第20話「海軍提督と王女の誓い」
程なくしてマリナが2人のいる場所へと戻って来た。
「エマ、ルル! 2人とも無事ですわね!?」
「マリナちゃん!」
2人が無事なのを確認して、ホッと胸を撫で下ろすマリナ。
そんな彼女の方こそ激闘を終えたばかりだとわかるほどに、身体中に傷がついており痛々しかった。
「心配を……おかけしましたわ……」
マリナはそう言って微笑むが、彼女のその表情はどこか儚げで痛々しい。
「マリナ様……」
エマには彼女に何かあったのだとすぐにわかったが、普段通りに振舞おうとしている彼女の気持ちを尊重しようと、深く聞くことはしなかった。
それでもエマは優しく彼女を抱きしめる。ルルも傷を負った彼女を心配し、同じように抱きしめた。
3人は少しの間、そうしているのだった。
その後、3人は避難場所へとたどり着く。
そこには大勢の町の人たちがいた。
彼らは最初の時とは打って変わって落ち着き払っていた。
その理由は、帝国軍海兵隊第一部隊という帝国最強の海軍が戦っているからだろう。
程なくして海兵隊と思わしき兵士たちがやって来て、優しい口調でその場にいる全員に告げた。
「脅威は去りました。みなさん、もう安心です」
その一言に一気に安堵の声が上がる。
「やったぞ! 帝国海軍は無敵だ!!」
「もう安心ね!」
「やったぞ! ルーガ提督最高!」
口々に喜びの声を上げる町人たち。
鳴りやまない拍手喝采の嵐。
町人たちの歓声が鳴りやまない中、重厚な足音が石畳を踏みしめて近づいてきた。
やがて人々の視線の先に現れたのは、白い立派な髭をたくわえ、鍛え抜かれた体を鎧に包んだ壮年の男――帝国軍海兵隊第一部隊の隊長、ルーガ提督その人であった。
「お、おおおおおっ! 提督だ! ルーガ提督だ!!」
「我らの町を守る英雄が来てくださった!」
町人たちは一斉に声を張り上げ、涙を浮かべて彼の名を呼ぶ。
ルーガは人々を見渡し、深く息を吸うと腹の底から響くような声で告げた。
「安心せよ! 帝国の旗の下に生きる限り、この海も、この町も必ず守り抜く。恐れるな、民よ――お前たちの背後には我ら帝国海兵隊がいる!」
その力強い言葉に、群衆は再び歓声を上げる。
「帝国万歳!」「ルーガ提督、万歳!」
拍手喝采と涙が町を揺らし、先ほどまでの恐怖は嘘のように掻き消えていた。
拍手喝采に包まれる中、ルーガは険しい戦士の表情を解き、ふっと柔らかく笑った。
「ま、こうして偉そうに言っちゃいるが……さっきからどうも腹が減って仕方がねぇ。誰か旨い魚を焼いてくれたら、すぐにでも十人前は平らげちまうぞ!」
その冗談混じりの言葉に、町人たちからは一斉に笑い声が上がる。
「ははは! 提督は昔から食いしん坊ですね!」
「俺が一番に焼き魚を献上するぜ!」
「あたしだって!!」
笑いの渦が広がり、緊張で張り詰めていた空気が一気に和らいでいく。
ルーガはそんな町人たちに向かって大きく片手を上げた。
「お前たちが笑って生きてくれることが、俺たちの何よりの誇りだ。だから笑って日々を過ごしてくれ、マルクの民よ!」
その笑顔はまるで海の太陽のように明るく、町人たちは改めて歓声を上げた。
「ルーガ提督、万歳!!」
人々の心を掴んで離さない――それこそが、彼が英雄と呼ばれる所以だった。
その様子を遠目に見ていたマリナは、思わず息を飲む。
――これが帝国の英雄。人々の絶対的な信頼を背負う男の姿。
彼女の胸の奥に、比べるまでもない己の小ささと、彼のような強い人物に追いつきたいという想いが同時に芽生えるのだった。
マルクの町に戻ったマリナたちは、戦いの傷を癒すために宿で休んでいた。
ルルは翌日のホテルの朝食で、パンとスープを2回もおかわりしていた。
エマの方もそんなルルを見て思わず笑顔になる。
2人は1日休んだことで笑顔が戻ってきたが、マリナだけはどこか暗い表情をしている。
「マリナちゃん? どうしたの?」
ルルが心配して尋ねると、彼女は絞り出すように呟いた。
「……わたくしは……ほんとうに……強くなれるの?」
彼女は、未だに兄であるグレイに怯えた自分の力不足を嘆いていたのだ。
「マリナ様……」
エマは心配そうに彼女を見つめるが、ルルは違った。
「なれるよ! きっと……ううん、絶対に!」
ルルのその言葉に、マリナは驚いた表情を浮かべる。
「どうしてそう言いきれるの?」
「だってマリナちゃん言ってたじゃない。『自分は強くならないといけない』って」
確かに言った。だが、言葉だけならなんとでも言える。
戦って敵わない以前に、動くことすらできなかったグレイとの再会を思い出して、心臓をギュッと握られたような気持ちになる。
「そう……ですけれど……」
納得していない様子のマリナにルルは続けた。
「諦めてしまったら、そこで終わりなんだよ。諦めなければ夢は叶う……とまでは言えないけど、でも努力することはできるよ!」
ルルの言葉にマリナは何かを感じたようだった。
「そうですよ、マリナ様。私も一緒に頑張りますから!」
笑顔のエマもそう続けた。
「ルル……エマ……」
2人の励ましに、マリナの心に温かな光が灯ったようだった。
グレイトバースの城から逃げ出したあの日、自分は追放した父や兄弟姉妹を見返すために、強くなると誓ったのだ。
そして彼女なりに努力もしてきたつもりだったが、まだまだ足りない、届かないのだということを実感させられた。
それでも今、自分には仲間がいるということを強く実感したのだった。
(わたくしは……まだやれる……!)
「そうですわね……。わたくしもまだまだ強くなれますわよね」
彼女はそう言うと、少し吹っ切れたような表情で微笑んだ。
エマ、ルルと共に強くなろうとマリナは決意するを新たにするのだった。
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