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【ケース2】伊豆『ぬ』踊り子

さて、いきなり文法の話で恐縮だが、『ぬ』とは否定の助動詞『ない』の別形である。なので伊豆『ぬ』踊り子とは『伊豆ではない踊り子』という意味になる。

そして伊豆ではない踊り子とは、つまり『タカラジェンヌ』の事だ。


嘘である。タカラジェンヌにそんな別名はない。だが『伊豆ではない踊り子』とは、言葉通りに受け取れば『伊豆以外』の踊り子となる。

なので関西に拠点を置くタカラジェンヌも伊豆『ぬ』踊り子と言えなくはない。


更に1929年に誕生した『カジノ・フォーリー』は川端康成の『浅草紅団』にも登場する人気劇団だったらしいのだが、もっとも劇団はあくまで劇を見世物にする商売であり、川端康成繋がりではあるが踊り子とは若干趣向が違う。


なので関東地方でタカラジェンヌに匹敵する人気を誇っていた踊り子たちと言えば『日本劇場(日劇)』のダンシングチームだろう。特に彼女たちのラインダンスは圧巻であった。


因みにラインダンスとは踊り子たちが舞台上で一列になり、一糸乱れぬ動作で巧みに踊るダンスの事で別名ロケットダンスとも言う。

もっともラインダンスは和製英語であり、英語では「プレシジョン・ダンス」と言うらしい。


また、複数のダンサーが全員同じ振り付け踊るダンスの事を『ユニゾン』とも言い、SNSなどではそれらの動画が人気らしいのだが、迫力と高揚感ではラインダンスの方が上であろう。

いや、そもそも芸術に上下の区別をつける事自体が不遜か・・。うん、失礼した。


まぁ、どちらにしても踊り子たちが煌びやかな衣装を身にまとい一列にて様々な振付で踊るショーは観客たちも大喜びで大いに盛り上がる場面であった。

なので昔の賑わいはいづことなってしまった今の伊豆でも唯一お客を呼べる催し物としてラインダンスは大切にされており、その踊り子に抜擢されるには厳しい審査に合格する必要があった。


そしてここは明日の『伊豆ぬ踊り子』を目指す女の子たちが集う『劇団つきはぎ』のレッスン場である。

そう、ここでは明日の踊り子を夢見る少女たちが日々練習に明け暮れているのだ。


そして今日も『劇団つきはぎ』の主宰者であり演技指導者でもある『継萩千草』が少女たちを厳しく指導していた。


「恋菜っ!何度言ったら解るのっ!レッスン中におちゃけを飲むんじゃないっ!」

「ちっ、違います、継萩先生っ!これはおちゃけじゃなくて泡の出る麦茶ですっ!決してビールなんかじゃありませんっ!」

千草の叱責に恋菜は必死に抗議する。だが自分でビールだと言ってしまっているところが所詮はまだ自称13歳の少女である。

はい、あくまで自称です。お酒は20歳になってからっ!


だがそんな恋菜に対して実に上からの態度でマウントを取ってきた者がいた。その者とはくるくる縦ロール髪な劇団マドレーヌ所属の黒井美紗自称13歳だ。

因みに黒井美紗はここぞという見せ場では『白目』になるのが定番だった。


「ほほほ、言い訳だなんて見苦しいですわよ。それにどうせ飲むならば私のようにポリフェノールが沢山摂取できる赤ワインを飲まないと。ひっく。」

注訳:ポリフェノールには強い抗酸化作用があり、動脈硬化予防、認知症予防、血圧降下、美肌効果など、さまざまな健康効果が期待されると言われています。

ですがどう言い包めようともアルコール飲料なので飲み過ぎれば意味がありません。

と言うかお酒は20歳になってからっ!


「黒井美紗っ!あんたは劇団マドレーヌの所属でしょうがっ!なんで劇団つきはぎの稽古場にいるのよっ!後、酒臭いわっ!どんだけ飲んだんだっ!」

「やぁねぇ、おふらんすワインなんて私に水よ、水っ!因みに私がここに来たのはあなたに格の違いを見せ付ける為っ!さぁ、勝負よっ!神輿 恋菜っ!どちらが『伊豆の踊り子』に相応しいか今日こそ決着をつけましょうっ!」

美沙の宣言により、いきなりレッスン場が伊豆の折れ曲った急な坂道を登りきった峠の北口にある茶屋へと変わった。

そしてそこに家族関係に悩みひとり伊豆へ現実逃避旅行にきていた、という設定で大都会芸能の若社長『速水真水』24歳がやって来た。


しかし恋菜と美紗の脳内では現在『紅えんじぇる』のヒロイン『阿漕夜』を巡って壮絶な演技バトルが繰り広げられており『速水真水』の事は目に映らなかったようである。

なので速水は彼女たちから席を譲られる事もなく茶屋を後にしたのだった。


しかしレッスン場にいる少女たちにとってはイケメンよりも踊りの方が大切なのだろう。なので忽ちレッスン場はラインダンスの舞台へと変わり、一列に並んだ少女たちが華麗な衣装を身にまとい音楽にあわせて一糸乱れぬ動作で足を上げ下げしていた。

勿論そのセンターにいるのは恋菜と美紗だった。そう、ふたりに間には確執はあれど踊りに対する情熱は同じだったのだ。


その後、演技指導者である『継萩千草』から合格を貰った少女たちは町の露天風呂へと向い汗を流した。

だがその状況を『速水真水』に隣の風呂から覗かれていたの事を少女たちは知る由もなかった。

注:覗き、盗撮は犯罪です。犯罪歴持ちに世間は冷たいぞっ!


とは言え、このラッキースケベイベントにより『速水真水』は心の充足を得、その後自分の悩みなんてちっぽけなものだと気づいた。

なので悩んでいた家族との葛藤も霧散し、ひとり船上の人となり家路についたのであった。


勿論船内で隣り合わせた少年と同衾し涙を流すという、微妙にBL臭を敢えて醸し出したのはそっち系の読者におもねった演出であるのは明白だった。


あっ、名台詞である『恐ろしい子』を入れるのを忘れた・・。まっ、いいかっ!


-伊豆『ぬ』踊り子 完-

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