新しい世界
目が覚めた。
目の前には知らない天井。
天井……?
それに頬を撫ぜる冷たい風も何故かない気がする。
眠たい目を擦りながら身体を起こすと、
そこは全く知らない部屋だった。
寒くないのは、しっかり壁がある部屋だからなのか
それともこのふかふかの暖かい布団のおかげなのか
それともゆらゆらと揺らめきながら、
暖かい熱を出す黒く見える何かのおかげなのか
それとも…それとも…それとも………
考え出すとキリが無いことに気付き、
僕は一旦思考をストップさせた。
今必要なのは…
「ここはどこなのか……?」
「にゃあ。(おはよう。よく眠れたかね?)」
「!?!?」
どこから現れたのか…それともずっと傍にいたのか…
豹さんの声が聞こえた。
驚いた僕は声を失い直ぐに返事が出来なかった。
「……はい。おかげ、様で。」
「にゃあお。(それは良かった。お主名はなんという?)」
「名前…は、ありません。」
名前も、なにも僕は持っているものがなかった。
モノクロの世界で1人ダンボールの中縮こまって
身体を震わせながら生きてきただけだったのだから。
「にゃ。(そうか…ならば、付けてもらうがよい。もう来るじゃろう)」
「もう来る…??」
コンコンと扉を叩く音がしたかと思ったら、1人の人が入ってきた。
「誰…?ですか……?」
「あぁ、ファルルに聞いてないのですか。」
「ファルル……?」
「にゃお。(わしがファルルじゃ。)」
「全く。説明もなく連れてくるなと何度言えばいいのですか」
ふぅ…と小さくため息をついた後に、慣れた様子で話始めた。
「私はラミ・ユアリナ。学年は2学年。
そしてここは、魔法学校の下宿所になります。
衣食住が賄われる代わりに勉学に励む場所です。」
「衣食住…?」
初めて聞く単語に頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
「衣食住の衣は衣類の衣。
衣食住の食は食べ物の食。
衣食住の住は住まいの住。
あなたは今日からここを使用出来るので、
生活は保証されます。」
疑問をひとつずつ潰していくように、
ゆっくり丁寧に説明するラミ。
面倒臭いはずなのに随分優しい方みたいだ。
それにしても……
ここを使用出来る…??
生活が保証される…???
脳が追いつかずに、考えても考えても
疑問符が何個も頭の中に増えるだけだった。
「お疲れでしょう。夕飯の時間になりましたら
声をかけますのでもう一度睡眠を取っていただいて構いませんよ」
微笑んだラミは、布団をかけ直した。
「では、また後ほど」
優雅に会釈をし、部屋を出ていく。
何だったんだろう…
でも、とりあえずわかったことがある。
僕はここに住まわせて貰うということ。
「こんないいお部屋、いいのかな…」
モノクロだが落ち着いた綺麗なお部屋だ。
「ここから新しい世界!」