脱出
「暗黒魔導王朝?」
「あぁ、うちの南隣にある小さな国家だ。いろいろと後ろ暗いところの多いところだがな」
「そうなのですか?そこがうちの国に戦争を売ろうとしているですか?」
「あぁ、曲がりなりにもうちは大国のはずなのだがな・・・」
「勝算が無ければしませんよ。戦争はやるからには絶対に勝たないといけないのですから」
「う~む、不思議だ」
背中に冷え冷えとした床の冷気を感じる。
頭も冷静になってくる。
ある意味牢屋は瞑想に向いている空間だ。
今回の誘拐は戦争に関係あると黒服の男は言っていた。
「どうして彼らが暗黒魔導王朝のものだと分かったのですか?」
「彼らの黒いローブに華奢な体だ。向こうは魔法がとても発展していて、物理には重きを置いていないからな。体はみな小柄だ」
なるほどね。文化部みたいな人の集まりというわけだ。
「強くはなさそうですね」
「そうだな、正面衝突は一度もないからわからないが」
ケインから様々な情報を取得し考察をしていく。
ひっそりと静まり返った牢屋で、頭をフル回転させる。
「なるほどね」
「随分と考え込んでいたが、何か俺の言った情報で参考になったことはあったか?」
「えぇ、この国は詰みましたね」
同じ空の下でまったく同じことを言っている人がいるとはだれが想像しようか。
「!!!!!」
目が大きく見開かれ驚愕の表情に包まれるケイン。
「どういうことだ!?」
「話はあとです。この国を滅亡させないためには、私たちが抜け出し、できるだけ多くの生徒を救い、脱出しなければなりません」
「それができないからこうして地面にはいつくばっているんだろう」
「さっきよりかなり状況はいいです。強引なのですが手はあります」
「ほんとか!!」
「先生は魔法をつかえますか?」
「残念ながら使えん」
「そうですか・・・」
これからやることはただの力押しで、まったく優雅ではないしその上痛い。
最小効率で何かを成し遂げたい俺の美学と正反対でありかなり憂鬱だ。
「それでは、抜け出した後の戦闘はすべて任せます」
「任せとけ」
自信満々に豪語するケイン。
これからやることは簡単だ。
手首、足首の鎖につながれているところの骨、腱を破壊しすり抜ける方法だ。
この世界の手錠みたいなのは大体が同じ大きさで、俺の手首より大きめで少しの空間がある。
ケインのほうはギチギチでうっ血して、どす紫に染まって相当きつそうだ。
ケインが魔法を使えたら押し付けようかと思ったがそもそも抜けられそうではない。
思いっきり手錠から左手を抜こうとする。
左手なのは、俺が右利きで左が使えなくなる方が被害が少ないと判断したからだ。
まず手首はスムーズに通り、親指のところで早速引っかかる。
なるべくすぼめて、通そうとしてみるがどうも無理そうだ。
親指の付け根の関節を外すことを始める。
手首の関節を外そうとしたことなんてこれが初めてだし、やり方もよくわからないが突っかかったところをグイグイと押し出していく。
ぼきっ!!
そんな音が鳴ったような気がするが実際にはそんな大した音は出ていない。
関節を外すのは痛くないとか言われているが、普通に痛い。
慣れてる人はそんなに痛みを感じないのだろうが・・・
第一関門を突破して、親指は動かないものの外すことには成功する。
あとは親指を除く4本の指の付け根をどうにか抜くことで手錠から解放される。
先ほどの関門よりはるかに楽に。
関節を破壊することなく、何回か思いっきり引っ張ることで抜ける。
若干捻挫をしていたいのだが・・・
自由になった左手で右手の手錠をつかみ引っ張るが左手の二の舞になりそうなので叩き壊すことに方向転換する。
他の3か所が拘束されているため振りかぶることもできず、1回で手錠に与えられる力も小さい。
何回も何回も根気よく衝撃を与え続ける。
およそ1時間もたたいていたのだろうか、かなりの力をもってしても不自然な体勢からの破壊は大変だった。
一度も見回りに来なかったのは僥倖としか言いようがない。
ミシミシといい思いっきり引っ張ると手錠は大きな重低音を立て、右手に切り傷を残し外れる。
ここまで来たならあとは簡単だ。
上半身を起こし、足を拘束している手錠を両手でむんずとつかみ、破壊しようとする。
しっかりと抑え踏ん張りも効くことから、さほど時間をかけずに両方とも外す。
「抜けました。それでは外します」
「そうか、ありがとう。それで手は大丈夫なのか?」
「あまり大丈夫ではないので、戦闘はすべて任せます」
「あぁ、任せとけ」
手錠から抜け出したことで使えるようになった魔法を使い、すべての拘束を破壊する。
「ありがとうな」
「それでは、行きましょう。なるべく多くの生徒を助け出しましょう」
檻を破壊するが、脱走がばれるのをなるべく遅くするため、魔法で石のやすりを作り出し地道に削っていく。
見回りが来たらあとは破れかぶれだが。
ゴリゴリと削られる檻。
しばらくして、人がぎりぎり1人通り抜けられるほどの通り道ができる。
汗まみれになったケインが思わずといったようでつぶやく。
「これでおさらばだ。こんなのはこりごりだ」
檻から脱出する。
走ってすぐに監視の人が遠くにいるのが見えたため、風の魔法でこっそりと処理をする。
どさっという音がするも人が集まる様子はない。
いちど通った廊下を慎重に素早く通っていく。
少し歩くと、前に俺たちが幽閉されていたあたりまでたどり着く。
生徒たちもそのままで特に変わりはないようだ。
意気消沈をして生きる気力を失っているものも多いようだ。
「おい、あれを見ろ」
1人の男の子がこちらを指さしながら叫ぶ。
次から次へとこちらに向けられる視線。
「どうしてそこにいるんだ?」
「ここから出してくれ!!」
口々に騒いで徐々にうるさくなっていく。
「皆さん、静かにしてください」
低く響かない声で、しかし威圧を込め黙らせる。
「皆さんにはこれから脱走してもらいます。しかししゃべらないでください。脱走がばれるのはなるべく遅くしたいので」
こちらの緊張をかぎ取ったのか、あたりはシンと静まり返る。
魔法で作った石のやすりを次から次へと作り、牢屋の中にいる1人を解放してから後はその人に任せ、次の牢屋の1人を解放することを繰り返す。
力の強そうなものを選び次から次へと解き放つ。
もう初めに解放したところは牢屋全員の解放が終わり、檻の破壊にも取り掛かっているところもある。
ネズミ算的に自由になる生徒たち。
もう半分も自由になったところだろうか・・・
「貴様ら、何を脱走しようとしている!!」
見回りの男に見つかる。
最速で魔法を作り、殺そうとするも笛を吹かればれてしまう。
「そんな!! おいて行かないで」
「俺を助けろ!!」
「貴様らだけずるいぞ」
まだ取り残されている生徒たちが泣きわめく。
たくさんの人たちの足音が聞こえ、徐々に近づいてくるのがわかる。
これは全員助けられないな。
こちらまで共倒れになったら困る!!
派手にやるか。
「あとは自分の才覚でどうにかしてくれ」
そう叫び、周りを逃げまどっている人達に当てないよう、檻を破壊し、魔法を放ち混乱をさせていく。
あたりに響き渡る爆音、もうもうと煙をたて崩壊する檻、あちこちで巻き起こる怒号、泣き叫ぶのはどうやら捕まってしまったらしき生徒の悲鳴。
悪いが生贄になってもらおう。
大を助けるために必要な犠牲だ。
一斉に出口に向かって殺到する生徒の塊に紛れ、走っていく。
後ろから叫び声が聞こえ、追随してくるたくさんの足音。
既に逃げているのは全体の4分の1にも満たないだろう。
いくら数が違おうと大人と子供なのだ。
なすすべもなく次から次へと昏倒させられている。
俺みたいな子供はいないのだろう。
あとは捕まるか、気絶させられるかしてしまってる。
「そこで止まれ」
1人の女の生徒が首に剣を突き立てられ脅される。
「そんな!!」
彼氏らしき人の悲痛の叫び。
「私にかまわないで!!」
泣きながら叫ぶものの男の子は抵抗する気力を失い、あっさり捕縛される。
「よし出たぞ」
先頭の集団からそのような叫びが出る。
あたりに希望が満ちる。
先に日の明かりが見える。
薄暗い檻に閉じ込められていた俺たちにとってはあまりに強力な光だ。
歓声を上げながら飛び出していく生徒たち。
「お前たちっ、許さないぞ」
鉄面皮の無表情、黒ローブの男の歯ぎしりの音が聞こえる。
あたりは森で、ここまで来たらあとは大丈夫なのだろう。
執拗な追撃もやみ、ケインが集合の声をかける。
あたりに三々五々集まってくる生徒たち。
生徒たちの表情も疲れ果てているが、晴れやかである。
「みんな、集まったか?それじゃどれだけいるか確認するぞ」
ケインと無事逃げ切れた2人の先生が生徒を誘導し、点呼をしていく。
「125人か。だいぶ逃げ切れたな。それじゃここはどこかわかるか?」
確かにここは誘拐された森ではない。
あそこみたいに木々もまばらで明るくなく、うっそうと茂っている。
「あの、もしかしたら僕の故郷かもしれません。なんとなく見覚えがあります」
1人の男の子がおずおずと手を上げる。
「そうか、お前の故郷はどこらへんだ?」
「えぇっと、王国の一番南ですね」
暗黒魔導王朝の国境にだいぶ近いところにいたんだな。
危ないところだった。
「一体なんで私たちはさらわれたんですか?」
「わからん。だが一刻も早く王都の逃げないといけないな」
「残された生徒はどうするんですか?」
「悪いが見捨てる。急いで戻って救助隊を派遣しないとな」
「あぁ?」
1人のガラの悪い生徒がケインをねめつける。
そしてこちらの方に近づいてくる。
「てめぇ、なんで見捨てたんだ?正義感っていうものはないのか?」
「私は別に1人で逃げてもよかったんですよ」
「!! てめぇ、ふざけてんのか!!」
「いいえ、私が親切で脱出の手助けをしただけで・・・ 自分1人でしたらもっと簡単に終わっていましたよ」
「貴様は助けに行かないのか」怒髪天を衝くといった感じだ。
「もちろんです。好き好んで被害を出す人なんていませんよ」
「てめぇのせいで、何人も捕まったんだろう!!」
「さて、何のことでしょう。私が何かしましたか?」
「なぜ、全員を助けない」
「何かを得るためには何かを失う。お金を失い、ものを得る。480人を失い、120人を得る。当然です。あなたはあまりに虫がよさすぎますよ」
俺だって前世を失い、今世を得た。
何も声が出てこないという感じだ。
「それとも、あなたの命1つ使って1人をたすけますか?私は止めませんよ」
歯ぎしりをしながら戻っていく。
まったく現実が見えていないバカは困る。
「それじゃ、お前案内してくれないか?」ケインがさっき手を挙げた生徒を指名し頼んでいる。
「もちろんです」
案内を受け、森を抜けて平野をひたすら歩く。
「さっきは災難だったわね」
「逃げていたのか。エリザベスにヨゼス」
「もちろん、私がこんなことでやられるわけないじゃないの。副主席よ!!」
「えっ!? 牢屋で、ずっとレオン、レオンって泣きさk・・・」
「黙りなさい」
にらまれすごすごと退散する、気の弱いヨゼス。
「ごめんね、あまりにも厳重に縛られててすぐに助けに行けなかったよ」
「!! 別にいいわよ」ぷいっと顔をそらす。
「ハハッ」ヨゼスが明るく笑う。
それから10日間。
恐れていた追撃も、大きな魔物の襲撃もなく小さな村にたどり着く。
俺たちが村で休息をとっているときに王都からの迎えの馬車がくる。
こうして無事に生徒123名、教員3名は王都に迎えられ、すぐに王城まで案内される。




