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第29話「ケンタウロスとの対峙 ~泉に響く怒りの拳~」

「おいおい、嬢ちゃんたちのせいで大事な食料が……」

「食料? ああ、さっきのアヒルさんのことですわね」

 マリナの言葉にケンタウロスたちはうなずく。

「そう、あれは俺たちの貴重な食糧だ。それを……。どうしてくれるんだ?」

 2人の前にケンタウロスが1人進み出て、弓を引きながらそう言った。

 その口調は穏やかだが、その目は決して友好的ではない。


「アヒルさんを食料だなんてひどいよ! アヒルさんはとっても可愛いんだから!」

 ルルはケンタウロスたちに抗議するが、それをマリナが制する。

「ルル、気持ちはわかりますが……。森に生きる者たちにとっては、それもまた生きるために必要なことなのかもしれませんわ」

「そ、そんなぁ……」

 ルルは肩を落とす。

 ケンタウロスたちはマリナの言葉を聞くと、顔を見合わせて笑った。

「ほぅ、よくわかってるじゃないか……。それならどうやって責任をとるんだ? お嬢ちゃんたちよぉ」

 ケンタウロスたちはニヤニヤと笑いながら2人に近づく。


「ふむぅ……。まだまだ若すぎるが、2人ともなかなかの上玉だ。俺たちの集落で飼われてみるかい? ん?」

 ケンタウロスたちはマリナとルルを舐め回すように見る。

 2人はその不快な視線を浴びながらも、決して怯むことなく毅然とした態度をとっていた。

「お断りしますわ」

「私も!」

 きっぱりと断る2人を見て、ケンタウロスたちは尚もニヤニヤと笑っている。

「はっはっは! 気が強いねえ、嫌いじゃねえぜ? 久しぶりのヒューマン種のメス……それも小綺麗なかっこうをした若いメスだ。今日は運がいいな!」

 ケンタウロスたちはマリナとルルの体をジロジロと見ながら、楽しそうに舌なめずりをする。

 彼らの眼差しは、獲物を前にした獣のそれだった。蹄が地を踏み鳴らすたび、泉の水面が小さく震える。

「……下衆。わたくしを誰だと思っているのかしら? 例え今は追放された身でも、誇りまで捨てた覚えはありませんわ」

 吐き捨てるようにそう言ったマリナの言葉には、嫌悪感がにじみ出ていた。

 そんなマリナにも怯むことなく、ケンタウロスは余裕を見せるように笑う。


「はっはっは!大人しくしときゃあ可愛がってやるって言ってるのさ。ちょうど近くに俺たちの集落があるんでな……」

 その言葉に他のケンタウロスたちは顔を見合わせて笑う。

「ケンタウロスは好色……という噂は本当でしたのね。お引き取り願います」

 氷のように冷たいマリナの言葉に、ケンタウロスたちはまた笑った。

「へへへ、ずいぶんお行儀のいい言い方するじゃねぇか。ヒューマン種のお嬢様か何かかい? こっちは5人、嬢ちゃんたちは2人だ。逃げられると思うなよ?」

 ケンタウロスのリーダーと思われる1人がそう言うと、他の4人も武器を構えて戦闘態勢に入った。


 これまで黙っていたルルが口を開く。

「ねえ、ケンタウロスのおじさんたち。おじさんたちはルルとマリナちゃんを無理やり乱暴して、お嫁に行けなくしちゃうってこと?」

「なんだ? 嬢ちゃん。当然だろ? この森は俺たちの縄張り。縄張りに入ったヒューマン種は俺たちに逆らえねえんだ」

 最初は困ったように笑っていたルルの瞳が、ケンタウロスのリーダーの身勝手な言葉を受けて、次第に冷たく細められていった。

 普段のキラキラとした光は消え、そこに宿っていたのは……本気の怒り。

 そして次の瞬間、ルルは拳を振りかざす。


「ぐはっ!!」

 ルルの拳が振り抜かれる瞬間、泉の水音すら止んだように感じられた。

 次の刹那、鈍い衝撃音と共に1体のケンタウロスの巨体が水飛沫をあげて吹き飛んだ。

 5人いた他の4人は驚いて動けずにいたが、すぐに状況を理解すると武器を構えた。

 マリナも突然のことに開いた口が塞がらない。

「このメスガキぃっ! 何しやがるっ!」

 泉に落ちたケンタウロスが、水の中から怒りの形相でルルを睨みつける。

「おじさんたちのしようとしていることは、絶対に許されないことだよ!」

 ルルは鋭い目つきで、ケンタウロスたちを睨み返す。

 彼女の強い怒りを始めて目の当たりにしたマリナは、普段とのギャップに固まってしまっている。


「くっ……。このガキ、ヒューマン種のメスの分際で俺たちに歯向かうとは……」

 ケンタウロスたちはルルを恐ろしい形相で睨むが、彼女は一切臆することなく視線を彼らに向けている。

「おい、おめぇら! さっさと連れ帰って集落で調教してやるぞ! 二度と生意気な態度がとれねぇようにな!」

 リーダーがそう言うと、他の4人がマリナとルルに迫る。

 マリナが手を構え、戦闘態勢を取ろうとするが……。

 ルルがスッと彼女を制する。


「マリナちゃん……。ここはルルに任せて、ちょっと離れててもらえるかな?」

 ルルはマリナにそう言うと、1人前へと進み出た。

「え? ですが……大丈夫なんですの?」

 マリナの問いかけにルルは振り向き、ニッコリと笑う。

「うん! 大丈夫だよ!」

 そんなやり取りの間にもケンタウロスたちは迫ってきているが、ルルはそんな様子を気にする様子もなくマリナに微笑む。


(ルルは、わたくしがマシューと戦っている間、エマと一緒にアンとチェルシーの相手をした。アンとチェルシーを倒したのもルルだってエマが言っていたし……)

 マリナはそう考えて、ルルにこの場を任せて少し後ろに下がった。

「わかりましたわ。ルル、あなたの強さをわたくしに見せてくれる?」

 ルルはマリナの言葉にうなずくと、ケンタウロスたちに向き直るのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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