表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

聖域

作者:横野坂下
私の親友、黒崎沙耶は、世界を呪っている。

彼女が手に取る本の背表紙は、いつも黒く、重たい言葉で埋め尽くされている。二人で過ごす放課後のカフェ。テーブルの上に置かれるのは、凡庸な日常を切り刻むための、冷たく光るメスのような言葉たち。

その日の議題は、ありふれたウェブ小説だった。無能だと追放された主人公が、隠された力で世界を支配し、美しい少女たちを侍らせる物語。誰もが一度は夢想する、安易な復讐と都合のいい救済。

「吐き気がする」

沙耶は言った。その一言から、私たちの聖戦は始まる。

彼女は、物語に隠された欺瞞を、大衆を慰撫する文化の毒を、鋭く、的確に暴き出す。私もまた、別の角度からその物語の構造を、それが求められる社会の病理を、冷静に解き明かしていく。

私たちは共犯者だ。同じものを見て、同じように嫌悪している。けれど、その嫌悪の根は、決して交わることのない場所から伸びている。私たちの議論は、互いのプライドを賭けたゲーム。相手の論理の僅かな瑕疵を探し、自分の言葉で打ち負かすための、終わりのないチェス。

ねえ、沙耶。私たちは、この物語の登場人物たちを、本当に見下すことができるのかしら。言葉という武器を手に、優越という名の椅子に座って、私たちはいったい、何と戦っているの?

これは、二人の少女の、秘密の儀式。世界への呪詛と、自分自身に突きつけられた、最も残酷な問いの物語。
第三節 境界線
2025/07/09 05:39
第四節 共犯者
2025/07/09 05:40
第五節 残響
2025/07/09 05:41
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ