第27話「4人を呑み込む緑の影」
その少し前……。
「ふぅ~、やっぱりいい景色を見ながらの立ちションは格別ですな」
ファブリスは軽い調子でそんな独り言を言いながら、茂みの中で用を済ませていた。
「さて、と。この近くに小川が流れてた気がするんだよな」
彼が耳を澄ませると、たしかに水のせせらぎが聞こえてくる。
「お、ビンゴ! こっちだな……。ささっと手を洗わせてもらいますかね」
森の景色を見ながら小川を目指して進んでいたファブリス。
だが……。
「……にしてもすげぇ森だなぁ……どこまで続いて……うわああああっ!!」
不注意で足元を見ていなかったのだ。
崖から足を滑らせ、そのまま滑り落ちていく。
そして現在。
「きゃあああああああっ!」
今度はエマの叫び声が聞こえ、マリナとルルもさすがにただ事ではなさそうだと、慌てて声のした方へと呼びかける。
「エマ! ファブリスさん!」
マリナが叫ぶ。
「2人とも大丈夫なのっ!?」
ルルも同じように森に向かって声を張り上げた。
しかし返事はない。
誰かの罠かもしれない、と思いつつも2人の安否が心配だ。
マリナとルルは顔を見合わせてうなずくと、森へ向かって走り出したのだった。
2人の名前を呼びながら走り続けるマリナとルル。行けども行けども同じような景色だ。
「そんな遠くに行ってるはずは無いのに……。もう、一体どこにいるんですの!?」
マリナは息を切らしながらも懸命に走り続ける。
(大きな木……一体どこまで……うん? 何か景色がおかしいような……)
その瞬間、マリナは気付いた。
目の前には確かに木々が生い茂る景色が続いている。
しかし、自分たちが走っている道が突然途切れ、切り立った崖になっていることに……。
「エマちゃ~ん、ファブく~ん!」
ルルはそのことに気付かず、マリナの前を走る。
「危ないっ!」
「うきゃあああっ!」
そのまま崖から飛び出したルルは崖に真っ逆さまになりそうになるが、マリナがその体を抱きかかえて宙に浮く。
「ありがとうマリナちゃん……」
ルルは間一髪のところで落下しそうなところを助けてもらい、声を震わせながらマリナに礼を言う。
宙に浮いたマリナと彼女に抱きかかえられたルルの目の前には、鬱蒼と生い茂る木々が広がっている。
その一部は非常に高く伸びており、マリナたちがさっき走っていた道よりも高いものもたくさんあった。
この大きな木々のせいで森が奥に広がっていると勘違いしてしまったのだ。
崖の下にはさらに深く、広大な森が広がっている。
霧が立ち込めているような場所もあり、どこからか動物なのかモンスターなのかなにかの唸り声が聞こえてくる。
「も、もしかして2人とも崖から落ちちゃったのかな……大丈夫かな?」
ルルが心配そうな様子でつぶやく。
「大丈夫ですわ、ルル……。ファブリスさんもエマもこれくらいの崖から落ちた程度では、大丈夫……。きっとすぐ近くにいるはずですわ」
マリナは自分に言い聞かせるようにそう言うと、ルルを抱えたまま空から見下ろす。
「2人が滑ったであろう位置を確認できれば、その下にいるはずですわ。ルルも崖のちょうど上辺りを見てもらえる?」
「うん! わかった!」
ルルはうなずくとマリナの指示通りに、切り立った崖に滑った後がないかを確認する。
「……あ、あれ!」
ルルが指さす先には、確かに滑った跡があった。
どちらが落ちたかはわからないが、少なくともどちらかはこの近くにいるはずだ。
早く降りて探そうと思った矢先、2人に向かって下の森から何かが迫ってくる。
それは巨大な鞭のようにしなってビュオッと大きな音を立てて振るわれる、植物の蔓だった。
「きゃああっ!!」
ルルは悲鳴を上げ、マリナにギュッとしがみつく。
マリナはルルを抱えたまま空中で身をひるがえし、冷静にその蔓の一撃をかわす。
……が、振り返ると同時にすぐに2、3本の蔓が迫り、ルルを抱えたままでは躱しきることができなかった。
(間に合わない!!)
ルルに攻撃が直接当たらないように自分の背中で蔓の叩きつけを受けたマリナは、背中に強い衝撃が走るのを感じる。
それと同時に空中での姿勢制御ができないまま、本来の着地点よりも遥か森の奥の方へと弾き飛ばされて行った。
「きゃあああっ!」
ルルは叫びながらマリナの体に必死にしがみつく。
「ルル、しっかり掴まっていて」
マリナはルルを落ち着かせるように声を掛けながら、脚から衝撃波を放って少しでも飛ばされる距離を短くしようと試みる。
2人はそのまま、深い森の奥深くへと落ちていくのだった……。
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