表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

27 青いふわふわ

 式典で着ていくドレスができた。

 予定していた通りの日取りで、覚悟していた通り、我が家のドレスルームでフィッティングが行われる。その予定自体に問題はない。問題があるとすれば私自身だけど、式典は公的な催しなのでそこに一個人の感情なんて入る余地はないのだ。

 エリックにとっても晴れの舞台だし、それを台無しにするなんてあってはならない。


 ここしばらく引きずっている陰鬱な気分をムリヤリ呑み込んで、口角をぐっと持ち上げる。大丈夫、だいじょうぶ。ちゃんとできるわ。

 エリックを招いた後二、三話してそのまま、仕立てたばかりの礼装に袖を通すために用意された衝立の向こうに別れる。


 少し深い青色のドレスは、少し空いた首元や袖、ドレスの裾にも柔らかいフリルをあしらい、全体的に柔らかな印象のシルエットを背中の編み上げで引き締めている。

 あまり詳しくはないからほとんどデザインはお任せしてしまったのだけど、ちょっとふわふわし過ぎていないかしら? 今の流行りってこういう感じなのね。何重にもパニエを履かされた上にコルセットでしっかり締められていてすでにグロッキーだわ。

 テキパキと細かい調整のために待ち針を指している針子を見下ろし小さく息を吐いた。

 後は細かい手直しをして完成だと言うのでひとまず、メイドに手を引かれ衝立から出る。すでに着替え終わって一休みしていたらしいエリックが、私を見てソファーから立ち上がった。


「うん、とてもよく似合ってる。可愛いよ」


 随分と、まぁ、いい笑顔で言ってくれるじゃない。

 溢れ出しそうになる色々な感情を抑え込んで、ゆっくりと息を吸う。


「ありがとうございます。エリックもとても素敵ですわ」

「そうかな? 嬉しいよ。去年と比べて体形がすごく変わってしまったから、心配してたんだ」


 それは、うん。確かに随分と鍛えて帰って来て、一回りも二回りも体が大きくなっていたわけだから礼装を着た時のシルエットもすっかり変わってしまっている。……格好いいわね。

 元々顔が整っていたのもあるけれど、会えなかった一年間でぐっと大人びて体形というか立ち姿にも男性らしさが強く出ていて。別に! そういう鍛えている殿方が好みだとか、そういうのはないはずなんだけど! 

 着飾った姿で二人並んで細かいドレスの調整をしてもらう。その間も、エリックは上機嫌でこちらを見ている。なんなのよもう。


「ふわふわしてる。いつも青色のドレスだが、他の色じゃなくてよかったのかい?」

「ええ、この色で構いませんわ」


 私のドレスの裾や袖のフリルが動くたびに少し揺れるのを楽しみつつ、エリックが笑う。ふわふわしているのはあなたの表情の方でしょう。

 今までなら素直に受け止められていたのに。何なのかしらね、この動悸。嬉しいと思う気持ちの他に、そんなことを言ってクルミさんのことも簡単に褒める癖にという苛立ちの感情が行ったり来たりしている。

 何か言い返したいはずなのに、上手く言葉が見つけられず詰まっているのを、針子たちが微笑ましそうに見ている。やめなさい恥ずかしい。頬に熱が集まるのを感じて慌てて視線をドレスの裾に落とす。確かに、パニエで膨らませているし、ふわふわしているわね。


 あぁやだやだ。最近ずっとこう。

 私だけが感情に振り回されていて、落ち込んだりイライラしたり、舞い上がったり。もうずっと私が私じゃないみたいでつらいのに、その一因であるエリックはにこにこしているし。

 この様子なら、私がいつもあなたの瞳の色のドレスを着ていたっていうのにも気が付いていないんでしょうね。最初こそデザイナーさんに薦められたのが理由だったけど、今回ドレスだけは、自分の意志でこの色にしたっていうのに。


 浮かんだり沈んだりで忙しい私を他所に、仕立て屋がドレスに合わせたアクセサリーはもう少し後になると教えてくれる。悪いのだけど、今それどころじゃないのよ私。

 ちゃんとしよう、って。大丈夫だって意気込んでいたはずなのに、この状態よ。本当に嫌になる。嫌になると言えば、いつの間にか仕立て屋の手伝いとして入ってきたらしいスタンリーがこちらを観察するように見ているのも嫌。あとで八つ当たりするからね。

 心の平静を保つために理不尽なことを考えていたら、不意に影が落ちてきた。何事かと顔を上げればそこには、相変わらずにこにことしたエリックがいつもよりもずっと近い位置にいて。え、何事?


「あの、エリック?」

「うん? どうかしたかい?」

「い、いえ。何も」

「そう、気になることがあるのなら何でも言ってくれ」


 じゃあこれは指摘していいものなの? なんだかすごく近くない? え? 私の方が可笑しいの? エリックはいつも通りだけど、明らかにいつもより近いし、そっと半歩下がってみても、何事もないかのように距離を詰められるし。何なの? 何が起こっているの!?

 いつの間にか触れるか触れないかまでの距離になっていて思わず縮こまる。なんでこんなに近いの? 私何かした!?


「あぁそうだ。後処理が終わったから、今後は今まで以上に時間が取れるようになったんだが、……また、近いうちに会いに来てもいいかな?」


 パンクしそうな頭では、エリックが私に何を話しかけているのかも上手く理解できなくて。でもエリックが何か私に酷いことを言うわけがないのでとりあえず、言われるがままに頷いておく。

 ねぇ、なんで皆静観してるの? 誰か助けて!



なんだか思っていた状況と違うんですけど!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ