第40話「姉妹の約束は、毒と炎の狭間で」
「マリナ姉、森に火の手が回らないようにって考えてるんでしょ?」
ベラは黒い光弾を放ちながら、マリナに尋ねる。
「ええ。だとしたら?」
2人の間で激しい光弾の応酬が繰り広げられている。
マリナはベラの放った光弾を相殺し、彼女はまた新たな光弾を放つ。
それをまたマリナが相殺し、2人の戦闘は膠着状態に陥っていた。
「……やっぱりね。マリナ姉は優しいよ。けどさ……そんなんであーしを止められるかな?」
顔を上げたベラは、覚悟を決めたのか迷いのない目をしていた。
マリナの得意な炎や爆破能力は、この森では存分に発揮することができない。
使用すれば瞬く間に、この森は焼け野原になってしまうだろう。
「マリナちゃん! ベラちゃん! 2人は姉妹なんだから、戦っちゃダメだよ……!」
ルルは2人の戦闘を目にして、思わずそう叫んだ。
しかしマリナは首を横に振る。
「ベラはフォスター家の一員ですわ! お父様の命令は誰であっても無視できないの」
そう言って彼女はまた、光弾を打ち消す。
「……そういうこと。だからさ、ルルちゃんはどこか行っててくんない? 巻き込まれて本当に死んじゃうよ?」
ベラは軽い口調だが、いつもの彼女の陽気な表情ではない。
その目の奥には冷たい光が宿っている。
しかしルルもそれに気圧されまいと、震える足を踏ん張り、両手を広げて立ちふさがる。
「イヤ! 2人が戦うなら……わ、わたしは……!」
勇気を振り絞ってそう言いかけた時だった。
ルルの肩にマリナが手を置いた。
「ルル、ありがとう。ルルは本当に優しい心の持ち主ですわね。……でも、これはフォスター家の問題。やはりわたくしたちでケリをつけないといけませんわ」
そう言ってマリナはルルの前に立った。
彼女の真剣な表情を見て、ルルは自分が踏み入ってはいけない、フォスター家の問題であることを思い知る。
「で、でもマリナちゃん……」
その先の言葉を続けようとするルルだったが、小さく唇を噛んだ。
ここから先は、姉妹の世界だ――そう直感した。
「大丈夫ですわ。必ずわたくしが勝つ。そして……ベラも死なせない。だからここは任せて」
マリナは優しくも力強く、そう告げた。
その答えを聞いたルルの瞳も、覚悟を決めたようにキリっと引き締まる。
マリナはルルに、クーロンから貰った石を手渡した。
「先にこの石の導きに従って森の入り口の方へと走ってちょうだい。わたくしはあとから空を飛んで追いかけますわ。だから……先に行って、待っていて」
ルルはマリナの目をジッと見つめるとうなずいた。
そして彼女は森の奥へと駆けて行った。
その背中を見送りながら、ベラが口を開く。
「……どこに行っても変わらないと思うけど……」
ルルの姿が見えなくなると、ベラはマリナに視線を戻す。
「……マリナ姉、先に謝っとくね。マリナ姉たちはもう、負け確定だよ? それに今のあーしに勝てるかなぁ?」
彼女はそう言うと、今までよりも大きな毒の光弾を掌から打ち出す。
「ベラ……。わたくしはあなたに勝つ。……だけど命までは取りませんわ」
マリナはそう言って、自らも光弾を放った。
2つの光弾が衝突し、激しい火花を散らす。
光弾がぶつかるたび、霧が裂け、毒の粒子が薄暗い森に煌めいている。
光の残像に紛れるように2人は駆け出す。
しばらくお互い撃ち合った後、仕切り直すように距離を取る。
「光弾の打ち合いじゃキリがないよねぇマリナ姉。……そろそろ本気でやろっか?」
ベラはそう言うと同時に、指先からポタポタと黒い液体を垂らしてニヤリと笑う。
久しぶりに見る妹の本気の表情に、マリナの胸の中で2つの想いが高まりせめぎ合っていた。
1つは大切な妹であるベラを傷つけたくないという想い。
そしてもう1つは……これまで戦って来たアンとチェルシー、マシューよりも強いであろうベラと戦うことができることに対する高揚……マリナの戦士としての喜びだった。
「フフ、本当は周りなんて気にせず全部吹き飛ばしながら戦いたいのだけど……まぁいいわ。あなたと久しぶりに戦えるんだもの」
マリナの瞳には強い相手との戦いを楽しむような、そんな危険な輝きが宿っていた。
「さぁ、今のあなたがどれくらい強いのか、そしてわたくしがどのくらい強くなったのか……。試させてもらいますわよ!」
そう言ってマリナが両手を大きく広げると、巨大な火球が出現する。
「ちょ、それはデカすぎだよ! あーしのこと殺す気!?」
ベラはそう言いながらもどこか楽しそうな笑みを崩さない。
彼女もまた、今だけは任務を忘れて久しぶりに姉であるマリナと"遊ぶ"のを楽しもうとしているのだった。
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