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第5話「勇者たちの輝き③ 目指すは最強」

「まったくその通りですわ。ネズミごときに敗れるだなんて……情けないですわね」

 絶望しているエレーナたちとは真逆の反応を見せるマリナ。その言葉にはファブリスたちへの呆れが込められていた。

「ちょ、ちょっとあなた! 仲間の命の危機なのよ!? 何をそんな……!」

 カルロッテは信じられないといった表情でマリナを見る。

 しかし彼女は平然とした様子で言葉を続ける。

「あの程度のネズミに負けておいて、よく勇者を名乗れますわね」

 彼女の態度にさすがのベルフェゴールも呆気に取られる。


 そんな彼らの反応に構うことなく、マリナは淡々と言葉を紡いでいく。

「まぁですがファブリスさんたちは、良いお人たちですし? わたくしが助けて差し上げますわ」

 いとも簡単に見えない障壁を叩き割ると、エマと共に中に侵入した。

「エマ、2人の治療をお願いね? わたくしはこの汚いネズミを駆除しますわ」

 そう言い終わったマリナに、すでに小さいネズミや大きいネズミが群がり、歯を突き立てた。

 ……しかし、ネズミがいくら歯を突き立てようとマリナには、傷どころか歯型すら付けることができなかった。

 ついには噛り付こうとしているネズミの歯の方が限界を迎え、ボキリと折れてしまう。


「……きったない、ネズミですわねっ!!」

 苛立ったように叫ぶと同時にマリナの体から衝撃波のようなものが放たれ、彼女に群がっていたネズミたちは跡形もなく消し飛ぶ。

 残っていたネズミたちも一斉にマリナに襲い掛かるが、一瞬の間に全て消し飛んでいた。

 エレーナたちの目には何が起きたかわからなかったが、先ほど同様に衝撃波のようなものを放ったのだろう。


マリナは観客席の方に向けて、不敵な笑みを浮かべている。

 その笑みはエレーナたちにとてつもない恐怖を与える。

(こんな状況で、なんで笑ってるのよ……)

「ま、まさか……こんなことがあるとは……! 見事なものだ」

 ベルフェゴールは目の前にいるマリナに、冷や汗を流している。

 ネズミによるグロテスクなショーをマリナに邪魔され、観客席の魔物たちは抗議するかのようにブーイングを浴びせる。

「なにやらうるさいですわね。そんなところで高見の見物だなんて、良いご身分ですこと」

 マリナが冷ややかな視線を向けると、挑発に腹を立てた魔物たちが一斉に観客席から下へと飛び降り、マリナの前に立ちはだかった。


「キキ! ナマイキナニンゲンノ女メっ!! ネズミトイッショニスルナ!」

 魔物たちは怒りをぶつけるかのようにマリナに襲い掛かった。

 しかし彼女の視界には1匹たりとも映らない。手に光を宿し、その手から光弾を放つとそれは大きな光を放ち、一瞬にして魔物たちを消し去っていたのだった。

「……ふぅ。手応えのない連中ですこと」

 汗1つかくことなく全てを蹴散らしたマリナにエレーナたちは、言葉を発することができない。

 一方、その戦闘能力の高さを目の当たりにしたベルフェゴールは、驚きつつも称賛の拍手を送る。

「やるなぁ。残念ながら今のワタシにはお前に対抗できる手持ちは無い。もっと実験を続けたかったが、これ以上は無意味に研究成果と時間を浪費するだけだろう。ここは退かせてもらうとしようか」

 ベルフェゴールはそう言うと、空間を割くようにしてその中に消えてしまうのだった。


「……ふん、仕方ありませんわね」

 マリナはため息をつくと、エレーナたちの方に向き直る。

「さて、エマ。ファブリスさんとリズさんの治療は終わりまして?」

「はい♡ もちろんです、マリナ様! 2人とも命に別状はありません」

 エマが笑顔で答えると、マリナは安堵のため息をつく。



 その後、少ししてファブリスとリズは目を覚ました。

「……マリナ……さん?」

 リズは微かに目を開く。

「あら、リズさん。目が覚めたのですわね」

「わ、私は……っ!」

 先ほどの光景を思い出したのか、恐怖で顔を歪めるリズにエレーナとカルロッテが声をかける。

「大丈夫! もう大丈夫だから!!」

「よかった! 本当によかった……!!」


 少し前に目を覚ましたファブリスは苦い顔して、虚空を見つめている。

「それにしてもベルフェゴールのやつ! 今度見つけたら、借りを返してやる!」

 ファブリスは握りしめた拳を地面に叩きつける。

「ええ、そうね! このまま終われないわ!」

 エレーナもファブリスに続く。

 が、それを遮るようにマリナは冷たい口調で告げる。



「馬鹿な真似はお止めなさい? 返り討ちに合って、今度こそネズミのエサにされてしまいますわよ?」

 マリナはそれだけ言うと、エレーナたちに背を向ける。

 その言葉を受けたファブリスは怒りで目を見開く。

「……俺たちがまた負けるって言いたいのか?」

「ええ、そうですわね」

 ファブリスの言葉に、マリナは淡々と答える。

 そんな態度に苛立ったのか、ファブリスは声を荒らげる。

「なにぃ!?」

 しかしそんなファブリスを気にも留めず、マリナは続ける。

「あなた方は、ちょっと強いネズミごときに負ける程度の実力しか無いのですわ。その現実を受け入れなさいな。これまで無事に旅をしてこれたのは奇跡に近いですわよ?」

 そう言い残して、マリナは立ち去ろうとする。


 が、そこへファブリスが立ちはだかった。

「おい待てよ! そんな言い方は無いだろ!? もう少し仲間を労う気持ちはないのか!?」

 ファブリスは怒りのままに叫ぶ。

 そんなファブリスに対し、マリナは冷めた目を向ける。

「わたくしが目指すは最強。あなたたちとは道が違うと、今回の件でハッキリしましたわ。悪いことは言わない、さっさと旅をやめてどこかの町で平和に暮らしなさい。それがあなたたちのためですわよ」

 それだけ言うと、マリナは今度こそ立ち去ろうとする。

 そんな彼女の態度にファブリスはますます苛立ちを覚える。

「ふざっけんな!! 俺たちは強くなる! ベルフェゴールの野郎にだって勝てるくらいにな!」


「そう……なら好きになさい。わたくしはもう止めませんわ。エマ、行きますわよ」

 マリナが歩き出すと、エマもその後に続いた。

「はいっ! マリナ様♡ ……では皆さん、失礼しますね? 短い間ですが、マリナ様ともどもお世話になりました。私たちの道は違いますが、どうかお元気で!」

 エマは笑顔で手を振ると、マリナと共に立ち去っていく。


「くそっ! なんだよあいつ!!」

 ファブリスは地団駄を踏んでいるが、他のみんなはそれぞれ思うところがあるのか複雑な表情を浮かべていた。

「でも……悔しいけど何も言い返せなかったわ……」

 2人を見送った後、エレーナは拳を握り締めて小さく呟く。カルロッテも同様に俯いていた。

「ええ……強化されているとはいえネズミに手も足も出なかったし……」

 エレーナとカルロッテ、リズはファブリスを見る。

 彼は未だに怒りが収まらないようだ。

「俺は強くなる! そう何度も負けてたまるか! そしてマリナのヤツを見返してやるんだ」

 ファブリスの言葉に、エレーナたちも同意する。

 4人は互いに頷き合うと、決意を新たにし、立ち上がるのだった。



 数時間後、シェコに戻ったマリナはエマと共に宿に泊まっていた。

「う~ん。マリナ様、やっぱり少し彼らに言いすぎだったのでは?」

 エマが部屋の天井を見上げながら、ポツリ呟く。

「あら? そうかしら?」

 エマの言葉にも、マリナは涼しい顔だ。

「そうですよ~! なんか寂しいじゃないですか~。せっかく仲間が見つかったと思ったのに……」

 そんなエマの指摘に、マリナは少し困ったように頬をかく。

「……ん~、たしかに言い過ぎたかもしれませんわね。でも仕方ないのですわ。ああでも言わないと……いえ、ああ言っても恐らく彼らは勇者一行としての旅を止めないでしょうね」

 そう言ってため息をつくと、ベッドに腰掛けた。


 そして話を続ける。

「ワカヤ・ウシカタを見つけるまで一緒に旅をしてもよかったのだけれど……。わたくしに向けられる追手は、あんなネズミの群れとも魔族とも比較になりませんわ。あの強さでは一緒にいても、彼らを危険に巻き込むだけですし」

 マリナが目を伏せると、エマは微笑んで彼女に言う。

「そうですね。でも、マリナ様はなんだかんだお優しいですね。そんなところに、エマはもうメロメロです♡」

「はいはい、ありがと」

 エマの言葉を適当に受け流しながら、マリナは窓の外を見つめる。


 そして彼女は真剣な表情で呟くのだった。

「ほんとうに……。ワカヤ・ウシカタ……いったい今どこにいらっしゃるのかしら……?」

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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