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邂逅

第二章です。

 あと一か月で学園に通うことになる。

学園の始まる時期は日本と同じ4月ごろなので、今はまだ3月の中頃。

寒さもだいぶ和らいでいき過ごしやすい時期に移りつつある。

学園に入学するために用意することは何もない。

武術の訓練や魔法の訓練との名目でセーネの部屋に入り浸ることばかりだ。

学園に入学するときに必要な科目で最も配点が多い筆記(主に数学)については何の勉強もしていない。

もはや捨て科目と化しているようだ。

どちらにしてもあまり文明が発達していないこの文明で極端に難しい問題は出ないだろう。



 学園は王国の中心より少し外れた郊外にあり、王都に近いにも限らず人は王都に流れていかない。

半ば独立都市みたいな感じなのである。

さすがうちは貴族なだけあって、家も王都に一つ、国外に一つ、今いる家と3つも持っている。

いやもっと多いかもしれない。




 学園へは母と俺、セーネのみの3人だけだ。

セーネのことは自分の魔法がまだ完璧でないといって無理やり頼み込んだ。

やはり余裕があるのか、すでにたくさんの人が住み込みで働いているからなのか簡単に通った。

ユウエルも一緒に行くと叫んだが一蹴される。






 

 さて、いよいよ行くという時になった。

この時の僕の服装は雪のような真っ白な滑らかな絹の上着に黒い服の裾が膝の下まである、まさに品のいいお坊ちゃまといったような服装だ。汚すのをためらわせるような高級品だ。制服は学園に入学してから買うのでとりあえず今はこのような格好だ。

屋敷の前で見送りされる。


「それではいってらしゃい。レオン様なら主席など楽にとれるでしょう。次は私に勝てるといいですね。」


 にこやかに別れの言葉を言うカインさん。


「レオンお前は俺の永遠のライバルだ。」


 泣きながら叫ぶユウエル。


「つらくなったらいつでも戻ってきてください。」


 目に涙をにじませながらエルザが言う。


「また会うだろうしな。本当の勝負は次だ。」


 口々に別れの言葉を言ってくれる。

町の人々も別れを惜しんでくれる。

随分と好かれていたようだ。これから少なくとも7年は会えないと思うと胸にこみ上げるものがある。

風景がゆらいで来るが袖でぬぐい前を向く。

もう振り返らない。






 馬車から見える景色は美しかった。

空は青々としていて空気は澄んでいる。ひんやりとした空気を肌で感じ、ほてった頭を落ち着ける。


「少しは落ち着いた?」


「うん。いつかまた会えるしね。そこまで気にすることではないよ。」


 乗っている人の感慨をよそに馬車はゆるゆると進んでいく。




 一週間と少ししたところようやく王都にたどり着く。

さすが国の中心だけあってどでかい人口は十数万を超えていそうだ。

王都は上町、中町、下町の3つに分かれている。

今馬車が向かっているのは上町。

上町とは貴族、王族の居住地だ。

平民には其処を職場にしていない限り入ることすら許されない地区である。面積としては全体の1割を占める。

中町は豊かな平民が住み、下町は下層階級が住む場所だ。

上から俯瞰すると中心に上町、それを覆うようにして中町、最外部には下町が位置している。

馬車の中から見ていても建物、歩いている人の服装がどんどんいいものになっているのがわかる。

上町の中心に近いところに馬車が止まる。

馬車を降りて目の前の建物を見た途端圧倒される。

今までいた屋敷よりもはるかに大きく、建材も大理石のようなものが使われまるで宮殿のようだ。


「ここが新しい家ですか?」


「ええ、今はお父様とシルヴェストルしか住んでいないけどね」


「ほかの兄弟は学園都市へ?」


「そういうこと。ではお父様に挨拶をしますよ。」


 セーネには馬車で待ってもらい、父親に会いに行く。

初めての父との出会いだ。いやがうえにも緊張する。

無駄に長い廊下を歩くと奥の方に獅子の彫刻が打ち付けられた重厚な扉に行き当たる。

そのまま母親に連れられて部屋の中に入る。

中に入ると40代後半の男が執務室の椅子に座っていた。

長男のシルヴェストルらしき人の姿はない。


「レオンか初めて会うな。俺が父のレイモンドだ。」


「はじめまして。レオンといいます。」


「おおそうかレオン。入学試験ではいい成績を取ってくれよ。わしのためにな。子供は親の言うことを聞けばよいのだ。よろしく頼むぞ」


「…はい」


 なんて親だ。

子供を親の政権争いの道具としてしか見ていない。

もう人として腐ってる。

貴族というのはみんなこうなのか・・・

気がめいってくる。

そのあと僕だけ馬車に戻される。

父と母だけで何か話し合うことがあるみたいだ。


 馬車に戻るとセーネに話しかけられる。


「どうだったの?あなたのお父さんは?」


「なんていうか人のことを都合のいい道具程度にしか思っていないし・・・貴族ってみんなあんななのかな?」


「私もよくわからないけど、ろくなのがいそうではないね」


 ずっと二人で愚痴を言い合う。


 途中から母が戻ってくるのを恐れ、話さなくなったが、悶々とした思いがずっと心にわだかまっていた。



 母が戻ってきてから馬車はまた王都を出て、郊外にある学園都市まで向う。

およそ1時間ほどの時間でたどり着く。

学園都市は学園を中心に経済が回っているとされ、お店、宿などありとあらゆるものがすべて学園のために作られている。



 学園都市の理想は平等。

そのため貴族の権力も効かない場所である。

道はこれから受験するであろう子供と付き添いで一杯だ。

みんなが目に光を宿らせている。

いずれも村で秀才といわれるような子供たちだろう。

最も平民が試験を通るのは3%。狭き門だ。

貴族の子弟はほぼ100%なのにかなりの差がある。

生え抜きしか入れないのだろう。



 ふとどこからか視線を感じる。

この馬車は道のど真ん中を進んでいるし今も御者が人をどかそうと叫んでいる。

注目されてもおかしくないと思いすぐに頭から消し去る。




 そのまま高級宿の横にたどり着き、泊まるための手続きをする。

宿は木造で、家具内装すべてがマッチしていて洗練されている。

学園に入学し、入寮手続きをするまでずっと宿に滞在するのだ。

そのためまだ次男と長女は学園の寮にいるためまだ出会わない。

最も会いたくなんかないが・・・





 宿で3つ部屋を取る。

一つは母。もう一つは俺とセーネ。残りは護衛に御者のためのだ。

ひと段落ついたと思ったら、そこで母親の部屋に呼ばれる。


「何か用ですか?」


「えぇ。お父様からあなたに渡したいものがあると。子供たち全員に渡しているそうだけど・・・」


 母から無駄に包装された小包を渡される。


「ここであけてもいいのですか?」


「ええ」


 そういわれ開ける。

中から出てきたのはウエストポーチだった。


「えっと、これはウェストポーチですか?」


「ええ。でもおそらく空間魔法で拡張されたものよ。」


 !! アイテムボックスか!!

そんなすごいものををくれるなんて!!


「これかなり高かったのでは?」


 声が弾む。


「はしゃぎすぎよ。あなたが興奮するのって初めて見たような気がするのだけど… 確かにそれは平民の一生の稼ぎと同じぐらいするわよ。中級だからそこまで高くないけど」

平民の生涯年収って日本と同じだとすると3,4億ぐらいじゃないのか…

それを安いって…

金銭感覚が違いすぎる。


「ありがとうございます。お父様によろしく伝えてください。」


「どういたしまして。その言葉伝えておくからね」


 僕が入学試験が終わった後、母は王都に戻るのだ。



 ウキウキ気分で部屋まで戻る。

あまりのはしゃぎように部屋に戻った時セーネにドン引きされたレベルだ。


「そんなにはしゃいでどうしたの?」


「お父さんからアイテムボックスをもらったんだ!!」


「へぇ すごいじゃない。位階は?」


「位階って?」


「アイテムのグレードのことよ。下から 一般級 下級 中級 上級 最上級とあるのよ」


「へ~そうなんだ。それならこれは中級って言っていたよ」


「超高級品じゃない。さすが貴族ね・・・嫌いだけど」


 アイテムボックスはほとんどが一般。よくて下級なのである。上級で国宝に指定されるレベルなのだ。

中級とはその一つ下。とんでもない価値があるのだ。盗まれないように気を付けないと。

容量を調べようと思ったが入れるものが無く断念した。

ほんとに異世界の必需品のうちの一つがそろったのだ。

ほんとに興奮してその夜は眠れなかった。



 翌日、目の下にクマを作りながら、入学試験受け付け用紙に必要事項を記入し提出をする。

紙には名前、受験番号その他もろもろのことが書かれている。

試験はただで受けられるのだ。たくさんの子供や付き添いが願書を出している。

すごい賑わいだ。

護衛と一緒にもみくちゃにされながら宿に戻る。

人の多いところはそれだけで疲れる。

試験は3日後である。

主席は絶対に取って見せる。俺の矜持だ。


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