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42 式典当日


 結局、まともに話もできずに式典を迎えてしまった。時間って無情ね。どんなに気が重くても勝手に進んで、勝手に迎えの馬車が来てしまった。

 ふわふわと広がるドレスの裾をひっかけないように気を付けながら、エリックの手を借りて馬車に乗り込む。手を取られる時、少し緊張してぎこちなくなったけど、何も言われることはなかった。


 ここからしばらく、馬車の中でエリックと二人きりになる。

 話すべきなのは分かっているけど、前回それで何も言えずに終わってしまっているので、早めにきっかけを掴みたいところね。まぁ、あれから考える時間があったにもかかわらず、話の切り口を思いつかないまま今に至るのだけど。


「よく似合っているよ。ドレスも、ネックレスも」

「え……、ありがとうございます」


 少し気まずいながらも、なんとかお礼を言う。声をかけてくれたってことは、エリックも、話をする意志はあると思っていいのよね?

 可能なら、もし許してくれるなら、仲直りしたい。許してもらえなくても、きちんと謝らないと。私が勝手に嫌な気持ちになって、八つ当たりみたいに、エリックの大切な友人を否定したのだから。

 そっと息を吐き出して、もう一度吸う。出来るだけ、深くは吸い込まない。息をしっかり呑み込んだら、この後言わなきゃいけない言葉まで呑み込んでしまう。

 そうして、ゆっくりと顔を上げる。正面に座っているエリックと目が合った。


「すまなかった」


 言いたかった言葉が、自分ではない声で発せられ、呆気に取られる。真剣な顔をしたエリックが私を見て言った。

 カタカタと揺れる馬車の中で、静寂が響いた。


「自覚がなかったとはいえ、私は君に不快に思われるような行動を取っていたのだろう? 謝罪させてほしい。その上で、一つ、どうしても誤解してほしくないことがあるんだ」


 ゆっくりと、少し言葉に迷う素振りを見せながらも、エリックは真っ直ぐに私を見つめながら告げる。

 どうしてあなたが謝るの。私が言い出したことじゃない。私が勝手に嫉妬して、バカなことを言った。

 エリックは、何も悪くない。クルミさんだって。全部私の受け取り方が悪かっただけ。なのに、どうしてこの人が謝るのよ。


「私が好きなのは君だけだ。それは絶対に変わらない。だから……今のように上手く話せない状況は、とても困る」


 何なのよ、それ。好きって、絶対って。そんなの、今まで聞いたことなかった。なのにクルミさんは、旅の途中ずっとエリックが私の話をしていたと言っていた。

 私が、わからないふりをしていただけなのかもしれない。そういう恋愛ごとが苦手なのをエリックが察して、控えてくれていただけかもしれない。

 でも、それでも。話してくれていれば、エリックが求めてくれるのなら私は。


「最初は、旅から帰ったあなたが違う人のように見えて戸惑っていたんです」

「マリー……」

「声も優しさも変わらないのに、私が知らないことにのめり込み、私が知らない人と仲良くしているのが寂しかった。嫉妬、していたんです」


 苦しかった、辛かった。上手く伝えられなくて、すごく惨めな気持ちだった。それは全部、あなたが好きだと気が付いたから。

 傍にいると嬉しくて、ドキドキして、胸がきゅっと締め付けられるような感じがして。あなたがクルミさんの話をすると息をするのも苦しいくらい辛くなって、スッと芯が冷えるような感覚がして、嫌な気持ちが溢れ出してくるの。

 クルミさんと直接話してみて、多少は嫌な気持ちもなくなったけど、やっぱりまだちょっと苦手だし。

 でもそれを全部エリックのせいにしたいとかそういうのじゃなくて、ただ私はこの気持ちをどうしていいのかわからなくて。どうしたらあなたの気持ちに応えられるのかが知りたくて。


「そうか……」


 不意にエリックが呟いた。

 何かが腑に落ちたような表情をしていて、そしてゆっくりと口元に笑みを湛える。


「うん、私もだ。私も、嫉妬していたんだと思う」


 酷く穏やかな笑みだった。

 何よりも優しい、私の好きな瞳で、彼がこちらを見つめている。


「マリーの話を聞いてようやくわかった。ずっと何かが引っかかっていたんだ。ふとした拍子に、君の視線が私に向いていないことに妙な焦りを感じて、その視線の先にいるのが、いつも彼で」

「それは……」

「家族のように暮らしている相手だから仕方ないとは言え、君に甘えられているスタンリーに嫉妬していた」


 嫉妬? エリックが? アレは、嫉妬だったの?

 確かに最近急に触れられたり、距離が近くなったりしてドキドキさせられていたけど、全部嫉妬だったの?

 え? 私、そんなにスタンリーを見ていたかしら? 確かに姿が見えたら、無意識にそっちを見ていたかもしれないけど別にそこに何かしらの意味なんてなくて。これ、私の方が誤解される行動をとっていたってことじゃない!


「格好付かないな」


 困ったように眉を下げるエリックに、胸の内がきゅっと締まるような心地がする。いつもの穏やかな表情じゃなくて、どこか力なさげなその笑みに自分でもちょっとびっくりするぐらい心臓が跳ね回って。

 そんな私のことなんてお構いなしに、かたりと一揺れして馬車が止まった。扉が開けば、その先にはお城がそびえている。

 あぁ。せめて式に入場するまでには、顔に集まった熱をどうにかしないと!


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