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第6話「帝国の本拠地アルセィーマへ」

 翌日。

「ワカヤ・ウシカタ……。ウシカタ・ワカヤ……。はっ! マリナ様、もしかするとワカヤ・ウシカタは、ユェントン地方の灯ノ原(ひのもと)に居るのでは!? 名前も灯ノ原人と似てますし、きっとそこですよ!」

 エマは目を輝かせながらマリナに言うが、彼女は首を横に振る。

「はぁ……そんなわけないでしょう? この辺りから灯ノ原までは、船で移動すると最低一月は掛かりますのよ? それも高価なゴールドを払って頑丈な船に乗る必要がある……」

「あぅ……そ、そうですね……」

 エマはシュンとして俯く。


 そんなエマの隣で、マリナは腕を組んで考え込んでいる。

「もっと情報が欲しいですわね……。何から調べたらいいのかしら……?」

 そう言って顎に手を当てて考え込むが、すぐに思い付いたように顔を上げる。

「そうですわ! エマ、アルセィーマ入りしますわよ。わたくしがのこのことあの場所に行くのは危険ですけど、世界中の情報が集まるところですし!」

 マリナはエマに微笑みかける。そんな彼女を見て、エマも笑って応えた。

「マリナ様! エマは、どこまでも着いていきます! どこまでも~♡」

 そうと決まれば話は早い。

 早速、帝国の所領であるアルセィーマ大陸に向かう準備を始めるのだった。



「さて、アルセィーマ大陸に行くのは良いとして……。問題はどうやって行くか、ですわね」

 マリナは顎に手を当てて考え込む。そんな主を、エマは期待に満ちた眼差しで見つめていた。

「マリナ様! どんな方法を使うんですか!? 船? それとも転移魔法?」

「もうエマったら、そんなに長距離を移動できる転移魔法なんて、わたくしもエマも使えないでしょ? 専門の魔導士に依頼するにしても、あの魔法はいろいろと誓約書を書かないといけませんし、わたくしたちには不向きな移動方法ですわ」

 マリナは苦笑しながらエマに答える。

「う~ん。ならやっぱり海路ですね!」

「そうなりますわね。いっそのこと船を買うか、ゴールドを払って船に乗せてもらうか……。どちらにしても費用が掛かりますわね。まっ、とりあえず港に行きますわよ」

 マリナはエマを伴って港へと向かうのだった。



 港にたどり着いた2人は、船の価格を聞いて回った。

 普通の冒険者に比べるとお金持ちのマリナたちだが、できることならいくらでも出費は抑えたいところだ。

「う~ん……思ったより高いですわね……」

 港に停泊している船を眺めながらマリナは呟く。

「そうですねぇ……」

 エマも同意するように頷く。そんな2人に背後から声がかかった。

「お客さん、乗船をご希望で?」


 2人が振り返るとそこには日焼けした船乗りの男性がいた。どうやら船のオーナーのようだ。

 彼はニコニコと微笑みながらこちらを見ていた。

「ええ、そうなんですの」

「それはそれは! いったいどちらへ?」

「実はわたくしたち、アルセィーマ大陸まで行きたいのですわ。ですが船賃が高くて……」

 マリナの言葉に男性は驚きの声を上げる。

「なんと……お客様はアルセィーマへ行かれるのですか!? それはまた、ずいぶん遠くまで行こうとなさるのですな!」

「ええ、まぁ……」

 マリナは苦笑しながら答える。


 そんなマリナを見て、男性はさらに言葉を続ける。

「失礼ながらお聞きしますが……。お客様はご高名な方なので?」

「いえ、そのようなことは……ただ旅を続けて長いだけでして」

 マリナは首を横に振る。

「そうなのですか? あ、私はリョーンと申します。この船のオーナーです」

「ご丁寧にありがとうございます。わたくしはマリナ、こちらはエマですわ」

 リョーンと名乗った男性は、名前を聞くと小さく頭を下げた。

「お客様はアルセィーマに向かわれるのですよね? もし私に協力してくれれば、この船でアルセィーマまでお連れいたしますよ?」

「え、よろしいんですの? それはとても有り難いですけれど……。協力……というのは?」


 マリナの言葉に、リョーンは自分の後ろの方に視線を向け、うなずく。

 すると1人の女性と、その女性に連れられて幼い少女がリョーンの後ろの船から姿を現した。

「妻と娘です。詳しいことは協力していただければ、船の上ででもお話しますが、我々はここを出たいのです。しかし、帝国軍やモルディオ軍の助けは借りられない……。そこで、外部の者の助けが必要でした。つまりあなたたちに、我々の護衛を頼みたいのです」

 リョーンの言葉にマリナは、ふっと笑みを零す。

「わたくしたちと同じで、何やら訳アリのようですわね。いいですわ、あなたたちに協力しましょう。その代わり、ちゃんとあなた方の事情を教えていただきますわよ」

 マリナはリョーンの提案を受け入れることにした。

「もちろんですとも! ではこちらへ……」

 リョーンはマリナとエマを船の中へと案内するのだった。



 程なくして出港した船の中で、マリナはリョーンの娘であるミリアと追いかけっこや、かくれんぼをして遊んでいた。

 一方エマの方は、リョーンとその妻から彼らの抱える事情を聴いているところだ。

「ということは……あなた方はモルディオ王国から追われている、ということですか?」

「はい。我が妻も娘もその血筋のせいで命を狙われています。私は妻と娘を逃がすため、そしてアルセィーマまで送り届けるために船を出そうとしているのですが……」

 リョーンはそこまで言うと言葉を詰まらせる。そんな彼に代わって女性が話し始める。


「私たち、モルディオ王国から逃げてきたのです。私の母はモルディオ王国の前国王様の愛人でした。ですが前国王様が亡くなられた後、モルディオ王国では王位を争って内乱が起きました。そして現国王は、私を含む前国王の血を引く者全てを抹殺するように命令したのです。これまでは何とか逃げることができていましたが、もう限界のようです……」

 女性は悲しげに目を伏せた後、マリナと無邪気に遊んでいる幼い娘を見つめる。

「あの娘……ミリアのためにも、私たちはアルセィーマに行かなければならないのです!」

 2人の真剣な眼差しに、エマは深く頷き返す。

「事情は分かりました。私とマリナ様が全力で守ります!」

 エマの言葉に、リョーンと女性は深々と頭を下げるのだった。


「おねぇちゃん! つぎはおねぇちゃんがおにだよ! がんばってつかまえてね~!」

「ふふふ、さぁわたくしからにげられるかな~? そ~れミリアちゃん、にげろ~!」

 マリナは幼い少女の挑戦を受けて楽しそうに駆け出す。ある程度逃げたところで、マリナはミリアを捕まえると抱き上げた。

「つかまえた! それ、こちょこちょ~!」

「きゃはは! おねぇちゃん、くすぐったいよぉ!」

 2人の楽しそうな様子に、リョーンとその妻は厳しい現状を忘れ、思わず笑顔になる。

(マリナ様ったら……あんなにはしゃいで……尊い♡)

 エマもある意味、笑顔だった。


「リョーンさん、奥さん、この子お腹が空いたみたいですわ」

 マリナはミリアを抱っこしながら、リョーンたちに声をかける。

「ああ……もうこんな時間ですか。確かにお昼の時間ですね」

「では、私が何かお作りいたしましょう……」

 そう言って奥さんが立ち上がる。エマが自分も手伝うと言い、2人は船の厨房に向かって行った。

「おねぇちゃん! おひるたべたらまたあそぼうね!」

「ええもちろん! たくさん遊びましょうね!」

 マリナは笑顔でミリアと約束すると、彼女は元気よく返事をして母親のいる厨房に駆けていくのだった。

 その後ろ姿を微笑ましそうに見送ると、マリナは海を見ているリョーンに近寄った。


「リョーンさん。エマとの会話、あの子と遊びながら聞かせていただきましたわ。わたくしたちが必ずアルセィーマまで護衛いたしますわね」

 リョーンは振り向くと、マリナに深く頭を下げる。

「ああ! ありがとうございます。実は先日、あなた方が勇者ファブリス殿たちといるのをお見かけしたのです。それできっとお強いのだろうと思いまして……」

「なるほど、それでわたくしたちを護衛として雇おうと?」

「ええ。なにせ追手は多いですし、娘や妻を無事に送り届けなければいけませんから」

 リョーンの表情には、何としても家族を守るのだという強い決意が滲んでいた。

「では、期待に応えなくてはいけませんわね。でも、きっとお役に立てると思いますわよ!」

 そう言ってマリナは胸を張ったのだった。



 しばらくすると、エマが食事を持って現れた。

「お2人とも、お昼ご飯ができましたよ!」

 リョーンとマリナは船の甲板にあるテーブルにつく。

 テーブルの上には、美味しそうなパンとスープ、海鮮料理が並んでいる。

「どうぞ召し上がれ!」

 昼食を食べ終えたマリナが先ほどと同じくミリアと遊んでいると、「あっ!」と彼女が声を上げ、海の方を指差した。

 彼女が指差した先には、数隻の船が見えた。掲げられている旗を見る限り、帝国の船のようだ。


「あれは……帝国の船ですね」

 エマが呟く。

「……マズいですね……。我々が向かう先は帝国の本拠地であるアルセィーマ。しかし、この辺りの帝国兵は帝国の属国であるモルディオ王国と親密な関係にあります。私たちのことがバレれば、捕縛されてしまうでしょう」

 リョーンが焦りを滲ませながら言うと、マリナは3人に隠れるように言う。


「わたくしたちが会話でなんとかごまかしてみますわ。3人はどこかに隠れていてくださいな」

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 リョーンたちは船の地下倉庫に身を隠す。マリナが甲板に出ると、帝国の船は徐々に距離を詰めてくるのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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