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08 だから困っているんですよ


 エリックとのデートが明後日まで迫って来た。

 先日あった際に気が付いたらデートをすることになっていた。何故そうなったのか正直よく覚えていない。

 式典の話を受けて、それからいつものように話をしていたら、二人で出かけようと言われて、頷いて。そしたらまたエリックが嬉しそうに笑って。なんだかどんどん後に引けなくなっている気がする。


 もちろん、今までだって一緒に出かける機会はあったが、デートと言うよりは単なるお出かけに過ぎず、それなりに楽しく過ごしていたが今回ばかりは何となく気まずい。

 気まずい理由は、明らかにエリックの態度が今までと違うから。


 帰って以来、どういうわけかエリックと物理的に距離が近い気がする。

 何がエリックをそうさせるのかはわからない。一年間離れていた埋め合わせなのか、その間に心境の変化があったのか。

 そういえば訪れた場所や何があったかは話してくれていたけど、スキンシップが増えた理由は話してもらったことはなかった気がする。私が聞いていないのもあるけど。

 でもだって、聞けないでしょう? 今までそんなことなかったのに急に、まるで恋人にするような接触をされて。こっちはいっぱいいっぱいになっているのに、そんなに冷静に質問とかできるわけがないじゃない。


「電球替えに来ました」


 軽いノックの後に脚立を持っているスタンリーと、替えの電球を持っているメイドが自室の扉を開けて入って来る。

 うちの使用人たちは割と自由で、主人の娘が部屋に居ても平気で入室して備品の入れ替えをする。家人と使用人の距離が近いとでもいうのかしら。礼節がないわけではないけど、普通部屋の主がいない間にやらない? 別にいいけど。


「また一人でうだうだ言ってるんですか?」

「放っておいて」

「はいはい。話ぐらい聞いてあげますから」


 相変わらずメイドたちの力仕事や雑務を手伝っているスタンリーを横目にのそりと体を起こす。

 なによ、皆して。私は真剣に悩んでいるのに。


「そういえばエリック様とのデートは明後日でしたね。先日仕立てたワンピースをお出ししておきます」

「うっ」

「ハンナ、今その話題をお嬢様に振るのは酷というやつですよ」


 改めて目前に迫った予定を突き付けられると、どうしていいかわからなくなるわね。

 脚立に上ったスタンリーに新しい電球を渡しつつメイドが首を傾げる。


「エリック様とのデート、気分が乗らないのですか?」

「嫌じゃないから困ってるの」


 メイドの問いに苦し紛れに返せば、その内結婚する相手なのに、今からそんな状態でどうするのだと呆れるスタンリーの言葉が突き刺さる。

 エリックが嫌いなわけではない。嫌いではないが、今まで幼馴染として友人の様に接していた相手に、今更どのような顔をしてデートをすればいいのかよくわからなくなってしまった。

 それに周りの皆には、私とエリックは仲の良い関係であると見えているらしい。


 いえ、それは問題ないのよ。だって幼馴染で婚約者だもの。

 付き合いだって長いし、それなりに仲は良いと思う。でもその仲の良さって友人だとか幼馴染としての仲の良さであって、婚約者とか恋人同士の仲の良さではない。はず。


「お嬢様がそういう雰囲気が苦手なのは、今に始まったことではないですが、さすがにこのまま何のアピールも気付かれないというのも不憫なのでね」


 肩を落として息を吐きながらスタンリーが脚立から降りてきた。部屋の電球は全部変え終わったらしい。お疲れ様。でもあなたが何を言っているのか意味がわからないわ。

 不審に思いながらも見上げると、何かを思い出したようにスタンリーがこちらを見下ろす。


「そういえば明日、ロジェ様が帰ってくるようですよ」

「ロジェ兄様が?」


 メイドに先に戻るように声をかけて、立てたままの脚立にスタンリーがもたれかる。

 ロジェ兄様は騎士団に入っており、普段は寄宿舎で暮らしていて、時折お屋敷に帰ってきてくれる。


 ロジェ兄様が帰ってくるのは嬉しい。お話もしたい。けど、突然ロジェ兄様のことを言い出すなんて何かあるのかしら?

 もしかしてエリックが変わったのはトレーニングを始めたからだとして、私もトレーニングの何たるかを理解して、エリックの話している内容を理解しろってこと? 確かにお兄様なら聞けば教えてくれるだろうし、エリックの話を理解したいとは思うわよ?

 ただ今はなんだか以前よりも物理的に距離の近くなったエリックにどんな顔をして向き合えばいいかわからなくて困っているのであって。

 いえ、まぁ聞いてみるけど。


「肩を持つわけではないですが、せいぜい頭を悩ませてやればあの方の気持ちも浮かばれるでしょうよ」

「意味わかんない」


 またため息を吐かれた。なんの話をしているのよ。私に聞かせるなら、私にもわかる話をしなさいよ。

 むっとして睨み上げれば、スタンリーはまた肩を落として、今度はさっさと脚立を片付けて退出してしまった。

 自分で考えろってこと? せめて何の話かぐらいはしていきなさいよ。本当に意味わかんない!




基本甘やかされて育ってるので、なんでも教えて貰えると思っているお嬢様。

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