05・元第一王女の密かな愉しみ
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お母様、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。
お会いしたことのないおじい様おばあ様はお元気でいらっしゃいましょうか。
そちらは王都より南寄りになりますから、少し暖かいのでしょうか。
体調の方は少しは改善なさいましたか?
どうかお健やかでいらっしゃいますようお祈りいたしております。
所でそちらの妹へ手紙を出したのですが、未だに返事がなく心配しております。
王宮へ問い合わせた所、無事に到着はしているとのこと。
一安心いたしましたが、長旅で体調を崩しでもしたのでしょうか。
妹とは、嫁ぐ直前に初めて長く話をする機会を設け、お互いに親睦を深めました。
意外にも私たちには共通点があり、話も弾みました。
もっと早くに沢山話をしておけばよかったと後悔したのです。
せめて手紙で交流できればと考えております。
どうか妹に、あの日の二人きりのお茶会は楽しかったとお伝えくださいませ。
本好きの妹の為に、王都で流行の小説を送ります。
お渡し頂ければと思います。
妹と感想を語り合うのを楽しみに、返事を待ちます。
面白い小説でしたので、お母様もお時間があればお読みになってみてください。
それでは、くれぐれもお体に気を付けて。
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こんなところでどうかしらね。
どんな返事が来るか楽しみ。
ま、来ないかもしれないけど。
それならそれで、どんどん手紙を出すだけよ。
ああ楽しい。
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母です。元気にしております。
あなたのおじい様おばあ様も元気です。
あなたにも一度会いたいそうですが、この距離ではね。
お互い身動きが取れない身ではどうしようもないです。
所であなたの妹は、今、生憎、体調を崩して床に就いています。
あなたの危惧した通り、長旅が堪えたようです。
とても本を読んだり、手紙を書いたり出来るような状態ではなく、暫くは返事は待って下さい。
そういうわけで、あの本は母が先に読みました。
あれは恋愛小説なのかしら、復讐譚なのかしら。
確かに面白かったけれど、母はもっと明るい話の方が好みです。
それでは。
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まあ、うまいこと逃げたわね。
いつまで持つかしら。
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お母様。
妹の具合が良くないのですね。心配です。
一度夫に頼んで、そちらへお見舞いにいってみようかと考えております。
その時はご連絡いたしますね。
所で先にお送りした小説はお気に召しませんでしたか?
今王都でとても人気で、今度舞台化もされるそうです。
確かにドロドロしておりますけれど、最後は浮気した二人が盛大に復讐されてすっきり致しますでしょう?
恋愛小説と思わせて復讐譚ですわね。
それでは妹によろしくお伝えくださいませ。
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さあ、なんて返事が来るかしら。
とっても楽しみ。
あ、小説は婚約者を裏切った男の話よ。
お母様に読ませるにはなかなかにパンチの利いた話でしょ?
どんな顔して読んだのかしら。
実を言えば妹は恋愛小説なんてほぼ読まないの。
多分送った本はあんまり喜ばないと思うわ。
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母です。
あなたの妹は現状、あまり良い状態ではなく、誰がお見舞いに来てもそうそう会わせられない状況です。
暫く待ってください。良くなればこちらから連絡します。
それから、また本を送ってくれてありがとう。
でも、前も知らせた通り、もう少し明るいお話が読みたいの。よろしくね。
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今度送った本はね、浮気相手が生霊となった正妻から憑り殺される話。
趣味悪いかしら。
でもこれも王都で人気なのよ。
浮気した男が悪いんだけどね。
母、これも律儀に読んだのね。多分。
まあ、田舎は娯楽が少ないでしょうから。
思いつきで本を送っているけれど、良い嫌がらせかもしれないわ。
妹が良くなった連絡なんて、何時寄越してくるつもりかしら。
このまま知らんぷりするつもりなのよね、きっと。
やっぱりそのうち、こっそり行ってやろう。
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お母様、久しぶりにお便りします。
実は先日、夫が所要で遠出する事がありまして、私も同行しました。
お母様がお住まいの近くでしたので、時間はあまりありませんでしたがお屋敷の方へも行ってみました。
お庭の方にいらしたご夫婦がおじい様とおばあ様と思われました。
お母様にどことなく似ておいででしたし。
気のいい方々でした。
柵の外にいた私に声をかけてくださいました。
孫と明かしてきちんとご挨拶したかったのですが、一緒にいた少女を孫と呼んでいらっしゃいました。
妹ではなかったので、あの方たちはおじい様おばあ様ではなかったのでしょう。
お母様、他にご兄弟はいらっしゃいませんよね?聞いたことありませんもの。
残念でしたわ。
時間が無くて、あの方たちと少し話しただけで帰ってきました。
妹に会いたかったです。
いつかちゃんとお見舞いにいける事を祈りつつ。
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祖父母は私を領主邸の客人と思っていたよう。
言葉づかいが丁寧で、貴族への応対には慣れている様子だったわ。
娘が聖女だと慣れざるを得なかったのかしら。
私が娘に似ている事には気が付いているようだったけれど、踏み込んでは来なかったわ。平民としては正しい対応よ。
お母様の親とは思えない程善良で賢い人達だったわ。
そしてお母様は、あのどこの誰ともしれない子を孫と呼ばせているのね。
酷い話。
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母です。
突然の訪問は遠慮してください。こちらもそれなりの準備が必要なので。
庭の老夫婦は恐らく庭師でしょう。
妹は、まだ伏せっています。
早くあなたに良い便りを出したいわ。
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白々しい。
この事、父に言ってみようかしら。
暇なようだし。
と思ったけれど、この前父も遠出したらしく、帰ってきてから体調を崩しているそう。
タイミングが悪いわ。
年寄じゃあるまいし、ちょっと遠出したくらいで具合悪くなるなんてどうかしてるわよ。
とりあえず、この愉快な手紙のやり取りは妹と共有しましょう。
妹は愉しんでくれるかしら。
真面目な子だから、程々に、と言っておしまいかもしれないわね。
一緒に愉しめる人がいないのが残念だわ。
ここまでは一気に書きました。
続きは少しお待ちください。




