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第4話「勇者たちの輝き② 危険なネズミ」

ちょっとグロいかもです!

 強化されたインプは、気も大きくなっているのか不敵な笑みを浮かべ、カルロッテに向かって飛びかかる。

 しかし彼女がその攻撃をいとも簡単にかわしたため、インプはバランスを崩してその場に転倒する。

 そんな隙を見逃すことなく、カルロッテは一瞬にして間合いを詰めると、強烈な蹴りを叩き込んだ。

「はあぁぁっ!!」

 カルロッテの蹴りをまともに受けたインプは大きく吹き飛び、壁に激突する。しかしまだ死んではいなかったようで、ヨロヨロと立ち上がると再び構えをとった。


「あら? まだやるのかしら?」

 カルロッテは余裕の表情を浮かべながら拳を握る。 その後も攻撃を繰り出すインプだったが、どうやら強化されたことで動きが鈍重になったようで、カルロッテへの攻撃はかすりすらしない。

「どうしたの? 動きが鈍いわよ!」

 そんなカルロッテの挑発が効いたのか、インプは怒りを露わにして大声で唸り、拳を振りかぶって突進する。


「せいやぁっ!!」

 彼女はその攻撃を紙一重でかわすと、カウンターの要領で強烈な拳を相手の腹部に叩き込んだ。

 その一撃を受けたインプは口から泡を吹きながら倒れ、魔族が死んだ証拠として肉体が霧散したのだった。


 カルロッテの勝利である。

「ふぅ、こんなところかしら。どう? まだやる気?」

 彼女の言葉を受けたベルフェゴールは満足げに笑いながら、拍手を送る。

「いやはやお見事。では次の実験といこうじゃないか。なに、たったあと2回付き合ってくれればよい」

 ベルフェゴールはそう言うと再び杖を地面に叩きつけた。すると今度は、数十体のネズミが姿を現した。

 先ほどの屈強なインプとは異なり、通常のネズミのようだ。



「今度は凶暴化させたネズミだ。さぁ、次は数も多いことだし、代表を2人選ぶがいい」

 ベルフェゴールはそう言ってニヤリと笑う。一行はそれぞれ顔を見合わせる。

「はぁ……。ネズミは苦手ですが、そろそろわたくしとエマの……」

 マリナがそう言いかけると、リズがファブリスと共に前に出る。

「ここは私たちに任せてください。ネズミは疾病を持っていることが多いので回復魔法を使用できる私と、勇者で疾病にある程度耐性を持つファブリスの2人が適任だと思います」

 リズの言葉に、ファブリスも頷く。


「……分かりましたわ。ではお2人にお任せしますわ」

 2人の決意に折れたのか、それともネズミと戦いたくなかったのか、マリナはそう言って引き下がるのだった。

 リズとファブリスは前に進み出ると、それぞれ武器を構える。

「2人ともお願いね!」

 エレーナがそう言って2人に声援を送る。

 2人は一斉にネズミの群れに斬り込んでいったのだった。


 一方、マリナはカルロッテの元に駆け寄った。

「お見事でしたわ! お怪我はありませんか?」

 マリナの言葉に、カルロッテは笑顔で首を横に振る。

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 カルロッテはマリナに礼を言うと、今度はリズたちの方に目を向ける。

 2人は見事な連携でネズミを圧倒していた。

「さすがね……。でもあの数だと少し時間がかかりそうかしら?」

 カルロッテの言葉通り、ネズミの数は一向に減る気配がない。

 しかし2人の表情は生き生きとしており、むしろ戦いを楽しんでいるように見える。

「そうですわね……。あの調子なら大丈夫でしょう」



 2人はその後、しばらくネズミの群れと戦い続けていたが、やがてあることに気付く。

 腕や足などの体の一部を破壊されたネズミから、小さなネズミが増殖しているのだ。

「くっ! これじゃあキリがない!」

 ファブリスは思わず悪態をつく。

 そんな一行にベルフェゴールは満足げな笑みを浮かべると、杖を掲げる。

「フフフフフ……こいつらは、切り離された体の一部から小さな自分のクローンを増殖させる能力を持たせたネズミだ。ワタシが改造したのだよ。さぁ、たかがネズミ。されどネズミ。どうする?」

 ベルフェゴールがそう言った直後、ネズミの一体がリズの死角から迫り、飛び掛かる。

 それを聖属性の魔法で吹き飛ばしたリズだったが、肉体が四散した1対のネズミから数体のネズミが複製されてしまう。


「なっ!?」

 予想外の出来事に動揺したリズ。その隙をついてネズミたちは一気に彼女に襲い掛かる。

「リズ!」

 エレーナの叫び声が木霊する。ネズミの群れは一気に彼女を飲み込むと、数匹のネズミがそのまま彼女の体に噛り付く。

「うあぁぁぁぁっ!!」

 リズの絶叫が響き渡る。ネズミたちに噛まれた箇所からは鮮血が流れ出しており、彼女はその場に崩れ落ちてしまう。

「くっ……こ、このっ……!」

 それでもなんとか立ち上がろうとするリズだったが、ネズミは容赦なく彼女の体を貪っていく。


「だ、大丈夫です! 回復魔法を使いながら戦えば……この程度の攻撃なら致命傷は避けられるはずです!……でも……あぁっ! ……くっ、い、痛い……!」

 リズは自らに回復魔法を唱えながら、ネズミを振り払おうとして身をよじる。

 小さなネズミを攻撃するのはリズを傷つける可能性もあり、ファブリスも迂闊に攻撃することができない。


「チュウチュウチュウ!」

 ネズミたちはリズに群がり、噛み付く。その数が多く、彼女の全身には無数の噛み跡が刻まれていく。

 回復魔法を使用しているリズだったが、ついに回復の速度より、ネズミが肉体に与えるダメージの方が上回ってしまう。

「うっ、あああぁっ!!」

 ネズミの歯が彼女の皮膚に突き刺さり、リズは思わず悲鳴を上げる。その痛みは想像を絶するもので、彼女は思わず意識を失いかける。

「チュウ!」

 しかしそんな隙も与えないとばかりに、別のネズミがリズの腕に、脚に噛み付く。

「うあぁぁっ!! あ……あぁ……!」

 リズは激痛のあまり絶叫し、その場に倒れ込んでしまう。

 そんな彼女を嘲笑うかのように、ネズミたちはリズの体に群がっていくのだった。


「く、くそ! 離れろっ! 鬱陶しいっ!! くっ!!」

 ファブリスの方にも大小のネズミたちが群がり、彼の体に次々と噛み跡を残していく。

「ファブリス!! リズ!!」

「魔法で消し飛ばして!!」

 エレーナとカルロッテは、目の前の悍ましい光景に思わず叫ぶ。

「体の一部を残すから分裂するのですわ。爆発系の魔法で跡形もなく消し飛ばすか、炎の魔法で完全に焼き尽くすのが得策でしてよ」

 エレーナたちが歯痒い思いをしている中、マリナが冷静にアドバイスを送る。

「で、でもリズは回復魔法と聖属性の魔法しか使えないし、ファブリスは炎の魔法を扱えるけど高火力のものしか扱えない! リズまで巻き込んでしまうわ!」

 彼女のアドバイスに対して、エレーナたちは絶望的な表情をする。


 回復魔法で回復しながらであれば、ファブリスの炎の魔法で自分ごとネズミを焼き尽くすことはできるだろうが、リズはすでにネズミからの攻撃に耐えることで精一杯の様子だ。とてもそんな余裕はないだろう。


「くっ! ちょっとあんた! 選手交代よ!! あたしとリズを交代して!」

 耐えかねたエレーナはベルフェゴールを睨みつける。様々な魔法を扱うことができる彼女ならば、味方へのダメージを最小限にしながらネズミたちを跡形もなく消滅させることができるだろう。

しかし……。

「うん? そいつは無理な相談だなぁ。最初に代表を選んだ以上、決着が着くまで変更は受け付けないぞ?」

 ベルフェゴールは意地悪く口元を歪ませる。

「なっ!? そんな! この卑怯者!! もう関係ないわ! みんなっ!」

 エレーナとカルロッテに続き、エマ、マリナも2人の元に駆け寄ろうとする。

 ……が、しかし。

「えっ!? な、なんで!?」

「見えない何かがありますわね」

 目には見えない障壁に阻まれる4人。



 その間にもリズはネズミの攻撃によるダメージで、抵抗力が弱まってきていた。

 もはや回復魔法を唱え続ける余力すら残っていないようだ。

「あ……あぁ……このままじゃ……」

 リズの意識が徐々に遠ざかり、彼女の全身を絶望が支配していく。


「フフフフフ! ネズミに喰い殺される勇者とその仲間の僧侶……なんとも滑稽な話だ。魔界はもちろん、お前たちの世界でも笑い話として語り継がれることだろうな」

 ベルフェゴールが高笑いを上げると、観客席の魔物たちは興奮したように歓声を轟かせる。

「うぅ……そんな……ファブリス……リズ……」

 カルロッテは必死に障壁を叩いているが、ビクともしない。


「……いや……死ぬのは……いや……。助けて、神様……」

 そしてリズはネズミの攻撃に耐えきれず、ついに意識を手放してしまったのだった。

「リズッ!!」

「チュウチュウ!」

 数匹のネズミがリズの体に取りつき、噛り付く。彼女は小さく呻くものの、目を覚ます気配はない。


 そんな光景を見たファブリスは怒りを爆発させ、ベルフェゴールに向かって叫ぶ。

「貴様ぁ! 絶対に許さんぞ!! この外道がぁ!!」

「ハハハ! 人の心配ばかりしていていいのかな?」

 ベルフェゴールがそう言うと、ファブリスの背後から小さなネズミたちが現れる。その数は数百匹にも及ぶだろう。一度は振り払ったファブリスだったが、今度の数はあまりにも多い。

 ネズミたちは一斉に彼の体に群がり始める。

「うあぁぁっ!!」

 全身に走る激痛に、思わず絶叫するファブリス。


 ベルフェゴールが高笑いする中、ファブリスは必死に剣を振るい続けるが、数が多すぎるためか一向に数が減らない。

「"シャイニングブレイブーブー!!"」

「"シャイニングブレイブーブーブー!!"」

 2度の必殺技を繰り出したファブリスだった。

 が、やはり圧倒的な数を減らすには至らず、やがて彼は体力の限界を迎え、その場に膝をつくと倒れ込んでしまう。


「ファブリス! リズ!!」

 エレーナは必死に障壁を叩きながら叫ぶが、2人には届かない。

 そして小さなネズミたちは次々と2人に群がっていき……辺りには肉を貪られる生々しい音と狂ったようなネズミの鳴き声が響き始めた。

「う、嘘……嘘よ……」

「こ、こんなのって……」

 エレーナとカルロッテは絶望してしまっている。

「フフ……勇者パーティーはこの程度の実力なのか?」

 ベルフェゴールは満足げな笑みを浮かべる。



 ……が、しかし。

「まったくその通りですわ。ネズミごときに敗れるだなんて……情けないですわね」

 ため息と共にそう呟いたのは、マリナだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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