第45話「星を連れ去る者」
ナタリーがそう宣言した瞬間、彼女の周囲に控えていた兵士たちは一斉にルルに向かってきた。
森の者たちは一斉に矢を放ち……。
「『ルンルンシューティングスター☆!』」
ルルも応戦するように星を飛ばして反撃する。
だが……。
「え……?」
「な、なんだ!?」
森の者たちが同時に戸惑いの声を上げた。ルルも同じだった。
矢もルルの星型の光も、まるで景色に吸い込まれるかのように突然消失してしまったのだ。
だがそれだけでは終わらなかった。
なんと、森の者たちの持つ弓や槍、ハンマーまでもが消失していく。
ナタリーが現れてこうなった以上、彼女が何かをしているのは間違いないのだが、彼女は姿勢よく立ってルルたちに視線を向けているだけだ。
得体のしれない現象に、森の者たちの間に動揺が広がっていく。
1人の小さな悲鳴がまるで火種のように燃え広がっていき、森の者たちは戦意を喪い始める。
無理もない。
敵を倒す武器が消失してしまい丸腰になった状態で、目の前にはグレイトバースの兵士たちが雄叫びを上げながら迫っているのだから……。
「み、みんな落ち着いて! ルルがなんとかするから!」
ルルは混乱し始めた彼らに声を掛けると、大地を蹴って兵士たちへと突撃する、と見せかけて狙いはナタリーだ。
(あの子の能力が何なのかわからない以上、あまり様子見をするのは危ない……。だったら一気にあの子の気を失わせる!)
兵士たちの奥に佇むナタリーを見据えるルル。
武器や攻撃が消失するとしても、変身したルルには圧倒的な身体能力がある。
風を裂くようにして兵士たちの脇をすり抜けたルルは、そのまま近くの大木を蹴ってさらに勢いを付けて、立ち尽くしているナタリーに迫る。
(ごめんね……痛いかもしれないけど、我慢して……!)
「やああああっ!」
渾身の叫びと共にナタリーに拳をぶつけようと迫るルル。
しかしその拳が、彼女に届くことはなかった。
「あ、あれ……?」
ナタリーの目の前まで迫ったところでルルの変身が突如として解除されてしまい、彼女はそのまま倒れ込んでしまう。
ナタリーはそんな彼女を見下ろしている。
その瞳には、恐れもなければ昂揚もない。
ただ、捕らえるべき標的としてルルを見つめているに過ぎない。
「すみません。言葉足らずでしたね。これは戦闘任務ではありません。ルルさんの捕縛任務です。もう終わっているのです。その、戦闘は」
その声にもやはり感情の波のようなものは感じられない。
まるで、冷たく無機質なガラス細工の人形と対話しているような気持ちになる。
「……ここは私の結界、私の世界」
それだけ言うと、ナタリーは近くにいた兵士に目配せしてルルを拘束するように命じた。
「は! かしこまりました!」
兵士2人がルルの両脇を抱えて、体を起こさせる。
そして手にした縄でルルの体を縛って拘束する。
「い、痛っ……!」
体が強く締め付けられる痛みに、思わず小さな声をあげてしまうルル。
「なるほど……。変身前は、この程度の縄でも痛みを感じる、ということですね」
まるで分析するように呟くナタリーに、ルルは鋭い視線を向ける。
(変身前も後も関係ない! わたしは……みんなを守るって決めたんだから……!)
「その心意気やよし、です。ですが……」
ナタリーはそこで一度言葉を切り……。
「チェックメイト、です」
そう宣言した。
事実、ルルはもう一度変身しようとしても体に力が入らず、変身できなかった。
ナタリーはルルが動けないのを確認すると、そのまま森の者たちに視線を移した。
「さて、森に住まうみなさん。この度は森への攻撃、申し訳ありませんでした。しかし我々は、このルルなる少女を捕らえるという命令を遂行したまで。目的は達成したので、我が部隊は撤退しようと考えています。ここはこれで幕引き、ということでいかがでしょう?」
ナタリーは淡々と告げる。
森の者たちも彼ら以上に戦闘を望んでいたわけではない……。
だが、クーロンたちケンタウロス族たちはルルを簡単に見捨てることはできない。
クーロンはともかくとして、ケンタウロスたちもルルに一度負かされたことで、戦士としての誇りを取り戻しつつあったのだ。
「クーロンさん! みんな!」
そんな彼らの様子を察してルルは叫ぶ。
「ルルは大丈夫。勝手に首を突っ込んだのはルルだし、やっぱりわたしたちを追って来てこうなっちゃったんだもん」
「しかし……だが……」
と食い下がろうとするクーロン。
「クーロンさん、ルルたちのせいでまた森を傷つけることになってごめんなさい。……もしもマリナちゃんたちに会ったら、謝っておいて……」
ルルはクーロンたちに別れを告げると、グレイトバースの兵士たちに連れられて森の出口に向かって歩き始めた。
追いかけようとするクーロンを、ウッドエルフの女性が止める。
ここで追うということは、戦闘継続の意思ありとみなされる可能性がある。
ただでさえ数か月前に森は一度壊滅的な被害を受けたのだ。
もう、これ以上の損害はどの種族も望んでいない。
クーロンは拳を握りしめた。爪が掌に食い込む感覚でしか、己の無力を確かめられなかった。
森の出口付近まで来たところで、兵士の一人がナタリーに報告を入れる。
「ナタリー様。サイラス様より入電です。おつなぎしても?」
無線のようなもので話していた兵士は、ナタリーに確認を取ってから話をつないだ。
「……ええ。ちょうど今、捕らえたところです。……はい……そうですか。かしこまりました、サイラス兄様」
無線の相手はフォスター家第三王子サイラスである。
会話を終えたナタリーは、兵士に両脇を固められながら歩くルルに視線を向ける。
「安心してください。あなたのお仲間の勇者も、そして反逆者マリナとその従者も、みな捕縛対象ですから」
俯いている彼女に、いつものように抑揚のない声でナタリーが言う。
「……みんなは……見逃してよ……」
ルルが弱々しく呟いた瞬間、兵士の1人が彼女の腹を殴りつけた。
「黙れ」
「うぐっ」
といううめき声をあげてその場に倒れるルル。
変身していた時ならダメージなど全くなかっただろうが、今の彼女は変身が封じられている状態だ。
縄の影響か、それともやはりナタリーの能力の影響なのか、防御魔法も使えないようだ。
「暴力はやめてください。彼女はできるだけ無傷で確保するように言われていたのを忘れましたか? 次に同じことをした者は軍法会議にかけます。いい、ですね?」
「も、申し訳ございません! ナタリー様」
兵士は慌てた様子で謝罪する。
ナタリーは兵士の謝罪に小さくうなずくと、ルルを起き上がらせた。
「見逃すことはできません。全員捕縛です。諦めてください。では、行きましょう」
淡々と告げ、彼女は再び歩き出した。
ルルは何も言い返すことができず、兵士たちに連れられて後に続くのだった。
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