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41 そんなの知らない、聞いてない!


「クルミさん」

「はい! お元気でしたか?」

「えぇ。あなたもお変わりないようで」


 にっこりと、それはもういい笑顔で返事をするクルミさんに、なんとなく気圧されながら返す。相変わらずお元気そうで何よりだわ。

 戸惑っている間にすっかり子供たちに囲まれてしまっている。流石にこのままあっさり退散とはさせてくれないわよね。

 少し離れたところで困ったようにこちらを伺う御者に大丈夫だと合図を送る。会う可能性を考えていなかったわけではない。でも本当に会うとは思っていなかった。


「マリーさん、今日は一人なの?」

「皆でクリーニングを取りに行ってたんだー」


 好き好きに話しかけてくる子供たちに当たり障りのない返事をしつつ、どうしようかと考える。

 この子たちは純粋に興味で話しかけてくれているのがわかる。多分、言い聞かせればちゃんとお行儀よくできる子たちなのだろうけど、数が多いと大変そう。いつもクルミさんはこの子たちの面倒を見ているのね。

 それはそれとして、クルミさんはまた大きな荷物を持っているわね。……大丈夫なの? あれがクリーニング品? あの大きさの布ってことは、かなり重そうなのだけど。


「エリックはいないの?」


 ……まぁ、そうなるわよね。初めてこの子たちと会った時に一緒にいたのだし、子供たちにすっかり懐かれるくらいには教会に足を運んでいるのね。前にも子供たちが、クルミさんと二人でトレーニングの話ばかりしていると言っていたし。

 別に、ダメなことじゃないのよ。いくら婚約者だからってエリックの行動を制限していい理由にはならないのだし。私が勝手に嫌な気持ちになっているだけで、エリックも、ましてやクルミさんが悪いわけではない。


「エリックはいつも筋トレとマリーの話しかしないんだぜ」


 そんなことを考えていたから、一瞬理解が追いつかなかった。

 何を言われたのか、いえ、言われた言葉はわかるわ。でもその言葉の意味が理解できなくて、瞬きをした。そしてゆっくり、子供が言った言葉を反芻する。エリックが、トレーニングの他に、私の話を?


「旅の途中もずっとマリーさんの話をしていたんですよ? 私が聞き出していたのもあるんですけど」


 クルミさんが何故かちょっと嬉しそうに話している。数拍置いて、ようやく意味が繋がってきた。エリックが……、私の話を!? いえ。別に、私たちは婚約者なわけですし? 話をしていても何もおかしくはない。え? 一体何を言われていたの?

 こちらの様子なんて気にも留めずクルミさんは、旅の途中やれ「あの時のマリーさんが可愛かったとエリックが言っていた」だの「無事帰還したら折を見てマリーさんと結婚するつもりだから、その際はぜひ祝福の祝詞を読んでほしいとエリックに言われた」だの。

 本当にどういうこと?


 旅に出る前のエリックはとても紳士的で、でも私たちは幼馴染らしく健全な友情を育んでいたわけで。

 それが、可愛かったとか、結婚だとかって、いったいどうなっているの?


「自分は他人の恋バナが好きなので好んで聞いていたんですけど、もしかして迷惑でした?」

「い、いえ。大丈夫、です」


 何が大丈夫なのかわからないけど、大丈夫。多分。クルミさんの言うことが本当なら、いえ嘘を言う理由もないのだし間違いはない。その、つまり、えぇと。エリックは、旅に出る前からずっと、私をそういう風に見ていた?

 待って、本当に待ってほしい。なんで? 帰ってくるまでそんな素振り、一切なかったじゃない!? どんどん顔に熱が溜まっていくのを感じる。


「もしかして照れてる? 可愛い~」

「違っ、いえ、何も違わないのですけれど!」


 上手く言葉が紡げず、上ずった声になる私を見てクルミさんがさらに上機嫌になる。本当にどういう状況かわからない。

 なぜ、この人はこんなににこにことしているの? クルミさんはその、すごい人だし、明るくてしっかり者で溌剌とした尊敬に値する女性だとは思っていたのよ。それはそれとして、エリックがクルミさんを手放しに褒めるので引っかかっていた、はずだったんだけど。


「もしよかったら何ですけど、マリーさんから見たエリックとの話とかも聞けちゃったりなんかは、しませんか?」


 えへ? なんて可愛らしく笑ってクルミさんは言う。これは、色々と良くない気がする。最近胸の内を占めていた息苦しさとは全く違う警鐘を頭が鳴らしていた。

 だってこれもうそういうことでしょう? これから溢れ出てくる感情は、間違いなく今まで感じていた嫉妬だとか、そういう類のものじゃなくて。もっと温かくて、ずっと気恥ずかしくて、自分ではどうしようもないタイプのもの。

 嬉しそうに、それでいて楽しそうにこちらを見るクルミさんに、やっぱりちょっと苦手かもと思い直す。


「また始まったよー」

「マリーさんごめんなー? クルミのやつ人の『恋バナ』聞くとすぐこうなるんだよ」


 恋、バナって。あの、え? 私とエリックのってこと!?

 呆れたように子供たちが肩を落として「あーあ。これは長いぞー」と言ったのが、頭の中にリフレインした。



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