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4/8

....他者による幕間02

 ある人は言った。

「絶望した」と口にできるうちは、まだ可能性が残されていると。





 * * *





「……失敗した」


 その一言は、彼を絶望の底に追いやるには充分だった。

 途中までは成功するかのように見えただけにきつい。目の前が真っ暗になると言う言葉を実際に体験した彼は、部屋の隅に崩れ落ちるように座り込んだ。


「……正確には半分成功して、半分失敗した」


 幼馴染の言葉に顔を上げる。「半分?」問い返せば無言の頷き返ってきた。


「召喚は上手くいった」

「でも、魔方陣の中に変化はないじゃないか」

「召喚場所がここにならなかったんだ」

「じゃあどこになったんだ?」

「ロンギルの森」


 簡潔な返答は、しかし彼の救いの言葉にはならなかった。むしろ更に突き落とすものだった。

 今度こそ、彼は両手で顔を覆った。希望が完全に断たれた。その事実が重く心に圧し掛かった。


 ロンギルの森は、彼にこの召喚を踏み切らせた原因が住処とする場所だった。彼の森に住まうのは、この国の建国前から生きているといわれる魔女。

 残酷で気まぐれな魔女は、縄張りに立ち入る侵入者をけして許さない。

 本当に絶望的だった。

 森は目と鼻の先にあるというのに、その場所では彼らに手出しはできないのだ。そして召喚された者も、生きる事はできないだろう。

 

 口を開けば幼馴染に当り散らしてしまいそうで、彼はぐっと唇をかんだ。

 愛しい人を救う手段は消えた。後は彼女とその身の内に宿った小さい命がついえるのを、黙って見ていることしかできない。

 部屋に横たわる沈黙は、どうしようもないほど残酷に、彼に重くのしかかった。





 * * *





 アルシアは瞬いた。

 

 森の中心部に近い位置に突然現れた異質な気配をたどってきてみれば、予想に反してそこには何もいない。

 気のせいではなかったはずなのに、何ともおかしい事だ。

 この森の中の事で、アルシアに把握できない事などなにもない。ここで生きる獣達の息遣いすら、手の内である。

 

 どこに隠れてもわからないはずがない。だと言うのに何もいない。見つからない。

 おかしな事だった。こんな事は初めてだ。

 

 アルシアはしばらく辺りを探って歩いた。

 使い魔に任せるという選択肢はなかった。アルシアに分からない事が、彼らにわかるわけがない。

 自分の足で何かを探すというのは、もしかしたら初めての事かもしれない。遺跡の辺りを見回し、茂みの中を探る。人の歩いたような跡があったから、侵入者は間違いなくいる。だというのに、いくらやっても場所がつかめない。目で見る限りも姿は見つからない。


 侵入者を前に諦めると言うのは屈辱的な事だったが、見つからないものは見つからない。

 この初めての事態にイライラして、近くにあった木を思い切り蹴った。一回だけでは腹の虫がおさまらず、二回、三回と蹴ったら、上から何かが落下してきた。

 軽い音をたてて地面に落ちたそれは、金属製の髪飾りだった。大きさは、アルシアの手の平よりも小さい。華奢な作りのそれは、容易く握りつぶせそうだ。


 髪飾りをしばらく眺めたあと、アルシアは木の上に目をやった。そして、太い枝の間に挟まるようにこんもりと盛り上がった塊をみつけて――思わず、にやりと笑った。


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