった…」


 半べそをかき、相当に応えてしまっているようだ。


「気にしない。すごかったよヨゼス」


 一生懸命エリーが励ましているも、それは逆効果になってしまっている。


「ヨゼスは筆記があるからそこで頑張ればいいよ」


 こちらもそっとフォローする。


筆記という言葉でヨゼスもだいぶ落ち着いたようで、次第に目に生気が戻る。





 武術の試験はそのあともずっと続き、終わるころには日も天の真ん中まで登ってきている。

午後には魔法と筆記のテストが行われる。

試験はまだ始まったばかりだ。


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