44 赤く咲き誇るのは
式典が終わり、穏やかな日常が帰って来た。
私自身はそこまでバタバタしていたわけではないけれど、別のことで気を揉んでいたし、それも解決してすっかりのびのびとさせてもらっている。
今日もいつものように、会いに来てくれたエリックと二人のんびりと話しながら過ごしているわけだし。
まぁ、うん。仲直りはできたと思う。以前のように、というわけではないけど、よい方向には行けたのではないかしら。
相変わらずエリックは私には理解できないトレーニングの話をしているし、トレーニングと称して謎の行動をとることもある。でもそこに不快感は無く、むしろ好意的に感じるというか。私だって観劇趣味に付き合ってもらっているのだしこれくらいわね。
とにかく、それはそれとして今日もサロンでエリックと二人、隣り合って座り午後の一時を過ごす。テーブルの上にはティータイムのセットと、バラの花束が飾られている。
この花束はさっきエリックから受け取ったのをそのまま、メイドに飾ってもらった物。なんというか、また本数が増えているのよね。
この前まで両手で抱えられる程度の花束だったはずなのに、受け取った時思っていたよりもずっと重くて一瞬ふらつくくらいの重さになっていた。
「いつも有難いのですけど、どうしてまた、こんなにたくさんのバラを?」
「うーん、バラに埋もれてるマリーが可愛いから、とか?」
「またそんなことを言って」
式典までの間、色々と話をしてお互いに少し遠慮が無くなった。
今までなら一度呑み込んで、言葉を選んでいたものを、そうしなくなっただけだけど、多分私たちにとっては大きな変化だと思う。
「全くもう。……別に私は、あなたからもらえるのならただの一本だって嬉しいのに」
「……君の気持ちは嬉しいが、これからも増やすつもりなので覚悟しておいてくれ」
「なんでそうなるんですか」
ちらりとテーブルの上の花瓶を見る。
シェフに頼んで作ってもらった、エリック用の軽食セットの中央に鎮座した花瓶は、そこそこの大きさをしているのに、それでも零れ落ちそうなくらいのバラの花が活けられていた。
「百一本あるよ」
「そんなに?」
エリックのお家には確かに見事なバラ園があるけど、なんでまた、こんなにたくさん。今までは四十本だったはずよね? 何がどうしてこんなに増えたの? 贈り物をしてもらえるのは嬉しいわよ? でもわざわざ、以前よりも本数を増やす意味って?
わけがわからないまま花瓶のバラとエリックを見比べれば、くすくすと困ったように眉を下げて彼が笑う。
「バラの花にはね、本数によって花言葉があるんだ」
「本数によってもあるの?」
「うん。因みに百一本のバラの花言葉は『これ以上ないほど愛してる』」
これ以上ないほど……、それを贈っていたと? にこにこと、なんてことない顔で笑うエリックに体温が上がる感覚を覚える。またこの人は、簡単に言って。きっと私の反応を見て楽しんでいるんだわ。
そこで、はたと気が付く。バラの本数によって花言葉が違うのなら、今までの花束にも、何かしらの意味が込められていたのとしたら?
「あの、もしかして、今までの本数にも?」
「十一本が『最愛、宝物』で、四十本は『真実の愛』だね」
なんてもの贈ってきてるのよ。
「全く気が付いてもらえないから、どうしようかと途方に暮れていたよ」
気付いてもらえないって、本数によって花言葉が違うなんて知らなかったし。
バラの花束は贈り物としては定番だし、深い意味はないって思っていたんだもの。
「だってあの時はまだ友達だと思ってたし」
「酷いな。私はずっと君が好きだったのに」
どうしてこの人はそう、……もう! 頬を掻きながら笑うエリックを睨み上げる。大して効果はないかもしれないけど、そうでもしなきゃやっていられない。
だって、そんな態度見せなかったじゃない。それにあなた、この間お城の待合室でそういう態度を見せないようにしていたって教えてくれたじゃない。
「……いつから?」
「初めて会った時から少しずつ」
だからどうしてそう、歯の浮くような言葉を簡単に言えるのよ。
なんだかやられてばっかりの気がする。返したいと伝えたのに、全然させてくれない。ただ傍で、自分を見ていてくれればいい。なんてエリックは言うけれど、それだけでは気が収まらない。
楽しそうなエリックにやり返すために、八つ当たりのようにぐりぐりと肩に額を押し付ける。くすくす笑いながら手を握られた。なんなのよぉ。
「ばーか」
「はは、言ったな」
「重い~」
何をしてもエリックはおかしそうに笑って、さらには体重をかけられた。もう、もう! これでもちょっと怒ってるんですからね!
じっとりと睨み上げれば、すぐ傍に私の好きな笑顔があって。なんだかこの間までとほとんど変わらない気がする。クルミさんのことでやきもきしていたのが、今度はエリックにいいように転がされている気がする。それが嫌ってわけじゃないのが、なんだかとっても悔しい。
あぁ、全くもう。いつか絶対にやり返して、今までやられてきた分赤面させてやるんだから!
せいぜい覚悟して待っていてくださいね!
読んでいただきありがとうございました!
これにて完結になります。
二人の話はこれで終わりですが、近いうちにまた次の話も投稿していきますので、そちらもよろしくお願いします。
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