転生者2
周りに景色が戻ってくる。
操られていたようだとは言え衝動的な行動だったといえる。
仕方ないとはいえ、殺したのはかなり不味かった。
ふとそこで俺の脳裏にあの美しい女神の顔が思い浮かぶ。
遊びだか、選別だかは知らないがおそらく何かをしたのはあの女だろう。
相手は自分よりも圧倒的に上の存在なのだが、思わず心の底から嘲笑したいような気持になる。
憎しみなどはない。だまされるほうが悪いのだ。だが俺を操った報いは受けてもらおう。
そう考えていると俺の思考も途中で遮られる。
「お困りですか?」
後ろから夕日に照らされ、赤く輝く髪を持った男が近づいてくる。
「ハロルドさん…」
学園の武術主任だ。
にこやかに笑っており、何を考えているかよくわからない。
普通は嫌悪の視線を向けるはずだ。
彼の目からそんな色は感じられない。
「嫌悪の視線を向けないのですか?」
「特に」
答えるのに迷った感じはなく普通に返してくる。
「弱者が悪です。少なくともt・・・」
尻つぼみになり最後は何を言っているのかわからなかった。
「君が悪くないのはわかってる。私からも弁護しよう」
そういうと私を連れもう一度学園の方へ引き返す。
学園長はその報告を聞き自分の考えに没頭するかのようだ。
「まさか君が主席を取ったことで逆恨みされて襲われるとは全く想像してなかった」
白いひげを触りながら言う。
「レオン君は無力化できたんじゃないの?ハッキリ言ってレベルが違う」
それは自分自身で気になっていたことだ。
襲ってきた転生者の男はたいして強くなかったし、すぐに無力化できる程度の強さだった。
ではなんで殺したのか?
戦闘本能のみが極大まで引き上げられそのほかの機能が抑えられていたみたいな感覚だ。
だがなぜそうなったのかわからない。
「頭が麻痺していたような感じでした」
2人とも首を傾げ考え込んでいる。
「だが今回のことでおぬしは罪に問われることはない。その点は安心してほしい。君の親にも人をやっている。詳しい話はそこでしよう」
しばらくしてセーネがやってくる。
「お母さんは?」
「奥様はただいま王都の方に帰り、主席を取ったという知らせを持って行ったようです。お父様もたいそうお喜びになりすぐこちらに向かうとのことでしたが… レオンが何をしたのですか? 急に呼び出しを食らうし」
若干憤慨しているようだ。
「レオン君が今日帰り道に襲撃をされ、返り討ちにしたところです。そのことで話をしようと思いまして」
「うちのレオンが? 誰がそんな無礼なことを? 犯人を出しなさい。それとも出せないの?」
話を聞くうちにセーネのいら立ちが高まっていくのがわかる。
言葉は丁寧なものの怒りのオーラが立ち上っているかのようだ。
「犯人はオベルト。王都の貧民の子です。ちなみにレオン君に返り討ちに会い殺されてます」
「なぜそんな無礼なことを… 理由は?」
「どうやら私怨のようです。彼は今回の試験でレオン君さえいなければトップをとれたので」
「そんなことで襲うわけ? 意味が分からない」
相当ご立腹のようだ。
話をしている途中、両親にみすぼらしい様子の夫婦らしき2人の男女が入ってくる。
随分と速い早いお出ましだ。
「なぜ私が呼び出される」
父が学園長に向かって不満を押し殺した声で聞く。
「実は… 」
セーネが状況を説明する。
話を聞くうちに両親の顔が赤く、2人の男女の顔が青くなっていく。オベルトの親だろう。
「それでは状況を振り返りましょう。ハロルド説明しなさい。一部始終を見ていたのはあなただけですから」
「はい。私が説明しましょう」
淡々と事実が告げられていく。
「まずレオン君は学園始まって以来の最高得点を取りました。これまでの最高得点の4倍程の点数です。桁違いといってよいでしょう。そして2位が先のオベルトです。そこから確執が始まりました。2位のオベルトも今までの最高得点に近い、とてつもなく高い点数を取りました。主席をとれるほどの点数を取りながら2位に甘んじる。そこでプライドが傷つけられたのが1つの原因でしょう。レオン君と私と学園長、魔法主任が別室でこれからのことを話していました。そのあとレオン君が帰るときつけられるのがわかったので… 」
「なぜわかった?おぬしは部屋にいたのだろ」
「そうです。ただし気配感知で引っかかりましたので彼らの後ろをこっそり見守って後をつけていたのです」
部屋にいながらすべての行動を把握していたのか。恐ろしすぎる…
「しばらくすると路地のところで話す声が聞こえたかと思うと急に戦闘が始まりました… そしてレオン君の剣が彼の胸を貫きました」
ごく簡単に事実のみが述べられる。
「なぜ初めにその平民を殺さない?」
「学園は中立ですので」
「レオンが殺されるかもしれなかったんでしょ。なんで早くとめなかったの?」
「レオン君が殺されるのは絶対ないと思いました。ゴブリンがドラゴンに歯向かうようなレベルでしたので」
ドラゴンは魔物の中でも最強種といわれるものだ。
そこまでの差はないとは思うけど…
「ふ~ん」
セーネは納得いかなそうな声で返事をする。
「そもそもが平民が貴族様に刃を向けること自体が信じがたいことだ」
「だけどナおらも言わせてもらうがよ、こっちは息子を殺されてんよ」
「平民が口を開くな。空気が汚れる。そもそも平民の命などいくら消えようがこちらには関係ないことだ」
「あんだと?やんのか?俺らのッ苦しみも分からないくせに」
男は男同士女は女同士で言い争いをはじめ混沌とした様子を見せてきている。
「落ち着け」
学園長の有無を言わせぬ一声で静まる。
「今回のことはどちらも痛み分けということでどちらにも取り沙汰はない。ただレオン君についてはこちらで家を学園の近くへ用意するのでそちらに住んでもらう。いきなり平民を殺したとなると平民の間に悪感情が巻き起こるからな」
全員が納得をしない顔をしながらも不承不承うなづく。
「オベルト君の両親にもこちらから見舞金を出す。それで納めてくれるか?今回のことは学園の不祥事だ。こんなことが起きると想定していなかった」
オベルトの両親もこれ以上言っても貴族の不興を買うと思ったのかうっそりとうなづく。
学園から解放されるも出てくる人の顔に晴れ晴れとした雰囲気はなく沈んだ雰囲気が漂っている。
「僕のことは気にしないで。無傷だったのですから」
「でも襲われること自体納得いかないのよ」
「まったくだ。ほんとにいい気持でいたのにとことん邪魔をしてくれる」
セーネはぶつけようのない怒りを、父はいらいらしたように足を揺らす。
家族全員がかなり憤慨をしている。
一方息子を殺された方も…
「やっぱりどうしても納得がいかないべ。どうしてあいつらは罪になんないのか?」
「ほんとにね。こちらは息子を殺されてるのよ。お金だけで済む問題じゃないわ」
「ほんと貴族が憎い。レオンめ、レンフィールド家め。いつか復讐をしてやる」
一週間後2人の夫婦の亡骸が見つかる。
町の警備隊も不思議なほど動きを見せず、明らかに他殺なのにすぐ心中として片づけられる。
人のうわさにもさほどならずこの殺人事件は幕を閉じる。
どちらがまっとうな言い分だと思いますかね?




