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第44話「フォスター家第五王女ナタリー」

「視認すら難しい速度、容姿からは想像できない怪力、星のような眩しさ! 間違いありません! あの少女こそ、ターゲットの"ルル"かと!」

 兵士の1人が慌てたように、離れた相手と魔力なしでやり取りできる、通信魔法器を用いて連絡を取っている。

 恐らくはグレイトバースの上官にこのことを伝えているのだろう。

「……し、しかし我々だけでは対処のしようが……。"英獣"の解放許可を! ぎゃっ!」

 その兵士は焦りと驚愕が入り混じった声を上げる。

 だが、彼はその回答を聞く前にオークの男性の攻撃によって弾き飛ばされた男性にぶつかられて気を失ってしまう。

 通信はそこで途絶えた。


「森の中だとあんまり動き回れない……それなら!」

 ルルは比較的高い木の枝の上に立ち、両手を広げた。

「いっくよ~♪『ルンルンシューティングスター☆!』」

 彼女の周囲に小さな光の星々が煌めきだし、光弾のように発射される。

 その光の星は、木々の間を縫いグレイトバースの兵士をホーミングして、次々と撃ち抜いていった。

「ぐあ!」

「がっ!?」

 悲鳴をあげて倒れていく兵士たち。

 まさにそれは光の流星群だ。


「し……信じられん……あの少女はたった一人で、ここまでの……。まさに希望の星……。いいや、それ以上だ……!」

 クーロンもルルの圧倒的な強さに動揺を隠せない。

 周囲の森に住む仲間たちやオークの男性たちも、彼女の戦いぶりに見惚れて呆然としているようだった。

「くそっ……英獣さえ呼び出せれば、もう少し……」

 グレイトバースの兵士は唇をかみしめながら、ルルを見る。


 自分たちは最強国家の兵士である、という自負があった。

 事実、ルルが介入してくるまでは地の利はケンタウロスたちにあるというのに、かなり優位に立っていた。

 それを目の前の少女たった1人によってひっくり返されたのだ。

「我らグレイトバースの兵士が……最強国家の兵士が……こんな、こんな……!」

 兵士は悔しさに顔を歪ませながら、拳を握りしめる。


 形成は完全に逆転。

 気を失っていない者たちはもうあまり多く残っていない。

 そんな彼らを森の者たちが取り囲む。

 大勢のケンタウロスやウッドエルフに弓を向けられながら、彼らは背中合わせになる。

「もうこれ以上の戦闘は無意味だ。大人しく武器を下ろしてはくれないか!?」

 クーロンが代表して、兵士たちにそう問いかける。

 だが、彼らはそれを聞くつもりはないらしい。

「我らは……負けない、退かない! なぜならグレイトバースの兵士だからだ! 英獣を……勇猛な英獣を呼び出せれば……!」

 兵士の1人は剣を支えに立ち、肩で息をしながらも力強く言い放った。



「そのとおりです。……ですが、英獣は使えません。なぜならここはアルセィーマ大陸。ディエレント帝国の本拠地ですよ? 戦争になります」

 静かな、そして淡々とした声。

 ルルやクーロンたちがその声の方に視線を向けると、木々の間を歩いて来る1つの影があった。


 森のざわめきが、突然止まる。

 鳥も、風も、炎も。

 ――ただ、彼女の足音だけが響いていた。


 それが誰なのかわかると、グレイトバースの兵士たちは先ほどまでの敗北モードが嘘のように気勢が上がり始める。

「おぉっ! ナタリー様!」

「ナタリー様が来てくださったぞ!」


 彼らの視線の先にいたのは、長く美しい黒髪と翡翠色の瞳を持つ女性……いや、少女だった。

 透き通るような白い肌に細い手足の、華奢で小柄な体つきの少女だ。

 見た目だけなら間違いなく、誰もが兵士たちよりもひ弱な存在にしか見えないと評するだろう。

 だが……。


「なるほど。あなたがルルさんですね?」

 少女はまっすぐにルルを見据える。

「う、うん、そうだよ。あなたは?」

 ルルはいつものように明るく返そうとしたのだが、現れた少女が只者ではないことを直感で感じ取り警戒する。


(あちらの兵士の士気の回復の仕方が異常だ……。先ほどまで倒れていた兵士たちまで、まるで救世主に出会ったかのようではないか……)

 クーロンも同じように、少女の底知れなさに動揺を隠せない。

 ルルの強さを目の当たりにしその身で体感しているにもかかわらず、彼女1人の登場で指揮を取り戻した兵士たち。

 グレイトバースの兵士が、その実力に平伏し、その存在を絶対的なものとして崇める存在など1つしかない。


「これは失礼しました。以前、妹のアンとチェルシーと遊んでくれたみたいですね。私はフォスター家第五王女『ナタリー・エプシロン・フォスターと申します』

 そう、彼女はやはりマリナの妹にしてフォスター家の一員だった。

「マリナちゃんの……妹……」

 アンとチェルシーと交戦経験のあるルルの頬を汗が伝う。

 マリナもそうだがフォスター家の戦闘方法、技は周囲に甚大な被害を出しかねない強力なものばかりだ。


(もし戦闘になるなら……わたしが森を守らないと……)

 思わず握った拳に力が入るルル。

 そんな彼女に、ナタリーはまたしても丁寧だが淡々と告げた。

「ルルさん、あなたの捕縛命令が出ています。……ので、今から捕縛任務を開始します」

 そう告げた彼女の表情もまた、人形のように無機質なものだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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