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06・元宮廷魔法使いの妻の少し不穏で些末な事情

 私は薬師。


 王都の外れで薬を作って暮らしている。


 勿論販売もしているが、表の薬屋は週の半分、しかも昼の早い時間までしか開けていない。


 近所からは商売っ気のない道楽工房と思われている。


 こちとらもういい歳なんでね。


 そんなにあくせくも働けないんだよ、ということにしている。




 工房には最近久しぶりに弟子を一人迎え入れた。


 十五歳の娘で、頭がよくて素直だ。


 教えたことはどんどん憶えていくし、手先が器用で筋もいい。


 引っ込み思案なので店番はどうだろうかと思っていたが、それも卒なくこなしている。


 貼り付けた笑顔は作りものめいているが、終始その表情を崩さず、買い物時の数分だけやりとりする客には不自然かどうかも判らないだろう。


 流石、叩き込まれてきただけのことはある。




 弟子は、少し前までやんごとない身分だった。


 支配者階級の女は極力表情を出さないよう教育される。


 真面目な娘はきちんとそれを身に着けていたようだ。


 庶民には珍しい金髪を肩で切りそろえ、きっちりと結い上げてスカーフで隠している。それで充分だと思っているようだが、弟子は綺麗な顔をしている。


 客の中には「うちの息子(孫)の嫁に」などと言ってくる者もいる(来る客の殆どは年寄なのでそういう話になりがちだ)。


 弟子は鉄壁の笑顔の下で迷惑そうにしている。


 適当にあしらうのもうまい娘だったが、そういう客にはそっとスカーフを取って見せるようになった。


 現れた混じりけのない金髪に客の殆どはぎょっとする。


 「縁あってこちらにお世話になっておりますが、私の嫁入りは私の一存では決められませんので」


 そう言って、「実は身分のある家の娘だが、何かしらの理由があってこちらに弟子入りしている」風を匂わせる。


 大概の客はそれで顔色を悪くする。


 「出来るだけ、静かに修行したいんですの。内密に願いますね」


 微笑んで弟子はそっと人差し指を唇に当てる。


 客はその微笑と仕草に初めて背筋を寒くして頷くのだが、それを裏から覗いている私は面白くて仕方がない。


 「趣味が悪い」と弟子には怒られたが、これくらいの娯楽は許してほしい。




 さて、私の薬房は私の道楽だと思われているが、閉めている時に何をしているかというと、当然研究だ。


 魔法薬の研究をしている。


 体力回復、魔力回復、傷病治療、解毒、解呪、向精神薬等々。


 その殆どは、通常の薬よりも効果が高く、また、物によっては患者に合わせた特注となる。


 魔法薬については、王都でも一番だと自負している。


 もっとも、そちらについての患者は殆ど実家経由で連絡が来る。面倒なので、窓口は実家一つに絞ってそれ以外は無視を決め込んでいる。


 楽でいい。


 たまに実家経由でも断れない筋からの依頼も来るが、よほどでなければ受ける事にしているので問題は無い。


 何故なら、どの患者も、患者でありながら被験者でもあるからだ。


 息子に「そりゃ酷い」と笑われた事もあるが、相手にも利のある事なのだし、問題があるとは思わない。


 そう、私には息子が一人いる。


 夫は人を人とも思わないような男だったが、息子はそれなりに育ってくれた。夫に似なくてほっとしている。


 まあ、夫は私が無事に出産を終えると、愛人宅に行ったきり戻らなくなったので、息子と接触する機会などほぼなく、似る余地もなかったのだが。


 夫は魔法馬鹿というのがぴったりの男で、私と結婚したのも、私が古い魔法使いの家の娘だからという理由からだった。愛人は魔法塔の同僚で、火魔法の達人と言われていた女で、これも共同研究者と兼ねていた。どちらが先だったのか。


 魔法魔法魔法で埋め尽くされた人生だった。


 その魔法でもって、王宮魔法使いとしての地位も得た。


 我が世の春をずっと謳歌していた。


 家を放り出して。


 まあ、それに文句は無い。


 私もこれ幸いと自由に動いていたし。


 夫は私に関心がなかったので、私が何をしていたかになど興味もなかった。


 そんな風に、気ままにのんびり日常を送っていたのだった。お互いに。




 そうやって過ごしていたある日に、息子が訪ねてきた。


 珍しい事もある物だと思って奥へ通す。


 薬房には弟子もいて、紹介すると、息子は少し目を見開いていた。視線はスカーフからこぼれる金髪に注がれている。


 ま、息子は魔法使いとして魔法塔に所属し、魔法学校の教師もしている。夫は魔法伯爵という特殊な爵位を得ているので、貴族の息子でもある。弟子の金髪と翡翠の瞳を見て、驚き何かを察しても不思議ではない。


 「あ~、母上?」


 問うようにこちらを見るが私は素知らぬ顔で茶を出してやる。


 「優秀な弟子で助かっているよ。それでいいだろう」


 息子は触れてはいけないと悟ったのか、口をつぐんだ。よしよし、賢い子だ。


 「で、何の用だい」


 こちらから話題をそらしてやると、気を取り直したように表情を引き締めた。


 そしてちらりと弟子を見る。


 聞かれたくないのか。


 弟子は察したのかすっと一礼して薬房を出て行った。


 礼一つとっても磨かれた優雅さがある。


 私たちは思わずほれぼれと見送ったが、ぱたんと扉が閉まる音でまた我に返った。


 「父上が連絡してきまして」


 聞いて思わず眉間に皺が寄る。


 「母上が屋敷にいないのはどういうわけだと」


 ふっと鼻から息が漏れた。


 「今更かい」


 屋敷は現在、ゴーレム数体によって維持されている。


 私は殆ど屋敷にいることはなかったし、当初雇っていた使用人は全員紹介状を書いたり、他の就職先を世話したりして屋敷から出した。


 執事は一人残してあるが、それも私の実家からの使用人で、ほぼ遠隔でゴーレムに指令を出したり様子を見たりするだけだ。


 夫の自室の机の上には、離縁の書類を私の署名だけ入れて置いてある。


 「隠居して愛人と過ごすつもりが、愛人はさっさと隣国の魔法塔へ交流研究者の一員として去ってしまったと」


 変わり身の早い女だが、まあ、そうなるだろうとは予想できた。


 既に老境の夫とは違って、愛人は四十代だ。まだまだ体力も気力も落ちるには早い。


 上昇志向と野心を隠さない魅力的で強かなあの女らしい。


 衰えていくだけの既に公から身を引いた老人になど何の利用価値もないと一顧だにもしなかったに違いない。


 「で、自宅がある事を思い出し、数十年ぶりに顔を出すともぬけの殻。ゴーレムだけが静かに動いていて、更に机の上には離縁届が母上の署名入りで置いてあったと」


 その時の夫の顔を想像して思わず肩を震わせた。


 見てみたかったものだ。


 「大変面白い事態ではありますが、こちらとしては大変迷惑でもありましてね」


 息子はうんざりした顔で大きく溜息をついた。


 「ぼちぼち足腰が弱って独居は問題があるということで、完全看護の療養所を手配しました」


 「ああ、まあ、それでもいいか。屋敷でゴーレムか自動人形に世話させてもいいと思っていたんだがね」


 魔法馬鹿は、魔法書のある屋敷の方が良かったんじゃないか。


 「それが、なんというか、あの父が、一人暮らしは嫌だと言い出しまして」


 「へ?」


 信じられず、息子の顔をまじまじと見る。


 息子は苦笑いした。


 「どうやら愛人とずっと暮らしていたせいか、人恋しさを憶えたらしいですよ」


 「気持ち悪いね……」


 屋敷へ戻ってきたのは、私と老後を過ごす為だったとでも言うんだろうか。


 そんな都合のいい女がどこにいるというのか。


 というか、私をそんな簡単な女と思っていたのか。


 「母上を頼るつもり満々だったようですよ。所が屋敷には誰もおらず、残されていたのは離縁届。相当衝撃を受けたようで」


 「衝撃を受ける事の方が衝撃だよ。私がずっと待っているとでも思っていたんだろうかね」


 「名家の令嬢は一人で何もできず、使用人に傅かれて生きるだけの女と思っていたらしく」


 息子も溜息をつきながら呆れたように事情を説明する。


 なるほど、だから放っておいても問題ないと思っていたわけか。


 「屋敷のゴーレムが母上の作だと知って更に衝撃を受けていた様子です。どうやら母上の事を魔法使いとも思っていなかったようで」


 「ええ……」


 私たちの結婚は当時の魔法塔の長と私の父が取り決めたものだ。


 その際、私の身上書はきちんと父が書き、魔法塔も調べ上げたはず。


 私の趣味と特技は調薬だが、実家の中での魔力量と魔法制御は普通、と書かれていたので、魔法はきちんと使えると読めるはず。


 「それが、父上はちゃんと読んでいなかったのか、趣味を見て魔法の方は大したことがないと思ったらしく」


 「そりゃまああの頃は、調薬に夢中だったし……。いや、でもうちの実家で普通程度って事の意味を分かってなかったということかい?」


 息子は肩をすくめた。


 実家の家系で「普通程度」ということは、魔法がきちんと使えるということだ。


 そういう家だからこそ、魔法塔の長は、私との結婚を勧めたというのに、理解していなかったのか。


 「古い魔法使いの家系という事は理解していても、母上の家の人間は殆ど魔法塔には所属しないじゃないですか。それで、「昔は力のある家だったが、今では大したことがない、血筋だけの家」と思い込んでいたそうです」


 夫は魔法馬鹿だったはずだが。


 我が家の家系の事を理解していなかったとは。


 「ゴーレムが作成できるほどの力の持ち主なら、あの愛人などではなく、母上と共同研究したものを、なんて勝手な事言ってましたよ」


 「ああ、あの人調薬には興味なさそうだったしね。それだけで私にも興味をなくしたんだろう」


 もっとも私も、屋敷で一人でいる時間を持て余して魔法の方を磨いたので、確かに結婚当初の私の力では夫は物足りなかったのかもしれない。


 放っておかれなかったら、今ほどの魔法制御は身に着けていなかっただろうし、放っておかれたからこそ今があるわけだ。夫と共同研究する未来なんて目は最初からない。


 「父上は私と暮らしたがりもしたのですが、私も暫く隣国へ行きますので」


 「ああ、国境の共同開発の準備かい」


 「ええ。色々と、調整官の書類作りにも細かい調査が必要でして」


 「山を削ったり港を作ったりするんだろう?測量も大変だろうね」


 「ええ。私だけでなく、魔法塔の新しい長も参加します」


 「そういや、前の長から手紙が来ていたよ」


 「おや、そうですか」


 「あんな男を夫に推して申し訳なかったと」


 実家も私も抗議しなかったので、文句は無いと思っていたのだろう。


 考えるに、恐らく、私が離縁の書類に署名だけして屋敷を出ている事を知ったのではないか。


 「父上が引退するのを聞いて、前長の方から屋敷へ訪ねていらっしゃいまして」


 「愛人宅でなく?」


 「ええ、まあ」


 察するに、別れたと知って多少は心配したのか。


 私も実家も抗議の一つもしなかったが、それでも数十年放っておいた奥方が不愉快にならないわけがないだろうと、一応は仲人として取り成すつもりでもあったのか。


 「前長もゴーレムを見て驚いていましたよ。たまたま私がいましたので、事情も説明しました。私にも謝られましたよ。今更ですけどね」


 父の不義理を知っていて止めもしなかったのだから。


 「ま、結婚には向かない男だったよ。弱ってから家族を求められてもね。それまでの積み重ねが無いんだから」


 「そういえば、今更ですが生活費なんかどうしていたんです?あんな父でも一応入れていたんですよね?」


 「言えば入れてくれたのかもしれないけど、言わなかったからね。帰ってこなくなったんでわざわざ連絡するのも面倒だったし」


 「え、まさか……」


 息子は眼を見開いた。


 「愛人と暮らし始めてからはこっちに関心もなかったようだしね。ま、それもあって使用人には全員暇を出したんだよ」


 に、と笑ってやる。


 「あんたの養育費は全部私の稼ぎ。というわけで、あんな男、本来は世話してやる必要もないのさ」


 療養所の手配をしてやるだけでも感謝されていいよ、と言ってやる。


 息子は絶句したままだ。


 「あの男の財産がどれくらいかは知らないけど、療養費くらいは賄えるだろう。魔法馬鹿だったから研究に稼ぎを注ぎ込んでばかりだったことも考えられるが」


 「ええ、まあ、特許料などもありますし療養費には充分足りますが、その……」


 息子は言いにくそうな顔をする。


 「殆どの財産は魔法道具関係でして、その名義が、愛人の物になっています」


 「おやまあ。あの女も稼いでいただろうに。強欲だねえ」


 「その、父曰く、手切れ金だと」


 「一応表向きは円満解消って事なのかい?」


 「そのようです。父は不本意そうでしたが、向こうは弁護人を立ててきたので」


 強かだねえ……


 「それで、無駄に金がかかるだけですし、屋敷を売ろうと考えていたんですが……」


 ま、確かに誰も住まない屋敷なんざ不良債権だ。


 「いいよ。いつまでにゴーレムをどかせばいい?」


 「いえ、今、考えを変えました。いずれ売るかもしれませんが」


 「うん?」


 息子は決意したように顔を上げた。


 「こちらも弁護人を立てようと思います」


 「弁護人?」


 「我々に対する生活費、および私に対する養育費を払う義務を放棄していた以上、父からそれを取り立てる権利があります。遡って、元父の財産からそれを支払わせる為にも、愛人に与えた財産から徴収する事が可能かどうかを相談しようかと」


 「そりゃ無理じゃないかい?もうそっちは弁護人が入って処理されてしまっているだろう」


 「ええ。ですが、慰謝料として取り立てるのは可能と思われますので」


 ああ、なるほどねえ……。


 浮気の慰謝料か。


 「いいんじゃないかい?弁護人については当てがなければ実家に聞いてみるといいよ」


 「ええ、そうします」


 息子は目に力を込めて頷いた。


 夫と愛人については、放置していた私にもいささかの責任はあると思うので、多少申し訳ない気持ちもある。息子に対しては。


 息子は父を知らずに育ったので。


 「いい加減あの女もこちらを舐めきっていましたからね。少しは痛い目を見るといいです」


 息子は少し苛ついたように言った。


 あの女との接点などなかったように思うが、どこかで会って、皮肉の一つも言われたのだろうか。


 「ま、奔放に生きてきたんだ。代償も覚悟のうちだろうさ」


 私は元より関心がない。


 女と顔を合わせる機会もなかった。これからもない。


 息子は用件だけ告げると、時間が押していたようで、すぐに席を立った。


 想像以上に忙しいらしい。


 「身体には気をお付けよ」


 そう言って、商品棚に並べてある商品の中から、透き通った蜂蜜色の薬瓶を選んで息子に渡した。


 「回復薬ですか?」


 息子は濁りのない水薬をかざすように見ながら言う。


 「ああ。一番新しい弟子の自信作だよ」


 「ああ、先ほどの……」


 息子は扉の方を見やった。


 「母上の弟子はわけありの人間が多いですが……」


 「何も聞かないどくれ。あんたは何も知らない。無関係でいい」


 「……」


 面倒事の気配を感じ取ったのか息子は微かに顔をしかめたが、この母に何を言っても無駄であることは判り切っているので首を振るにとどめた。


 「また連絡します」


 「ああ、待ってるよ」


 息子は回復薬の礼を言って帰って行った。


 直ぐに背後の扉が開き、弟子が静かに入ってきた。


 別段驚く事ではない。弟子は魔力で人の気配が判る。


 「悪かったね。作業を続けておくれ」


 「はい」


 弟子は返事をして、途中で止めていた薬草の仕分け作業の続きを始めた。


 「夫の先は長くなさそうだよ」


 「そうですか」


 「あんたにも迷惑な男だったがねえ……」


 弟子は微かに笑った。


 気が付くと、背中に魔法印を刻まれていた。


 未だに何時どうやってつけられたのか判らないという。


 「そういえば先生」


 「なんだい?」


 「姉が手紙を送ってきたんですが、見てもらえませんか?」


 姉と言うと、元第一王女殿下か。


 現筆頭侯爵家夫人。


 弟子と違って、中身まであの母親そっくりと聞く。


 「あんたたち、仲良かったのかい?」


 「いえ、ずっとお互い無関心だったのですが、姉が婚儀の一ヶ月ほど前に突然訪ねて来まして」


 その時の話を弟子は少し楽しそうに話して聞かせてくれた。


 母親に対してずっと疑いの目を向け続けていた事がそこで明らかになったとか。


 「子供はよく見ているって事なのかねえ」


 「私は、姉が母の模倣をしているのだと思っていたので、実際そうだったわけですが、その、皆と同じように母を崇拝しているのだと思っていたのです」


 実際は違ったと。


 第一王女にしてみれば、それは唯一己を守るための手段であったと。


 そうして、弟子はローブのポケットから結構厚みのある封筒を出してきた。


 そこには、辺境に隠遁した母である聖女との往復書簡の写しが同封されていた。


 「こりゃまた……」


 「姉は完全に面白がっています。程々にしておいた方がいいと返事を書いた所です」


 元聖女は、辺境へつれていったはずの第二王女を道中で殺すつもりが殺しそこねた。


 わざと山中に取り残した馬車を頃合いで様子を見に戻ったが、からっぽの馬車があるばかり。第二王女の死体どころか手配した賊の気配もない。争った跡もない。


 忽然と消えてしまった。


 もとより、代わりの子の用意はしていたわけだが、一体、その子に何と言い含めているのだろう。


 そして、元聖女の両親は何かおかしい事に気がついてはいるようだ。


 「まさか辺境に姉からあんた宛てに連絡が来るとは思ってもみなかったのだろうね」


 「ええ。同じ王女宮に暮らしていても、私たちはずっと没交渉でしたから。母もまさかと思った事でしょう」


 「こりゃ、代役の子もそのうち殺されてしまうんじゃないか」


 死んだことにすれば、手紙は来ない。


 「どうでしょう。亡くなったと知らせれば、姉は葬儀に出たがるでしょう」


 「辺境だから待てずさっさと済ませたと言うだろうよ」


 「それでも行くと思います」


 その場で墓を暴くのか、妹の事を明かすのか。


 「姉は愉しみの為ならそういうことをしてしまうと思います」


 「そうかい」


 私たちに止める術は無い。


 勝算があるのなら、そうするのもいいだろう。


 こちらに迷惑をかけないでもらいたいが。


 「やはり少し、姉は狂っている気もします」


 「そうかい?」


 「先ほどの先生の息子さんの対応を見ていると」


 理性的でした、と。


 言われて息子の何かをきっぱりと思いきったような目を思い出す。


 「あれはあれで、やっぱり少し歪んでしまったかと思うよ」


 「そうですか?」


 「父親との接点を作ろうとしなかった私にもその責任の一端はあるんだろうけど」


 「それでいえば、姉があのようになってしまったのは、やはりうちも両親の見せてきた姿のせいだと思います」


 思わずため息が漏れてしまった。


 「仕方ないねえ。なかったことにはならない」


 「ええ」


 弟子は短く答えて、何枚もの往復書簡を封筒へしまった。


 「だが、それは私にもとても面白いよ」


 分厚い封筒へ目をやって私は正直に言った。


 「続きが来るならまた見せとくれ」


 弟子は一瞬だけ呆れたような表情を見せたが、そっと頷いて微笑んだ。

タブレットが突然、夕焼け色というかセピア色というか、赤味が差しまして……

タブレットのせいなのか(古いし)、緑内障などの見え方のせいなのか(歳ですし)。

怯えながらPCの画面を見ましたら、こっちは普通でした。


……買い換えでしょうか。

使えない事は無いんですが。

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