【ケース5】伊豆『も』踊り子
私は今、伊豆の山中でまるで卒塔婆のように立ち並ぶ杉の密林を雨に追い立てられるように歩いている。するとと前方に狭いトンネルが見えてきた。
トンネルの中は薄暗く入るのが躊躇われたが、しかしこのトンネルをくぐらないと目的地には着かない。
なので私は意を決してずんずんとトンネルの中に入っていった。
そして歩くこと数分。トンネルを抜けるとそこは『雪国』ではなく伊豆だった。そして伊豆と言えば踊り子である。
だが、その知名度はあまり高くない。いや、文学の世界では金字塔的な知名度を誇っているのだが『踊り子』という言葉単体では伊豆の踊り子はそれ程有名ではないのだ。
ではどこが有名なんだと問われれば10人中、12人は『浅草ロック座』の名を挙げるであろう。
そう、踊り子と言えば『浅草ロック座』。『浅草ロック座』と言えば踊り子なのである。
いや、本当ならば川端康成の『浅草紅団』にも登場する『カジノ・フォーリー』を押したいところなのだが、『カジノ・フォーリー』は内容的に踊り子というよりは女優が主なので『浅草ロック座』に軍配が上がった。
とは言え、昭和初期から中期にかけて一般に人気を博した踊り子と言えば圧巻のラインダンスで大衆を魅了した日本劇場のダンシングチームだろう。
そしてその人気にあやかろうとしたのか、ここ伊豆でもラインダンスを出し物にして客を呼び込もうとする動きがあった。
実際、その為の踊り子たちも集められ、今は猛特訓の最中との噂が流れていた。
しかし『ガラスの仮面』ネタは既に使ってしまっている。なので今回はちょっと小説から離れて村下孝蔵の『踊り子』をネタにしようと思ったのだが、権利等をクリアさせるのが面倒なので画家のエドガー・ドガの『踊り子』をモチーフとする事にした。
まぁ、たまには洋風なストーリーもよいだろう。で、ドガと言えば変態なくらい踊り子の絵を描いた画家として有名だが、まぁ画家とは漫画家や小説家と違い自分が好きなものを描いてそれで世間を納得させるくらいでないと本物として認められないらしいからこれはこれでいいのかも知れない。
彼のゴッホだって執拗に『ヒマワリ』を描いたらしいし、モネだって『睡蓮』を何枚も描いているしな。
ではそんなドガが書いた一枚の絵を題材としてその絵に隠されているであろう物語を読み取ってみよう。
その作品の名は『エトワール』。これは一般的には『踊り子』と呼ばれている作品だ。
因みに『エトワール』とは『星』、つまり『花形スター』を指す言葉で、この絵における意味としては『首席ダンサー』という事になるらしい。
で、この絵は一見少女が舞台で舞っている情景を描いているように見えるが、中野京子氏著『怖い絵』では、この絵は当時のとても怖い情勢を絵の中に隠しているという事だった。
それは絵の中にカーテンで顔が隠されている黒服の紳士の姿が書き込まれている事だそうだ。そう、実はこの男性は踊り子の『パトロン』として描かれているらしいのである。
まぁ、パトロンと言ってもぶっちゃけると男は踊り子のエロい意味での『パパ』なのだ。つまり当時の踊り子たちは出が貧しい家庭の娘が多かったので裕福な男の愛人となることで貧困から抜け出そうともがいていたらしいのだ。
そしてその事は画家が皮肉たっぷりに絵の中に紛れ込ませてしまうほどあたり前の時代だったのである。
もっともこれは別にこの時代のバレイダンサーに限った事ではない。そもそも温泉街などでの踊り子の立ち位置なども似たり寄ったりのところがあるのだ。
まぁ、『売春』は世界最古の女性の職業とも言われているので、遺伝子に組み込まれている本能に従った素朴な手段なのだろう。
ただその元締めが中間搾取をして、且つ女性たちを使い捨てにするのが問題なのだと思う。
その事をドガは皮肉たっぷりに芸術という表現の中に落とし込み、それらを鑑賞し意識高い系だと嘘ぶく当事者たちを笑ったのだろう。
うむ、私もいずれはそんな物書きになりたいものだ。でもまずは喰わねばならぬ。なのでまずはこの『伊豆『も』踊り子』という作品を仕上げねばならない。
ならないのだが今回は少し手強かった。これは多分私の知識と倫理の引き出しの少なさからくる展開狭さがそうさせているのかも知れない。
つまり『こたつ記事』のような事を書いているようでは駄目だという事だな。
いや、待てっ!伊豆『も』の読みは『いずも』・・。つまり『出雲』・・、ぎゃあっ!こんな鉄板なネタを見落としていたぁっ!
伊豆『も』踊り子は『出雲の踊り子』、つまり巫女様の話でよかったじゃないかっ!ドガなんて巫女様に比べたら男の子たちに全然アピールしないぞっ!
くっ、失敗した・・。リサーチ不足だった。
とは言え、私って別段巫女について詳しくないから書けと言われても書けないな。そもそも『ガラスの仮面』だって読んでないし・・。全部グーグル先生に聞いた受け売りだし。
と言うか、私って小説を書きにこの旅館に来たはずなのに、書いたものはなんかエッセイ風なものばかりになっていないか?
なので次は軌道修正しよう。うん、エロ小説家と言えど腐っても小説家だからな。なので次は本業のエロ小説で勝負だっ!
-伊豆『も』踊り子 完-




