第9話「恐るべき妹たちとのお遊び」
「ねぇ、お姉様。私ね、ずっと考えてたんだ。どうしてお姉様だけが失敗作なのかって……。でも、やっと分かったの! それはね……」
アンはそう言ってマリナを見る。
「お姉様が弱すぎるからよ」
チェルシーがそう続けると、アンはクスクス笑いながら言う。
2人がパチンと指を鳴らすと、マリナを拘束している光が輝き始める。
「あ……あぁ……っ」
その光に苦しみ悶えるマリナを見て、アンとチェルシーは楽しそうに笑う。
「あはは! お姉様、すっごく苦しんでる!」
「そりゃそうでしょ~? アンが調節してるとはいえ、この光はお姉様に十分なダメージを与える威力なんだもの」
そう言ってチェルシーはマリナのお腹を踏みつけ、グリグリと踏み躙りながら言う。
「あぐぅっ!! うぅっ……!」
2人の少女による容赦のない攻撃に、マリナは絶叫を上げることしかできない。アンとチェルシーは満足そうに微笑む。
そしてマリナの前にしゃがみこんだアンは、彼女の頬に平手打ちする。
「どう? お姉様。私たちがどれだけ強くなったか分かった?」
アンの言葉が終わると同時に、今度はチェルシーがマリナの脇腹を蹴る。
「きゃあッ!!」
悲鳴を上げるマリナを見て、アンとチェルシーは手を叩いて喜ぶ。
「あはは! お姉様ったらみっともないわね!」
「ホント。ちょっと蹴っただけでこんなになるなんて、本当に弱いんだね!」
2人の少女はそう言ってゲラゲラと笑う。
マリナは悔しげに唇を噛むが、抵抗することはできない。アンとチェルシーは残酷な笑みを浮かべる。
「お姉様……安心して? すぐに殺したりしないから」
「そうそう! これからじっくりいたぶってあげるんだから!」
2人はそう言うと再びマリナを拘束する光の壁を操作する。そして今度は変化させた光の刃で、切り裂き始める。
「うぐッ……! あぅ……!」
光の刃が体を掠めるたびにマリナは苦痛の声を上げる。
「あはは!お姉様ったら、もうボロボロね!」
「でもまだまだこれからだよ? もっともっと遊んであげるから」
2人はそう言ってさらに激しく攻撃を加える。
全身傷だらけになり、血塗れになったマリナは悲鳴を上げ続けることしかできない。
そんなマリナを見て、アンとチェルシーはさらに笑う。
「あはは!お姉様ったら泣いてばっかり!」
「でも泣かずにはいられないよね? だってすごく痛いもんねぇ?」
そして2人の少女は、さらに容赦なく攻撃を続けるのだった……。
2人の少女による執拗な責めは続いた。全身傷だらけとなり、血塗れになったマリナは光の鎖によって吊るされているような姿勢になっていた。その体は無残にもズタボロで見る影もないほどに痛めつけられていた。
「く……、うぅ……」
マリナは呻き声を上げながら必死に抵抗しようとするが、全身傷だらけで拘束されている状態のため動くこともままならない。
「あはは! だっさいお姉様!」
2人の少女はそう言って再び光の鎖を操作する。そしてそのまま彼女の体を締め上げる。
「くぅっ……! ああぁッ……!」
全身を襲う強烈な痛みに、マリナは苦悶の声を上げる。そんなマリナを見てアンとチェルシーは楽しそうに笑う。
「楽しいわね、お姉様!」
「もっと遊びましょうよ! ほらっ!」
2人はそう言いながら更に強く光の鎖を締め付ける。
「ああぁぁッ!!」
あまりの痛みにマリナは絶叫を上げるが、それでも2人の少女は手を止めない。それどころかさらに激しく責め立てる。
「あはははっ! 止めてあげようと思ったけど、あまりにいい声で鳴くものだから、つい止められなくなっちゃった!」
「そうそう。お姉様がいけないのよ? でも、そろそろ壊してあげようか」
「それもいいわね!お姉様は失敗作だもの、壊れても問題ないわ!」
2人の少女はクスクスと笑うと、今度は光の鎖を操作してマリナを宙吊りにする。そしてそのまま彼女の体を近くの木や地面に勢いよく叩きつけ始めた。
全身を強く打ち付けられ、マリナは苦悶の声を上げる。しかしそれでも2人は止まらない。何度も何度もマリナを壁に叩き付け続ける。
「うあ゛あぁッ!! あ゛ぁ……っ!!」
全身を強く打ち付けられ続け、マリナは絶叫を上げる。
そしてついにマリナはぐったりとして、攻撃を受けても反応しなくなってしまう。目は開いているようだが、あまりの痛みに脳が処理しきれていないのか、その瞳は何も捉えておらず虚空を見つめている。
「あらら? もうおしまい?」
2人の少女はクスクスと笑うと、マリナの体を拘束する光の鎖を操作して最後にもう一度地面に叩きつける。マリナは反応しないが、その衝撃で体がビクンっと跳ねる。
「お姉様はまだまだ遊べそうよね」
「うん! もっと遊びましょうよ!」
そう言ってアンとチェルシーが再び光の鎖を操作しようとした時だった。
「……いいえ、お遊びはお終いですわ。まったくいつのまにかかくれんぼも鬼ごっこも下手になったようですわね……。アン、チェルシー」
マリナがそう呟いた瞬間、2人はハッとして動きを止める。
「お姉様……!?」
「……まだ動けたの……!」
2人が驚いていると、マリナはニヤリと笑う。
「どう? 少しは気晴らしになったかしら? わたくしも2人と久しぶりに遊ぶことができて楽しかったですわ」
その言葉に2人が怪訝な表情を見せると、マリナの体は徐々に熱を帯びたように色が変わり、光を放ち始める。
「なんのつもりなの~? お姉様ー?」
笑いながらチェルシーがマリナの体に触れようとすると、何かに気付いたアンが叫ぶ。
「チェルシー、こいつお姉様じゃない!! 自爆用の分身体だわっ!!」
アンはチェルシーの手を掴み、その場から飛び退いた。
「時間稼ぎは十分。ここで命までは取りませんわ。可愛い妹だもの。……でも、もし追って来るのならその時は……《《お遊び》》ではすみませんわよ?」
その言葉と同時に、マリナの体は大爆発を起こした。
爆風が晴れるとそこには、さっきとは真逆に、ボロボロになったアンとチェルシーの姿があった。
「くっ——!! 失敗作のくせにいぃぃっ!!」
「絶対に許さないんだからぁぁぁっ!!」
2人の少女は怒りのままに叫び、その場から飛び去っていった。
「ふぅ……なんとかなりましたわ……」
アルセィーマ大陸に到着したばかりの船の上で、無傷のマリナがそう呟きながら目を開けた。
「な、なんとかと言うのは……?」
リョーンが恐る恐る尋ねると、マリナは微笑しながら答える。
「あの2人に大怪我を負わせて追い払いましたわ。しばらくは追ってこないでしょう。少なくともリョーンさんたちはもう安全ですわ」
「さすがマリナ様♡ あの2人を遠隔操作の分身体だけで撃退してしまうなんて!!」
エマは目を輝かせている。しかしマリナは浮かない表情だ。
「わたくしとの戦闘経験が無かったから使えた戦法ですわ。もしお兄様たちだったらすぐに見破られていた……。さぁ、早く大陸の内部に移動しますわよ。あの子たちもグレイトバースの王女。傷の回復は途轍もなく早いのだから」
マリナはそう言ってリョーンたちを急かし、船を降りるのだった。
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