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第37話「平穏な朝の森、忍び寄る影」

 一方のマリナとルル。

 マリナはまだぐっすりと眠っているが、ルルの方はすでに顔を洗って朝食の準備を始めていた。

「やっぱり朝は炊き立てのご飯だよねぇ~!」

(マルクみたいな港町じゃお米なんて手に入らないと思ったけど、さすが帝国! ちゃんとお米も流通してて助かったぁ~)

 と、キャンプの火でお米を炊いているルル。ご飯と一緒に食べる味噌汁作りも手慣れたものだ。

「さっき獲ったお魚も焼きたいけど、それはマリナちゃんが起きてからにしよーっと」

 と上機嫌で、彼女は朝食の支度をするのだった。


 それから程なくしてマリナが眠そうに目を擦りながら起きてきた。

「おっはよ~! マリナちゃん」

「ん……おはようぅ~! ルルー!」

 寝起きで完全に気を抜いているマリナはフラフラと歩いている。

「朝からずいぶんと元気ですのね。わたくし、まだ眠いですわ……」

「あはは! やっぱりマリナちゃんは朝弱いね~! ほい、お水♪」

 ルルはそんなマリナに水を差し出しながら笑う。


「ありがと……。んく……っはぁ~。ふぅ、ようやく目が覚めましたわ!」

「うんうん、それはよかった。さ、朝ご飯できてるよ~」

 ルルの言葉にスゥ~と深呼吸するマリナ。

 そしてすぐさま目を輝かせる。

「まぁ♪ なんだかおいしそうな香りがすると思ってましたの! 急いで顔を洗って来ますわね!」

 そう言って駆け出すマリナを、ルルは微笑まし気に見つめるのだった。



「ふぅ~、ライスもミソスープも美味しかったですわぁ……お魚もいい感じの焼き具合で……。幸せ」

 マリナは食後の紅茶を飲みながら、しみじみと呟く。

「……というかお魚まで獲っているとは思わなかったわ。いったいどうやって?」

 マリナが聞くとルルは何でもないことのように返す。

「実はね、昨日の夜寝る前に川の一角に罠を仕掛けておいたんだ。それで今朝、罠を回収して2人分のお魚をいただいたってわけ」


「へぇ~……。さすがはルルですわね。わたくしもやってみようかしら……」

 感心するマリナに、ルルは笑って言う。

「あ、簡単そうだと思ってるでしょ~? 罠を仕掛ける場所とか、色々コツがあるからね。今度教えてあげるよ~!」

「それはありがたいですわね。……あ、ごちそうさまでしたわ」

 マリナはそう言って両手を合わせると、ルルも同じように手を合わせた。

「はい、お粗末様でしたぁ~」



 ルルは食器を川で洗いながら、マリナに聞く。

「それでマリナちゃん、これからどうするの?」

「……そうですわねぇ」

 マリナは紅茶の入ったコップを両手で包むようにして持ち、少し考える。

 そしてすぐに顔を上げて言った。

「まずはエマたちと合流しないといけないのだけど……。この広い森を闇雲に探し回るのも効率が悪いわよね。2人は滑り落ちた崖を飛ぶことができないはずだから、きっと別の道から森の出口を探すはず……」

 マリナは思い至ったように腰に手を当てる……。


 が、すぐに頭を振って思案したような顔に戻ってしまう。

「でも、エマの能力があれば地面を隆起させて崖の上に戻れるかも……。いや、でもそれをグランローズが見過ごすかしら……んんんん……ダメ。考えれば考えほど纏まらないですわ!」

 マリナは頭をくしゃくしゃと掻くと、ふぅっと息を吐く。

「ま! 悩んでも仕方ないですわね。ルル、少し待っていてもらえる?」

と言うや否や、マリナは上空へと飛び上がる。

「え!? マリナちゃんっ?」

 空の上から森の全景を俯瞰するつもりなのだ。


「う~ん、恐らくクーロンさんから貰った石が指し示す出口は、あっちか……それともあっちのどちらか、ね……」

 マリナは宙に浮きながら木々がなくなり、街道が広がっている方を見て1人呟く。

「……っと! やっぱり攻撃してくるんですのね。森を出たいだけなのに」

 マリナは森から伸びてきた巨大な(つる)をひらりと回避する。

 森の奥から伸びてきたグランローズの蔓は、単なる植物ではなかった。

 まるで「森を汚す者は許さん」と言わんばかりに、鋭い先端をマリナに突きつける。

 そこには怒りとも、試すような眼差しとも取れる気配があった。

 何度か回避した後、すぐにルルの元へと戻るマリナ。


(場所はわからないけど……エマもファブリスさんも、必ずどこかで無事を信じて進んでいるはず……)

 マリナは胸に手を当て、深く息を吸い込んだ。

「ならば、わたくしたちも前へ進むしかありませんわね。ルル、とりあえずはクーロンさんからもらった石の導きに従って進みますわよ」

「うん、わかったよ! 2人もきっと探してるよね!」

 ルルはそううなずくと、荷物を持って立ち上がる。


 ふと、森の奥で木の枝がひとつ、パキリと折れる音が響いた。

 小鳥の声に紛れて消えてしまったが——妙に重く、意図を感じる気配だった。

「……今の、風の音じゃなかったわよね?」

 マリナの眉がわずかに寄る。

 ルルは首を傾げながら、笑顔を取り繕って荷物を持ち直した。

 朝の空気の奥に、わずかな緊張が流れ込む。


 ガサガサ、という音と共に野生のシカが駆け抜けていった。

「な~んだ、シカさんかぁ……。びっくりしたぁ~」

 ルルはホッとしたように胸をなでおろす。

 マリナはそれでも少し警戒しているようだったが、ルルに促され、進むことに決めた。

 こうして2人はエマたちとの合流を目指して、森の中を歩き始めるのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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