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第18話「ミラクル・ルル♡スターフォーム」

 ……その時だった。

「エマちゃんは奴隷じゃないよっ! マリナちゃんの大切な人なんだよっ!」

 そんな叫びが響き渡る。

 それはアンによって、光の鎖に縛られているルルであった。

「どうしたの急に? うるさいんですけど~?」

「あんまり騒ぐとアンタを痛めつけちゃうよ?」

 2人はルルの方に同時に視線を向ける。

 チェルシーの言葉にエマは焦りを隠せない。

 先ほどまで自分にターゲットが向いていたが、このままでは守る対象である彼女にまで攻撃が及ぶのは時間の問題だからだ。


「エマちゃんは奴隷なんかじゃ……ないっ! エマちゃんは、マリナちゃんにとって大切な存在なの……! あなたたちだって、マリナちゃんの妹なんでしょ? どうしてマリナちゃんとエマちゃんを傷つけるようなことするの?」

 ルルはなおも必死にそう訴えるが、アンとチェルシーにはまったく響いていないようだ。

「あはは、バカじゃないの? マリナお姉様の妹だから何?」

「お姉様はもうお姉様じゃないんだよ? だって国を追い出された失敗作なんだから、あははは!」

「っ……!」

 アンとチェルシーの無慈悲な言葉に、ルルは言葉を失う。



「奴隷じゃない? マリナお姉様にとって大切な存在?」

 2人はそんなルルに冷たい視線を送る。

「……誰だか知らないけどさぁ、調子に乗らないでくれる? 私たちはグレイトバースの王女なの……。本来アンタなんかが気安く言葉を交わして良い存在じゃないの」

 チェルシーが苛立ったように言うと、アンは彼女を縛る光の鎖をさらに強く縛り付ける。

「うぐぅっ……!」

 苦痛に顔を歪めるルル。

「ルルちゃん、もうやめてっ!」

 エマはこれ以上2人を刺激することは、本当に危険だと感じていた。


 それでもルルは言葉を続ける。

「……マリナちゃんはきっと、今でも本当は……心の中ではあなたたちのこと、大切に思ってるはずだよ……。だから……こんなことはやめてっ……!」

 ルルの言葉に、2人は一瞬言葉を失う。

 が、すぐに笑い始める。

「マリナお姉様が……? ……あはは! 何それ~? 超ウケるんですけど~」

「お姉様が私たちを大切に想っている……? そんなのありえないでしょ」

 2人にとって、マリナとは自分たちの姉であり絶対的な存在であった。しかし、その立場は逆転したのだ。彼女は試練に失敗し国を追放された。そして自分たちは試練をこなし、立派にグレイトバースの王女を名乗っている。

 国を追い出されたマリナが、自分たちを想っているなど考えられるはずもないのだ。そして自分たちは彼女を蔑み、見下している。


「アンタさぁ、さっきから何なの? グレイトバースのこと、フォスター家のこと何も知らないくせに……」

 アンは心底苛立っているようだ。

「ルルちゃん、もう彼女たちを刺激するのはやめて。このままだとルルちゃんが……」

 エマは果敢に彼女たちを説得しようとするルルに、そう声をかける。

 が、ルルはそんなエマに対して首を横に振る。

「だって……! 大切な姉妹で傷つけ合うなんて、絶対に間違ってる……!」

 これまで見せたことのない強い表情で言うルルに、エマは何も言えなくなってしまう。


「大丈夫。ルルは"アイドル"だから」

 ルルは笑顔でそう言うと、アンとチェルシーの方に顔を向ける。

「ねぇ……今のあなたたちにとってマリナちゃんがどんな存在なのかはわからないよ。だけど、殺し合うのだけは間違ってる! だから、殺し合いをさせないために……ルルがあなたたちを止めます」

 ルルはそう言うと、2人に向けて微笑む。

「っ! 何なの……その目……!」

 チェルシーがたじろぐ。彼女の目には、ルルの放つ強く眩しい光が映っていた。

「あはは……! 面白いじゃない!」

 しかしアンは違った。彼女もまた、ルルの光に目を奪われている。

 そして同時に苛立ちも覚えていた。自分たちが見下すべき、ひ弱な存在が放つ光の強さに。

 彼女は怒りを覚えると同時に、自らの光でその光を消し去るべく、光の鎖の縛りを強くして彼女の体を切断しようとする……が。


「う~ん! やぁっ!!」

 ルルが叫びながら体から光を放ち、アンの光の鎖を破壊した。

「なっ……!?」

 アンが驚いて声を上げ、チェルシーはまだ目を奪われているのか、ただただ目を見開いている。

「ル、ルルちゃん……?」

 本気ではなく油断していたであろう面も大きいが、グレイトバースの王女であり、圧倒的な戦闘力を誇るアンの拘束を解いたルルに、エマも驚きを隠せない。



「見ていて、エマちゃん。今のわたしには難しいけど、いつかわたしはみんなを笑顔にする。そして夢を与えられる存在になるから」

 ニッコリと微笑むと、ルルは手を上へと翳す。

「"ミラクルスターライト・チェンジアップ♪"」

 そう言ってルルが手を横に振ると、彼女の体が眩い光に包まれ、彼女の衣装も変わり始めた。

 まるでその場所だけが別の世界にあるかのように、キラキラと光が零れ、シャラララと綺麗な音が流れる。

 そして光が晴れた時、彼女はキラキラした可愛らしい衣装を身にまとっていた。

「お空を照らすキラキラ一番星! ミラクル・ルル♡スターフォーム!」

 ルルは目元でピースをして可愛らしいポーズを取る。

「ステージオン♪」



「これは……」

 エマは驚きのあまり言葉を失う。この光は一体……。

 しかしアンもチェルシーも驚いているようだ。彼女たちにとっても想定外の事態だったのだろう。

「な、何なの……アンタ……!」

「また捕まえちゃうんだから!」

 2人はそれぞれ光の鎖を放つが、ルルはそれを難なく回避する。

 その俊敏な動きは、先ほどまでの彼女とは別人のようだった。


「あはは! すごいすご~い!」

 チェルシーは楽しそうに笑いながらルルに向けて光弾を放つが、それも全て避けられてしまう。

「くっ……!」

 アンも負けじと光の鎖を放とうとするが、その鎖もルルに届く前に切断されてしまう。

「な、なんなのよ……! なんでアンタなんかが私たちの攻撃をかわせるのよ!?」

 2人の攻撃を回避し続けるルルに対して、2人が叫ぶ。


「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね!」

 ルルは凄まじいスピードでチェルシーに接近すると、彼女の腹部に強烈な蹴りを食らわせる。

「がはっ……!」

 チェルシーは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「な、なんなの……アンタ……! 何なのよっ!」

 アンは怒りに任せて光弾を乱射する。ルルはそれを軽々と回避し、さらに彼女の体に蹴りを入れる。

「うぐっ……!」

 地面に叩きつけられたアンだったが、チェルシーと2人で光の鎖を使ってルルの両腕を封じることに成功する。


「あははっ! 調子に乗るからよ!」

「よくもやってくれたよね!」

 2人はルルを睨みつけ、鎖を操って今度はルルを地面を叩きつけようとする。

「ルルちゃん!」

 心配そうに叫ぶエマだったが、ルルはその鎖をそれぞれの手で掴むと、逆にアンとチェルシーを振り回す。

 見た目からは想像もつかないパワーに、アンとチェルシーは驚愕の表情を浮かべる。

「う、嘘でしょ……!」

 2人はルルの力に圧倒され、冷静さを欠いてしまう。

「くっ……このっ!」

 2人の体は宙に浮かび上がり、そのままグルグルと回されたのちに再び地面へと叩きつけられた。

「きゃああああっ!!」

 2人が悲鳴を上げると同時に、ルルを拘束していた鎖も破壊されて消滅する。


 チェルシーは気を失ったのか、地面に倒れ伏したまま動かなくなってしまう。

 アンは地面に膝をついた状態で、巨大な光球を作り出し、ルルに向かって放つ。

「このっ! 存在ごと消し飛ばしてやるっ!」

 その光球の大きさに、さすがのエマも焦りを隠せない。

「ルルちゃんッ! 避けてっ!」

 しかし、ルルは彼女の方を見て安心させるように微笑むと、真正面から光球を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた光球は、誰もいない海の方に落下し爆発する。


「そんな……」

 アンは悔しそうにしながらも、もはや力が残っていないようで地面に倒れてしまう。

「こ……こんな……こんなこと……認め……ない……認めるものですか……。この私たちが……お兄様やお姉様たち……以外に負けるだなんて……」

 アンは地面に伏したままなおも起き上がろうとするが、強い衝撃を受けたことで、体が言うことを聞かないようであり立ち上がれないでいる。

「はぁ……はぁ……ルルちゃん……」

 そんな2人に対してエマは呆然とした様子でいるが、すぐに我に返り、ルルの方へと駆け寄る。

 そして彼女に抱き着く。

「すごいです、ルルちゃん! あんな強さを秘めていたなんて!」


 ルルは、エマの体を優しく抱き返す。

「えへへ……ありがとうエマちゃん。でもまだまだだよ……」

 ルルは静かにそう言うと、自分を睨みつけるアンとすでに気を失っているチェルシーに視線を向ける。

 その表情はとても勝者のそれではない。

(本当は……傷つけずに終わらせたかった……。でも今のルルじゃ……力不足だ。ごめんね……)

 口にこそ出さないが、敵であるアンとチェルシーに対してルルはそう思っていた。

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