第34話「森に阻まれた夜、二組の野営」
「う~ん、いい香りですねぇ……!」
エマとファブリスはパチパチと音を立て燃える焚火を囲って座り、鹿肉が焼けるのを待っていた。
辺りには肉の焼ける香ばしい香りが漂い、その香りにつられて動物たちが集まってこないかとも思えるくらいだ。
2人はとても穏やかな時間を過ごしていた。
「……なんかさ」
そんな時、ファブリスが口を開いた。
「はい?」
エマは彼の方を向くと首を傾げた。
「こうやって落ち着いてエマと話すのって、意外とあんまりなかったよな」
エマは目をぱちくりさせる。
「確かに言われてみれば、そうかもしれませんね……。こうして2人きりになる機会はあまりなかったですものね」
2人は焚火に照らされるお互いの顔を見ながら笑い合うのだった。
「きっと今ごろ、マリナ様とルルちゃんも同じ会話をしているころだと思います。私と3人で会話をすることはあっても、あの2人だけで会話するということはあまりなかったように思いますから」
エマのその言葉にファブリスは、そうかもしれないなと、納得した表情を浮かべる。
そしてようやく焼けた鹿肉を手に取り頬張る。
口の中にジュワ~っと肉汁がひろがり、ハーブの香りと焼き肉の香ばしい香りがさらに食欲をそそる。
口いっぱいにほおばり、頬を緩ませていたファブリスは唸った。
「うんめぇ~! やっぱ野営で食う肉はうめぇなぁ!」
エマはそんなファブリスの姿を見て、またクスクスと笑う。
そして彼女もまた、自分の分の鹿肉に手を伸ばしたのだった。
それから2人は他愛のない会話を続けながら食事を摂るのだった。
その少し前、マリナとルル。
「ね、ねぇ……マリナちゃん。だんだん暗くなってきたね。い、一旦、転移魔法で宿に帰った方がいいのかな?」
ルルは暗くなり始めた周りの景色をキョロキョロと見回しながらマリナに話しかけた。
「転移魔法は何度も試したけどダメだったでしょう? グランローズなのか、森の魔力なのか……。何らかの力によって空間移動や探知系の魔法が阻害されているようですわね」
ルルは転移魔法を、マリナはエマの気配を探知しようと何度も試みていたが、ことごとく失敗に終わっており結局2人は森の中を歩き続けているのだった。
マリナがルルを抱きかかえて空を飛べば森からの脱出は可能だが、エマとファブリスを残して自分たちだけ宿に戻るのは気が引ける。
それに空を飛べば、またグランローズの襲撃を受けるかもしれない。
空中戦闘は得意なマリナだが、ルルを抱えながらでは回避が難しいであろうことは想像できた。
辺りを見ながら歩いていると、ちょうどよいスペースを見つけたマリナ。
ふぅ……と一息つくとマリナはルルに視線を向ける。
「仕方ありませんわね。今夜はこの辺りで野営することにしましょう」
マリナがそう言うと、ルルは嬉しそうな表情を浮かべた。
「ほんと!? よ~し! じゃあ野営の準備をしよう!」
周りを飛んでいる虫を嫌そうに払っているマリナと対照的に、ルルは鼻歌を歌いながら火おこしの準備をし始める。
そんな天真爛漫な彼女の様子に少し癒されたマリナもまた、魔具に入れられている簡易キャンプセットを取り出して野営の準備を始めるのだった。
「う~ん……やっぱり何度やっても慣れませんわね……。えっと、次、どうするんだったかしら……」
久しぶりの野営であることに加え、いつもエマがテキパキと手際よく用意してくれるため、マリナはテントの扱いに手間取っていた。
「えっと、まずはこの道具を使って……あら?」
ルルが彼女の様子を見ると、あきらかに違う部分を無理やり引っ張っているのが見えた。
「あっ、ダメダメ! 支柱が折れちゃう!」
ルルが慌ててそう言うとマリナは首をかしげた。
「え? で、でも、こうすれば……ほら……!」
彼女はそう言いながら支柱の先端無理やりねじ曲げようとしながら、テントの形を整えていく。
「だからダメなんだってばぁ! もうっ! ちょっと貸して!」
ルルは半ば強引にマリナからテントを奪うと、テキパキと組み立て始めた。
そんな彼女に少し驚いた表情を見せたマリナだったがすぐにクスッと笑う。
「あら、ルルってアイドルなのにキャンプ慣れしてるのですわね」
「うん! 昔から大好きだったんだぁ。友達とつるんでよくキャンプしてたんだよね~。それでよくおまわりさんに怒られてたっけ」
ルルはそう言って笑いながら、手を動かしている。
微笑ましそうに見ていたマリナだが、聞きなれない言葉に怪訝そうな表情になる。
「……つるんで? おまわりさん?」
「あ、えっと……友達と一緒にキャンプして、衛兵さんに怒られたって意味! あははは!」
少し慌てた様子のルルにマリナは首をかしげる。
「そう、なの? まぁいいわ。わたくしもいい加減、1人でテントくらい張れるようにならないとね……はぁ……」
視線をルルが組み立てたテントに向けると、ため息をつく。
「……本当はね、こうやって自分でテントを張れるようにならないと、いつまでも子どものままのような気がするの」
マリナの吐息まじりの言葉に、ルルは小さく首を振った。
「違うよ。誰かに任せられるのも、強さのひとつだと思うな!」
彼女の屈託のない笑顔に、マリナはまたしても元気づけられるのだった。
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