レイモンド
長々と続いた事情聴取も徐々に終わりの方に近づいてくる。
大部分の貴族の息子も戻ってきたおかげなのか謁見室は雰囲気がすごく明るくなっている。
何人もの貴族が俺のところにお礼を言いに来て、感謝の言葉を言ってくる。
助けられた貴族の子息もみな変な目で見ることなく、素直にお礼を言ってくる。
逆に今回子息を助けられなかった数少ない貴族たちにしろ、いやな顔を1つせずに「次に期待をする」とまで言ってくれる。
逆にうまく行き過ぎて、怖いぐらいだ。
不満をうまくそらすようにした自分が言うことではないのだが。
「まさか、これすべて計算したことではないだろうな?」
あきれたような声でケインが聞いてくる。
すべて計算したことなのだが…
「また聞くの?」
「いや初めから全員を助けられないと分かっていて、貴族と平民の割合を調整した挙句、戦争でこちらが不利にならないように都合のいい英雄の像を作り、平民からも貴族からもどこからも不満が出ないようにしたんだろう。お前自身にも不満が向かないようにして、助けられなかった貴族の親にも次があると期待をさせて、そして自分を象徴にした挙句、全員に目標を示し、一致団結させるとはね。どうせ戦争になることもすべて把握していたんだろう」
鋭いな!!
そこまで読み取られるとは意外だった。
「あなた人気者ね」
「おっ、エリーか」
「その呼び方はやめて!! お父さんが勝手に言っているだけだから」
頬を膨らませプンスカと怒ってくる。
「別にいいじゃない。エリー」
「!! もうういいわ」
「はぁ~」
「なっ、何よ」
急におどおどとし始める。
気まずいと思っているエリーは話題をそらしにかかる。
「ところで戦争はどう思う?」
「たぶん大丈夫だろう。こっちは大国。向こうはただの小国家だぞ。負けるはずがない」
「当然よ先生。勝つのは当たり前かもしれないけどどれくらいかかるのかしらね?」
「1か月ぐらいで終わるんじゃないかな」
かなり慢心しているようだ
歴史上で大軍が少数の兵に負けたことなど数あるのに勝利は自分たちの頭の上にあると信じて疑っていない。
「…」
特になんといえばいいのかわからず、黙りこくる。
「ねぇ、何か言ってよ。不安になるじゃない」
「お前がそんな顔をすると不安になるぞ」
「まだ、勝つのは確定ではないですよ。…それに…」
こっちは相当苦戦するはず…
いよいよ会議が終わりに近づき様々な重要事項も決定される。
もちろんそんなのは平民が知っていいことではないので生徒たちは早々に帰され、残っているのは貴族の生徒たちのみだ。
そもそも平民までもが王城に入れたこと自体が、今回の誘拐を国が重く見ているということだ。
「よくやったぞレオン。これで家の注目度も抜群に高くなるし、ひょっとしたら昇進もあるかもしれん」
「…」
昇進昇進のことしか言っていないような気がする父親。
昇進以外の話題をしたことがあっただろうか?
子供たちも自分の権力が上がるための道具ってことか…
しかし父とは言えこんな役立たずは利用できないしな…
アイテムボックスをくれたりしたが、基本邪魔なばかりだ。
会議の内容は主に戦争のことだ。
今回の会議では戦争の日時、場所、編成などだ。
今回の初戦を始めるのは当然のごとく、国境線のところの平野だ。
俺たちが幽閉されていた牢獄のある森の隣にあるなだらかな丘陵地帯が広がる、ハルヴェイの平地、というところだ。
開戦はおよそ一か月後で軍備、兵糧の備蓄、武器の手入れ。そして各地から軍隊を集結させている。
軍隊の予定とされている数はおよそ18万。
編成は歩兵12万人、騎兵4万人、魔法使い1万人、輜重部隊、密偵、偵察部隊および斥侯5000人に貴族たちで編成された騎士4000人、魔法騎兵1000人という編成になっている。
歩兵は平民から徴収されたメインウエポンは槍で編成されている。
言いたくはないが雑魚だ。
騎兵は貴族の私兵で彼らが今回での戦争の重要な点になるだろう。
輜重部隊、密偵、偵察部隊は食料や武器、兵器の運搬に相手の情報を探るためのものだが、これでも少ないと感じるほどだ。
魔法使いは学園の出身者や貴族で構成された部隊だが、相手はこれが本職なので活躍できる機会は少ないだろう。
魔法騎兵は武術に魔法どっちもがトップレベルのものだけがなれる精鋭中の最精鋭だ。
数は少なくとも、1人1人が一騎当千の化け物たちだ。
この世界は個人によって強さに大きな違いが出てくる。
才能があるかないかだけで強さが決まるのだ。
この世界の最強クラスのものなど1人で何万もの敵を無傷で打ち破るなどかなりおかしい。
覇神オラゴン、建国皇帝ミルドガルムス1世、国滅ぼしクルトゥク、享楽神ディオニス
最もそういうのは伝説クラスのものなのだが…
会議はお開きになり、俺は王城から出ていく。
俺の父は貴族通しの付き合いがあるだのなんだので別々に帰ることになる。
馬車はすでに王城についたときに、学園都市から護衛兼御者の1人付きで1台よこしてもらっている。
早速迎えに来てくれた馬車を見つけ向かおうとするがふいに後ろから声をかけられる。
「こんにちは、レオン君」
眼光が鋭く目に深い知性を宿し、只者ではなさそうな雰囲気のおじさんだった。
おじさんといっても太っているわけでなく、すらりとした長身の男で全身は鍛えられた鋼のようだ。
隣に小姓2人を従えていたが
「下がってよいぞ」
「「そんな!! 閣下の身はたった1つですぞ!! 護衛を付けなくてどうするのです!!」」
見事にそば付きの2人がはもる。
部下にもこれほど慕われているのは珍しい。
権力ではなくその人本人が好きなようだ。
「大丈夫だ。それにもしこの人が私を害そうと思ったなら、あなたたちなど特にいても変わらないでしょう」
「逃げる時間を稼げます。私の身で閣下を救えるのならば、いくらでも捧げましょう」
「そうです。乱心をやめてください」
これはもう身も心も捧げているというレベルだな…
「私を困らせないでくれ。お願いだから部下が私の言うことを聞いてくれないなど、ただの恥になってしまう」
「閣下が供回りも誰もつけずに1人になろうとする方がおかしいのですよ!!」
「そうですよ。周りの貴族なんてみんなもっとつけてますよ。2人でも少ないぐらいなんですから」
「あんな何十人連れて行っても無駄なだけだ。そんなことに人を使うぐらいならば、もっと必要なことに人を回せ」
「でも現実は違うんです!!私たちだけでもそばにおいてください」
似たような繰り返しが何回も行われる。
「あの~、早く用事を言ってくれませんか?」
「ん?こやつらが言うことを聞かないのだ」
「違います。あなたがいけないんです」
おう、なんか貴族に対する態度でなくなっていっているな。
「もういい!! 命令だ!! 下がれ」
命令といわれれば逆らえないのでしぶしぶと下がっているが、本当は傍についていたそうだ。
「ふう、人払いも終わった。まったく私を思ってくれているのはわかるのだがな… 自由がほしい」
「わかりますよ。でも本当に慕われていてうらやましい限りです」
「それも度が過ぎなければよいのだが」
「そうですね。ところで何用で私を呼び止めたのです?」
「忘れていた。まずは自己紹介といこう。私はレイモンド侯爵だ。お初にお目にかける」
「それはそれは。私はレオンハルト・レンフィールドと申します。ただのしがない辺境伯爵家の3男です」
「何を言う。今回の件は誠に助かった。おぬしが私の失敗を埋めてくれたのでな」
「何のことでしょう?侯爵様が何か失点でも犯したのですか?」
この人は一体どこまで読みきっていたのだろう?
あまりしゃべりすぎても災いの元だしな。
「いやはや、貴族、平民すべての不満をうまく消したところですよ。ついさっきまで目の前が真っ暗になっていたところでな。領地に帰るときにまた呼び戻されたときは恐れていたことが起きてしまったのかと思ったのだよ」
「恐れていたこととは?」
「貴族の反逆だ。あともう少し遅れていればこの国は勝手に瓦解していただろう。わしは平民が国に反感を抱くだろうというところまでしか考えられなかったからな。貴族の不満を考えていなかった」
「そこまでわかっていたのですか」
「あぁ、だが私ではにっちもさっちもいかなくなっていたからな。どの貴族もまるで理解能力がない。困ったもんだ」
「それは大変でしたね。私もこの国の貴族には辟易していますからね」
「うんうん。国を捨てる覚悟もしていたからな」
「それはなんと豪快なことで」
「ところで今回の戦争はどうなると思う?結局向こうにしてみれば戦わずにして勝とうと思っていたところだからな」
「降伏はしないでしょうね」
「当然だろう。まぁ臨機応変に対応すればいいさ」
「それができるならば苦労しないでしょう」
「まったくだ」
一瞬間を置き、聞いてくる。
「領主に一番大事なのは何か? 金か、資源か、食料か? 次回あった時に答えを聞こう」
わからないな。
一番大事なのは人だと思うのだが…
もしくは正しい状況判断能力かと思ったのだが…
金、資源、食料ならばなんだろう?
金があれば資源も食料も買える。
資源があれば売って金を作り、食料を買えばいいし逆もしかり。
俺ってバカだったのかもな。
本当にわかんない。
家に帰って聞いてみようかな。
「それではまた今度」
手を軽く上げ去っていく。
「さようなら」
久しぶりに楽しい会話だった。
同じぐらいの頭のレベルの人と話すと会話が弾む。
学校のぼんくらなんて奇声を上げたり、自己顕示欲の塊だったりとかで何が言いたいのかすらよくわからない。
「ご機嫌でどうしたのです? 閣下」
「いやはや予想以上の大物でな。傑物になるぞ。養子にしたいぐらいだ」
「そこまでですか」
思わずといったようにつぶやく。
「でも確かに頭はよさそうでしたね」
もう1人も言う。
「いや違うな。あいつの頭の良さはそれではない」
「「??」」
レイモンドは口には出さず心の中で思わずといった感じで嘆息する。
レオン、あいつは丁寧でしっかりと考えているが、まだまだあんなものではないな。
私と話していた時も一度たりとも本心を見せていなかった。
本気を出している風でもなかった。
一体何を考え何を見据えているのか…
さっきの答え次第では… まぁいい。
あれに答えはないからな。
口の端を軽く上げると王都にある別邸に向かい馬の首を向けさせる。
評価、感想してくれると嬉しいです。




