第24話「勇者、推しに崩れる」
「エマが治してくれたんだよな。ありがとう。あの時もそうだったけど、かなりの回復速度だよな」
ファブリスはベッドから起き上がり、体を動かしてみる。
体を寄生虫に勝手に動かされ、マリナに四肢の骨を折られるという大怪我を負っていた。
しかし、エマによって適切な回復魔法と処置を施してもらったおかげで、もうほとんど回復していたのだった。
「いえ、そんな……ご無事で何よりでした」
エマはニコニコと微笑む。
(今の俺はきっとエマよりも遥かに弱い。それでも、俺は強くなるんだ)
ファブリスはグッと拳を握りしめるのだった。
「あ、そろそろルルちゃんが帰ってくる頃ですね」
エマは思い出したようにそう呟く。
「ルル? 新しく仲間になった人か?」
ファブリスはエマに尋ねる。
「そっか、ファブリスさんはまだ会ってないんですね。とってもかわいい子で! 今日アイドル活動から戻ってくるんですよ!」
「アイドル活動? ルルちゃん……。……ん? ま、まさか……!」
ファブリスの額に汗が浮かぶ。
「はい、ルルちゃんはアイドルです!」
エマはニッコリと笑うのだった。
(……やっぱりか)
ファブリスは頭を抱えた。
「あ! ほら、噂をすればですよ」
エマの言葉と同時に、部屋のドアが開くと元気よくルルが入ってきた。
「たっだいま~! あっ! 勇者ファブリスだぁ~! はじめまして! ルルだよ~☆」
キラキラとした眩しい美少女。
ファブリスは、
「……ども……っす……。は、はじめまして……。……っす」
と挨拶をなんとか返すことができた。
「えへへ、よろしくね!」
ルルはニッコリと彼に微笑む。
ファブリスは何か言おうとしているが、口をパクパクとさせているだけだ。
そこへマリナも戻ってくる。
「さて、ルルも帰って来たことだしそろそろ夕飯にしましょうか。ファブリスさん、もう椅子に座って食事はできそうかしら?」
「あ、ああ! 大丈夫だ!」
ファブリスはなんとか返事をしたが、視線はルルに釘付けだった。
(これがアイドルの力……!?)
「やったぁ! 勇者の話とかたくさん聞かせてほしいな!」
ルルがファブリスの手を握ろうとすると、ファブリスは「ひぃぃ!」と言いながら後ずさりしてしまった。
その顔は触ったら熱そうなくらい赤くなっている。
「ルルちゃん! 初対面の異性相手にいきなりそんなことしたらダメですよ!」
ファブリスの異変を感じ取ったエマが、慌てて止めに入る。
「あはっ☆ごめんごめん~」
ルルは舌をペロッと出して笑った。
(ぐっ……かわいい……!)
ファブリスの心臓がトクンと跳ねる。
「ひゃああっ!」
ファブリスは情けない声を上げ、まるで敵から逃げる兵士のように布団へ潜り込んだ。
(ち、ちがう! 魔物と戦うのは怖くないのに……やっぱりこの子の笑顔には……!)
「え、えぇ……? ファ、ファブリスさん?」
マリナはファブリスの奇行に驚きを隠せなかった。
「ファブリスさん、どうしたんですか?」
エマが心配そうに声をかける。
「……す、すまん……。その……俺、俺……」
ファブリスが言葉に窮していると、ルルが彼の布団の近くにしゃがみこむ。
「どうしたの? 大丈夫、かな? ルル、心配だよ……」
と、上目遣いで覗き込んでくる。
「あはぁああっ! ふぉあああああっ! あぁ、だみだぁっ!」
ファブリスは奇声を上げて、布団をさらに深くかぶった。
「えぇ……いや……なんですの……? ……ファブリスさん、あのクールな勇者の威厳はどこへ?」
「な、なに……これ……は、いったい……?」
これまでのいい兄貴的なファブリスからは想像もできない状況に、マリナとエマは呆然とするしかなかった。
「あ、あの……ファブリスさん……?」
エマが恐る恐る声をかける。
「大丈夫だ! もう大丈夫だから!」
そう言いながら布団をバッと捲るファブリス。
しかし、その顔は真っ赤であり、目が完全に泳いでいたのだった。
そんな様子を見たルルが、顔の前で手を合わせて小首を傾げて見せる。
「えへへっ! ファブリスさんっ☆ 驚かせてごめんね!」
ルルの笑顔はまるで小さな太陽のようで、部屋の隅々まで光を満たした。
それは 勇者の心さえも、子供のように無防備にしてしまう魔法だった。
(か、かわいい……!)
ファブリスの心臓はまたも高鳴るのだった。
「はぎゃああああ!」
またしても隠れようとするファブリスの肩をマリナが掴んだ。
「ちょっとファブリスさん、これから一緒に旅する仲間ですわ。そろそろ慣れてくださいませ?」
「う……ち、ちが……お、俺は……俺はルルちゃんのファンなんだっ!!」
マリナの言葉にファブリスは大きな声でカミングアウトした。
少しの沈黙が流れる。
「えぇっ!? そ、そうなの? あの勇者ファブリスがルルのファン? 嬉しいなぁ!」
ルルはパァッと明るい笑顔を見せた。
彼女の笑顔が部屋を一瞬で明るくする。勇者の剣すら霞むような輝きだった。
「ぐ……ああ! だから、俺はルルちゃんの前だと緊張して! こう……心臓がバクバクして!」
ファブリスは真っ赤になった顔を両手で隠す。
「ほ、本物だぁ……。本物のルルちゃんが目の前に! ひゃあああっ!」
ファブリスはそのままうずくまってしまった。
「はぁ……まさか、ファブリスさんにこんな一面があったとは……。ルル、あんまりファブリスさんの心を乱さないでくださいね」
マリナは困った顔でルルに釘を刺すが、エマはふふ、と笑う。
「でもしょうがないですよ。ルルちゃんは世界中を魅了するアイドルですもの。ファブリスさんがこうなるのも無理ありません」
しばらくしてようやくファブリスは、ルルと会話ができるようになったが、それでもまだ目を見て話すのは難しいのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!




