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初戦

 時ははるか1週間前に戻る。

ハルヴェイの平地の北に陣を取っている軍の顔はみな明るそうだ。

なぜならこれは勝利を約束されたような戦争で、末端の兵も敵地での略奪のことを考え、みな浮足立っている。





 軍の一番中央にある大きな天幕では、耀げな笑い声が聞こえる。

「副将軍、奴らも馬鹿ですな。数をはるかに凌駕するわれらに歯向かうとは」

「まったくだ。おとなしく、降伏勧告でも受け入れていればよかったものを」

「はっはっ、思いっきり搾り取るだけ取って後は放っておいたのにな」

どの声も苦戦をまるで予想しておらず、勝った後のお楽しみに顔を醜くゆがませている。

開戦までおよそ1時間。







 

 いよいよ戦争がはじまるとなると、浮足立った気持ちも殺されるかもしれないという恐怖で顔は引き締まっていく。

先ほどのお互いの降伏勧告は意味はなさず殲滅戦争へと移行する。







 ローレンシア王国軍は武装をした騎兵を前面に押し立て、あとから歩兵の軍団が突撃をするための戦陣を。

デスペリアス王朝は前に全身がすっぽりと隠れるほどの盾を持った兵士を配置して、後ろから魔法使いの部隊が一斉に掃射するために今か今かと待ち構えている。


 


 ローレンシア王国の方は突撃を意味する合図が、デスペリアス王朝の方は構えなおしの合図が出て、いよいよ戦いの口火が切って落とされる。



 


 すさまじい勢いで突撃をしていく、騎兵部隊にそれに追従する歩兵軍団。

「ローラン!! ローラン!!」

ローレンシア王国初代国王の名前からとられた特有の掛け声があたりに響き渡る。

何万もの軍勢が一斉に動き始めることにより、あたりは地震が起こったかのように震え、鈍い重低音を立てる。

軍馬の蹴った蹄によりパッパッと土埃が舞い起こり、威圧感はさらに何十倍にも増す。



 もうもうと舞う土煙の先頭が魔法使いの魔法の射程の範囲内に入ったとたん、おびただしい数の魔法が上空から雨あられと振ってくる。

轟轟とうなりを立て振ってくる魔法の大部分は火魔法だ。




 空は火の明るさにより、一気に夕方のような幻想的な風景にする。




 魔導王朝側が火魔法を用いることの理由の1つとしては、馬に対する恐怖心を巻き起こさせるためだ。

人間は幾分火の恐怖に耐えられるとはいえ、馬にそれを強要するのは無茶だ。



 現に上空から雨あられと圧倒的な熱量をもって振ってくる火山のような火弾に馬は恐慌状態を起こし、乗り手を振り落としあたりに逃げ散っていく。

騎手の必死になだめようとする声も聞かず、駆けまわる馬は火にあぶられ、あたりには馬の高いいななき声が響き渡る。

ジュウジュウと肉の焼ける音とともにあたりには肉の焼ける異臭が満ちる。

馬だけでなく、人もかなり火弾にあたりうずくまりうめいている。




 しかし、騎兵の勢いが緩んだすきにも火は容赦なく上空から降り注ぐ。

あたりの気温はすでに何度も上がり、灼熱地獄のような様だ。






 先を行く騎兵隊のさんさんたるありさまに、後続の歩兵の走りは鈍るものの、小隊長クラスのものによるいらだった叱咤でそのまま突撃をする。

灼熱の大地を乗り越え、突撃してくる様はまさに敵にとって恐怖を呼び起こすものであっただろう。



 




 いくら桁違いの魔法で一斉掃射しようにも数の差は埋めがたい。

突撃してくる歩兵は半分近くを失いながらも敵の前衛とぶつかり合う。

この戦い始まって初めての金属と金属のぶつかり合う音が聞こえる。



 あとからあとから津波のように押し寄せてくる軍勢を必死で受け止める壁の部隊。

しかし、盾の後ろから降り注ぐ魔法はたやすく、歩兵の命を奪っていく。




 先頭の方の歩兵はすでに軍の体をなしていないものの、戦況を理解していない後ろから押される圧力により半狂乱になりながら武器を振り回している。










 戦いが始まりすでに何時間も立つ。

その間に死んだ兵士の数はおよそ2~3万。

大部分はローレンシア王国のものだ。

だが、戦いが長引き魔法使いの魔力も切れ始め、魔法攻撃による圧力も徐々に弱くなっていく。

最前線の盾兵もすでに何時間も抑え続けているものもいるため、気力、体力ともに枯渇している状況だ。

死者、負傷者の数も次第に同じぐらいになっていく。






  先ほどの魔法による攻撃で半壊をしてしまった騎兵部隊は、歩兵の稼いだ数時間のうちに気がふれたものを除き、また再編成をし直され、前線に赴くことになる。






 

 前線の敵の圧力が弱くなっていることを見抜いたローレンシア王国軍の幹部は、すぐさま騎兵に再突撃の命令を下す。

中には悲痛な顔をしているものもいるが、逆らえず強制的に組み込まれる。





 「突撃!!」

再度の命令によりまた突撃をする騎兵隊。

先ほどのような圧倒的な魔法はなく、大部分は無傷のまま盾兵の前線にぶち当たり、突き破る。

初めてローレンシア王国有利に傾いた瞬間だった。

一度食い破られたところに兵が殺到し、中で魔法使いが次から次へと殺される。







 よし

ローレンシア王国副騎士団長のリンドバークは思わず頬が緩むのが感じられた。

これで戦争に勝ったと!!




 だが、暗黒魔導王朝はその真髄を見せていない。

彼らがなぜ暗黒と国の名前の初めにその名前を冠するのか。

今までの戦いではただの魔導王朝になってしまう。

後ろ暗いことなどまるでやっておらず正々堂々と戦っていたからだ。

暗黒魔導王朝の国力に釣り合わない傲慢不遜の態度の理由が明らかになる。

ついにその闇の牙をむきだす!!






 リンドバークは歩兵部隊のの体制を整え、再び突撃させようと合図を出そうとする。

「伝令が来ています。いかがしましょう」

「通せ」

若干いらだった声で返事をする。

これからがいい時だというのに。

まさに目の前でお菓子をとりあげられた子供のようにムスッとする。

「失礼します」

「要件は何だ?」

「はっ、すぐに国元に退却せよとのことです」

「なんだと?これからがいい時なのだぞ」

思いっきり怒鳴ろうとするも、目の前の男がただの伝令ということを思い出し、こらえる。

「どうやら国内で平民が各地で暴動を起こしています。その鎮圧のため一時的に軍を戻してほしいとのことです」

「内乱だと!!」

一瞬目の前の男が何を言っているのかが彼には理解不能だった。

「レオンとかいうガキのおかげで、平民も今回の件は不満なしに1つにまとまっていたはずだぞ」

「私ごときには・・・」

口ごもる伝令。

まるでこんな情報を届けないといけなくなった自らの不運を嘆いている雰囲気だ。

「このいい機会で、小癪な」

ギリッと歯を鳴らすと立ち上がり

「退却の命令を出せ。撤退だ!!」と叫びどすっと座りなおす。

額にはしわが寄っており、彼の不機嫌さがよくわかる。

小姓もとばっちりが飛ぶのを恐れ誰も近づこうとしない。





 急な撤退命令に兵は混乱するもおとなしく引き下がる。

直前まで攻め立てていたこともあり、大きな反撃も食らわず速やかに撤退する。






 戦場から主に十数キロほど下がったところで休息をとっている。

兵士たちの不満も高まっている。

これからがいい時で、また同じことを繰り返すならば死ぬのは自分かもしれないからだ。

魔法使いの魔力が戻ったのならばすべて元の木阿弥だからだ。




 「諸君、聞いてほしい。今回我々は極めて不本意な撤退をした。いぶかしがるものもいると思うので率直に言おう。今回の戦争を前に国内各地で反乱がおきた。それを鎮圧するために我々は一度撤退をする」

これを聞き多くの兵がどよめく。

彼ら自身この反乱は予測をしていなかったのである。

自分たちは今回はいつもの不満たらたらの徴収と違い、意気揚々と自発的に参加したものも多かったのだ。

家族もそれを理解し、不満など特に持っていなかったはずなのにと。

またある者は自分の家族に対し、剣を向けざるを得ない可能性を予期し、面を暗くしている。




 きわめて暗いオーラを発し、国元に撤退をするローレンシア王国軍団。

彼らの表情は上から下まで一様に暗い。







 この戦いは暗黒魔導王朝の圧倒的勝利に終わり、周辺諸国を大いに驚嘆させることとなる。

世の人々はいう。「ハルヴェイの奇跡」と。

それが偶然か必然かいったい誰が知るのだろう。




















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