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07 少数派の主張

 貴族社会に生きていると、どうしても外せない付き合いが発生する。

 国主催の式典や交流会だったり、家同士のつながりを確認するためのお友達とのちょっとしたお茶会だったり。参加自体が嫌というほどではなく、けれども億劫なそれを、今身をもって体験している。


「その……随分と、お変わりになられたそうね、エリック様」


 噂に聞いたのだけど、と頭に付けて口を開いたお友達は若干顔が引きつっていた。

 今日は私と同じ貴族令嬢のお友達とのお茶会があった。

 親に年の近いもの同士をあてがわれたのが、私たちの関係の始まり。特別仲が悪いわけではなく、定期的にこうして近況や趣味の話をしたりする程度には仲が良い。言うなれば、同じ貴族社会を生きていく仲間みたいなものね。


 ある程度分別が付くようになった頃、色々あるだろうけど、ムリの無い範囲で一緒に乗り越えて行こうねと話し合ったのが懐かしい。

 その、色々、というのが今ここにきているのだけども。


「大変な旅だったと聞いていますが、よほどのことがあったのでしょう」

「あまり上手く、言葉が見付からないのだけど……大丈夫? マリー」

「大丈夫、なのかしら? 正直私もよくわからないの」


 シャルとオルタンシアの気遣わしげな視線がとても苦しい。

 エリックが魔王を倒すための旅を終えたことと、そのエリックの容姿が随分と変わってしまった話はもうすっかり広まっているらしく、ここに来るまでもなんだかメイドたちにいたわしげな視線を向けられていた。

 まぁ。その、うん。元々のエリックはとても女性に人気のある容姿をしていたし、シャルもよく目の保養だと言っていた。それが、帰ってきて以来は見る人を選ぶと言えばいいのか、ムキムキになっていた。

 言葉を交わせば、内面まで大きく変わったわけではないとわかるわよ? でも体が大きくなったのもあって、威圧感があるのは否めない。本人も帰ってから人によく怖がられると言っていたし、二人の反応が、普通なのかもしれない。


「でも、話している分には普通なのよ? 確かに変わったところもあるけど」


 ひとまずエリックが無事帰ってきたことへの労いと共に、こちらを伺う二人に返す。

 うん。普通よ、普通。今までと同様楽しく話ができるもの。どこで何を見たか、仲間とどんな話をして、どんなことがあったか。聞いていて心が躍るような話をたくさん聞かせてくれる。

 その合間に、トレーニングの話がよく挟まってくるのだけど。


「例えば?」

「えぇと。こまめに時間を割いて会いに来てくださったり、この間も出かける約束をしましたし」

「まぁ、デートね」

「もしかして私たち惚気られてます?」

「え、ちがっ! そういうわけではないのです」


 ただ以前のように、気遣ってくれているという話をしたかったはずなのに。

 見た目も変わってしまって、新しい趣味としてトレーニングに熱中している一面もあるけど、元のエリックの優しさは変わっていない旨を改めて伝え直すと、それはもう、綺麗な笑顔を二人に向けられる。


「お二人はとても穏やかに過ごしていらっしゃると思っていたから、少し意外ですわ」

「ええ。でも安心しましたわね」


 何故か微笑ましいものを見る目を向けられている。非常に気まずい。決して二人が思っているようなものではないのよ? ……多分、あんまり自身がないけど。

 確かに、なんだか最近エリックとの距離が近くてそわそわするけど、私はそんなつもりはなくて。いえ、婚約者ではあるのだけど、あくまで私たちは幼馴染であって。

 あんな、何の理由もなく腰を抱かれたり、苺を食べさせられたりだなんて、お父様とお母様みたいなこと……!


「私たちにはわからない、今のエリック様の良さがあるのでしょうね」

「ええ。なんだかとっても可愛らしいわ」


 そうよ、これよ。こういう何とも言えない、からかいを含んだような目があるのが嫌なのよ。にこにこと、笑顔で紅茶をたしなむ二人をじっとりと見る。

 多分、言えば二人はやめてくれるでしょう? でもそれは根本的な解決にはならないだろうし、二人がそういう反応をするってことは、きっと他の人だって同じような反応をするのだろうし。


 やっぱり、どこの女性もそういう話が好きだし、そういう関係なのが普通なのかしら?

 今でさえ、エリックとの距離が突然近くなってどうしていいかもわからないのに、お父様とお母様みたいな距離になるのはさすがにムリよ? だってあんな、人目もはばからず、片時も離れたくありません! なんて常に甘ったるい雰囲気が漂う関係、さすがに恥ずかしすぎるわ!

 酷い時はお父様がお仕事をしに書斎に行くだけで、根性の別れみたいに大げさに悲しむのだから。いくら家族であってもちょっといたたまれない。


「あまりからかわないでくださいまし」


 甘いのなんて生クリームたっぷりのケーキだけで充分よ。二人の視線から逃げるように、テーブルの上に行儀よく座っているティーカップに手を伸ばす。

 品行方正、とまではいかずとも、慎ましやかに、穏やかに暮らせればいいじゃない。今までだって幼馴染兼婚約者として何の問題もなく過ごしてきたのだから。

 はしたないとはわかりつつも、勢いに任せて飲み干した紅茶はハーブとすっきりとした味わいで。胸の中にあるもやもやしたものも一緒に押し流してくれそうだった。



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