闇の暗殺者
黒い2つの影が宙を舞う。
たった今体を上下に分断した魔法使いの体だ。
さっきほどの熟練した戦闘員ではなく、普通の強さに感じられた。
大した手間もかけずに終わらせる。
「興がそがれたな・・・」
何となく一方的に殺すというのは不快感をもたらすものである。
戦うにしても楽しいのは対等な相手とだけだ。
何とも言えない気分になって、戦いで散らばってしまった荷物をすべてまとめ、ご飯はあたりに散乱してしまったため、また作ることをあきらめ移動を再開する。
とぼとぼと腹をクルクルと鳴かせながら歩いていく。
どうして貴族で生まれつきイージーモードであった自分が食べたいものも食べられず、暗殺者から命をつけ狙われ、王都までの長い道のりを一人で徒歩で行かないといけなくなったのかをぶつぶつ毒を吐き呪う。
前回の襲撃と言えない襲撃から1時間もしないうちにまた襲われる。
前回と違う点はと言えば複数になったことぐらいだろう。
全方向から魔法が放たれるものの、直接的で悪く言えば単純な攻撃だ。
軌道も素直で読みやすく避けるのにそこまで手間を必要とせず、瞬く間に3人とも葬り去る。
「終わったか」
ふぅとため息をつきその場に腰を下ろす。
アイテムボックスから水を取り出し、乾いたのどに流し込む。
乾ききったのどに心地よい冷たさを与えてくれる。
火照った体も休息に冷えていく。
「これはどっちなんだろう」
先ほどから疑問に思っていることがある。
この前の襲撃で襲ってきたのはいずれも最精鋭と言えるレベルの兵だったが俺に負けたということも本国に伝わっているはずだろう。
それにもかかわらず、間断なく襲ってくる。
何かあるに決まっている。最も2つしか考えられないのだが…
1つは俺がどこにいるかわからず広範囲に密偵を放っている場合。もう1つは俺を疲れさせようとしている場合だ。
どちらの手を相手が取ってきているかによって俺が取る行動も変わってくる。
前者ならば急いで王都に戻らなければならないし、後者なら無駄に急ぐより体力の温存を中心にして進めていかなければならない。
どちらが最善手なのかということなのだが、これはグダグダと考えていてもしょうがないので直感で決めなければならない。
自分の直感に従い、急いで帰ることに決める。
外れる可能性もあるのだが今考えていてもしょうがないだろう。
荷物をきっちりとまとめ、今までのだれた歩みをやめ小走りに王都まで走っていく。
道なき道を軽く走り、いや普通の人から見れば全力疾走にも等しい距離で、当初の予定の半分ほどで王都の近隣の村までたどり着く。
ここまでくれば王都は目と鼻の先だ。
一安心といってもよいだろう。
村で広めの宿に泊まり、暖かい食事をとりゆっくりとする。
急ぎの長旅で疲れた体を回復させようとする。
風呂などはいくら高級宿と言っても、そこら辺の村にはついているわけないので入るのは家に帰ってからになるだろう。
からだの真から疲れは抜けないが、ないものをいつまで言っていてもしょうがない。
お世辞にもうちのものほどいいとは言えない硬い布団でゆっくりとした久しぶりの休息をとる。
翌朝久しぶりの心地よい気持ちで目を覚ます。
今までの地面に直に寝るのとでは、全然回復度も違う。
さっぱりとした気持ちで出かける準備をする。
もう王都はすぐそこなのだ。気張らずにゆっくりと行くことにする。
フンフンと鼻歌をしながら歩いていく。
遠くにうっすらと王都の影が見える。
周りはのどかな田園風景で、とても今が戦時中などとは思えない。
俺のところは意外に早く反乱の鎮圧が終わったのだがほかのところはどうなのだろうか?
村と言ってもお互いが離れていて、状況もよくわからないのだ。
かくいう俺も今までは村にぶつかることもなくずっと野宿だったので状況はよくわからない。
ちなみにこの村では、反乱は王都に近いこともあり、すぐに鎮圧されたようだ。
村の中をいかめしい兵士が2,3人歩いているのも昨日から見かけた。
グサッ!!
脇腹に短剣が刺さる。
直感で心臓への直撃をさけ、ずらしたもののかなりの重症だ。
「ガハッ」
口から吐血する。
どうやら内臓器官の一部を傷つけてしまったようだ。
心臓を避けたもののそれで膵臓を傷つけたとなったら目も当てられない。
膵臓は心臓、肺の次に当てたくない器官だが体の上部にある器官だし大丈夫だろう。
もし傷ついていたら体が融けて、冷静に考える余裕などなかったはずだ。
しかし、回復系のスキルが欲しいな・・・
傷ついたまま戦うのはしんどい。
「生きていたか。俺の攻撃を避けたのなんてお前が初めてだぜ」
俺を刺したらしい血まみれの短剣を握った小柄な黒ローブの男がケタケタといやな笑いをする。
俺の心に急に殺意が沸き起こる。
「おい!!」
彼がサッと手を上げると周りからわらわらと黒男たちがゴキブリみたいに湧き出してくる。
「ククッこれで終わりだ」
「何が終わりだ。終わっていないぞ」
「? 強がるな」
言ってみたはいいものの短期決戦ではないとまずそうだ。
目の前の男を鑑定する。
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名前 レイ
種族レベル 31
種族 人間
スキル 隠密
装備 影蜘蛛のローブ
鋼の短剣
魔封じの腕輪
アイテムボックス
才能 2
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そこまで強くはないものの完全な暗殺者スキルだ。
俺が気づかなかったもの隠密スキルによるものだろう。しかしレベルがないということは神からのスキル。
おそらくこれも転生者・・・
そうでなけば俺が人の気配に気が付かないということはあり得ない。
神様が与えたスキルなだけあり、刺される直前まで気が付かなかった。
避けたのも分かって避けたわけでなく、本能が勝手に体を動かしただけである。
英雄レベルのスキル以下では、何が起きたか理解することは不可能だっただろう。
神様謹製なだけある。
これほどの隠密は初めてだ。
目の前にいても、今にも見失いそうなほどだ。
だが正面衝突には弱そうだ。
攻撃は点には強そうだが、面には弱そうだ。
今まではスキルで何とか出来たのだろうが、俺はそうはいかないぞ。
「お前たち、俺の代わりにやれ」
1人だけ他人の陰に隠れ指示を出している。
俺の不敵な笑みを見ておじげついたようだ。
「何をしてる。相手は手負いだぞ」
彼は苗字が一文字しかないことから平民の出なのだろうが、スキルの力で成り上がってきたのだろう。
堕ちることの恐怖を知っている雰囲気だ。
ククッ!!
(スキル強奪!!)
【隠密を奪いました】
奪った後は、後先のことを考えずありったけの魔力を解放する。
幸いにしてここは平地だ。
人がいるということもないだろう。
自爆しない程度に魔力暴走を発動させ、それに莫大な魔力が掛け合わされる。
「不味いです!!」
焦ったような敵の声。
だが遅い。
「「「「「「!!!!!」」」」」」
半径数十メートルに及ぶ純粋な魔力の破壊。
1人の青い髪の子供の姿を残して、すべてを消し去る。
「ううッ!? ここは?」
ずきずきと頭が痛み体も引き裂けそうだ。
自爆による全身の筋肉痛に魔力不足による頭痛だ。
動くことは無理そうなので体を横たえ休める。
涼しい風が頬を、傷を優しくなでまた眠りにと誘い込む。
「おい、誰か倒れているぞ」
「すぐ助けろ!!」
「ここは一体?」
人の話す声が聞こえる。
声の主たちは2.3こと言葉を交わし、俺を担ぎどこか平らなところに乗せる。
そして意識はまた遠ざかる。




