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誘拐2

「なんだと」


 学園のとある1室でいらだった声が聞こえる。

このわし、ローレンシア王国学園都市学園長オスワルド・シラカワ。

たいそうな肩書を持っているが、この学園の創設者の子孫ということで継がされてしまったただの老人は目の前の男が持ってきた知らせが信じられなかった。

思わず椅子から飛び上がるかと思ったくらいじゃ。


「もう一度言え」


「はっ、この学園を出発し王都の近くに遠足に行った教員および生徒合計704名。誘拐をされ、国に身代金を要求されております」


 なんだと?

なぜそんなことが起きる。


「それで、犯人は誰かわかるか?」


「おそらく暗黒魔導王朝の手のものかと思われます」


「暗黒魔導王朝…」


 この国の南にある小国家。

国力はこの国にも半分に満たない程度だが、裏で怪しげで非道な実験を次から次へと行っている闇の国家。人体実験など日常茶飯事。周辺の国々から常に批判の嵐を浴びている国なのだが…

かの国は後ろ暗いことをやっている人間が集まっているだけあって、かなり狡猾で隙をさらさない。

それなのに宣戦布告にも等しい行為をやるということは、ローレンシア王国に負けない自信があるということか…

あいつらは残虐だが、決して愚かではない。いや、この国のトップよりはるかに有能なものたちが集まっているだろう。

自滅に近い行為などやるわけない。

つまりそれほどこの国がなめられているということか。


「それで、解放するための要求は?」


「変な要求なのですが…」


「変?」


「はい。1人あたり500万ギルを国に要求しています」


「なんかおかしいな」


「はい。普通なら平民にそんなお金はありませんし、貴族の身代金にしては安すぎます。しかもそれを国に請求するとは…」


 身代金のやり取りは被害者の家族とするのが普通で、いきなり国に請求することはあり得ない。

今回の誘拐は不思議なことが多いが、学園長としてやらねばいけないことは多い。

しっかり対処をしないと。


 



 王城から召還の使者がやってくる。


「国王がオスワルド様と相談したいことがあると」


「わかってる。支度もできている。いつでも良い」


「それでは今すぐ城まで案内しましょう」


 王城まで行くために使者に付けてくれた馬車に乗り向かう。




「今回のことはどういうことだ、説明してもらおう。学園長」


 貴族たちがお互いに向かい合い、この国の重鎮が並ぶ派手な謁見の間。

玉座に座る小柄な人物が言う。

この国の王だ。


「どうやら、遠足に行った生徒が暗黒魔導王朝のものに誘拐されたみたいです」

あたりは騒然とする。


「あなたの学園の危機管理能力はどうなっているのですかね。説明していただきたい」


「そうです。私の娘も犠牲になっているんです。謝って済むことではありません」


「そもそも平民ひいきの学園だ。その程度なのだろう」


「自由、平等、初代学園長の言ったことなんてただのおかしい人の戯言ですから」


「試験も全く仕組みがわからない。平民有利に行っているのではないですか」


「思い上がりも甚だしい。人間は平等ではないのだ」


 思わず、眉をしかめてしまう。

国の危機だというのに糾弾することしか考えていない。


「さてさて、今回の賠償金はどうしてくれるのでしょうか」


 一段と高い壇に立ち王の隣に立っている男が言う。

ローレンシア王国の実質最高権力者の宰相だ。

王も彼の言う通りに政治を動かされている。

傀儡の王の操り手がこの目の前にいる男だ。

でっぷりとしているが目はずるそうに輝いている。

古だぬきめが…

口に出さないように毒を吐く。


 「今回、暗黒魔導王朝は国に賠償金を求めています。これで、いう通りにしなかったらご子息の命が危ないと思います。今回は国が賠償金を払うのが良いかと思います」


 自分の子供が殺されると聞いたとたんに、周りの貴族は王に賠償金を払うようになじる始める。


 宰相は一瞬不快そうに顔をしかめたが、すぐにそうするように王に進言する。


「そうか、それでは賠償金を払おう」


 王はおどおどとしながら言う。


「私の娘は無事なのか?」


「エリザベス様のことですか?わかりません。そもそもあの娘は王位第2継承者です。そこまで重要ではないでしょう」


「いっ、いや、助けてあげてほしい。私の可愛い娘だ。いくらでも払おう」


「そんなだからこの国はなめられるのですぞ。もっと堂々としていただきたい」

完全に主従関係が逆転しているが、誰も気にする者はいない。


「それでは、貴族の子息の分102名分を払いましょう。合計・・・5億1000万。かなりきついですが節約をすれば何とかなるでしょう。来年は少し苦しいかもしれませんがご理解をお願い致します」


 周りの貴族は満足そうにうなづく。

この国の1年の収入は100億。5%にあたる金額だ。しかし…


「平民の学生はどうするのですか?」


「そんな余裕はありません。30億を超える金額など無理です。見捨てます」


「!!」


 恐れていた通りになる。


「そんな…」


 なんて言っていいかもわからない。

そこで不意に貴族のとある席から、


「その判断待っていただきたい」


「どうしたのです?レイモンド侯爵様?」


 宰相は決まりかけてるのにいまさら何を、といやそうな顔をする。


「それは、かなり危険な賭けです」


「どういうことだ?」


「おそらく相手の狙いは金ではないでしょう」


「そんなはずはないでしょう」


 侯爵はそこで疲れたようにため息をつく。


「おそらく敵の思惑はそのように行動することでしょう。貴族のみを助けることにより平民に悪感情を起こさせ、内部からの混乱を引き起こそうとしているのでしょう。国に賠償金を請求したのも、全員が一律な身代金なのも国に不満、欺瞞を沸かせるためでしょう。ここは全員助けるか、全員見捨て戦争をするかです」


 そういうことか。

敵の今回の不可思議の行動も内部分裂を起こし、被害を最小限にして攻めるためか。

金額も貴族だけならばそれほど懐は痛まないが、平民まで助けるとなると莫大な金がかかり、財政ダメージを与えるのが狙いか。

だが貴族のみをを助けるとなると、平民に不満がたまるということか…

侮れないな。

おそらく、魔法で不満の芽を爆発させることもするだろう。

それに気づくとはさすが王国1の切れ者。

レイモンド卿なだけある。


「うむ、そうか…」


 宰相は板挟みになりどうしようかと苦悶している。

悪知恵は働くし、宰相の好みそうな手なのですぐに理解できたのだろうが、貴族は大半はわからずきょとんとしている。


「どっ、どうすればよいのだ?」


「戦争しかありませんな。払ってもどちらにしろ攻めてくる。それならこちらから攻めた方がいいだろう」


 また一気に騒がしくなる。


「私の息子はどうするのだ?」


「ちゃんと国が払ってください」


「平民の心配など不要だ」


 宰相の顔に憔悴の表情が浮かんでくる。

話しても理解してくれない貴族に疲れ果ててしまっているようだ。

王も一緒になって宰相を攻めてるが、彼がうなづくことはない。

会議は大紛糾したまま終わる。



 ほとほと参ってしまったわしは学園に帰ろうとするが後ろから


「災難ですね」


 レイモンド卿が話しかけてくる。


「私の予測よりも相手は上でしたね」


「どういことです?まだ他に?」


「えぇ、これで子息を見殺しにされた貴族はこの国に積極的な援助はしなくなり、勝手に国は崩壊していくでしょう。どちらにしても詰んでいましたね」


 奇妙な深い悲しみをたたえた目で見てくる。


「私は愛想が尽きました。この国に。一度領地に戻り対策は立てますが…」


 深くため息をついている。


「どこかに賢王でもいないでしょうか…」


 そういいその場から立ち去っていく。

ふと学園長の頭に1人の非常に整った顔立ちの子供がよぎる。


「レオン…」




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