第17話「私はマリナ様の盾です ~双子の狂気再び~」
その少し後。
「あはははは! マリナお姉様の奴隷とそのお友達、もっともっと楽しませてよ!」
「無理だよ、アン♪ これだけの光弾の連射に耐えられるわけないじゃん! もうズタボロだよ~」
フォスター家の末娘の双子王女、アンとチェルシーの光弾の嵐にさらされた、エマとルル。
彼女たちの体が一切見えないほど、光弾の光量が辺りを照らす。
「あはは! 光弾の嵐に飲み込まれちゃえ!!」
アンは、さらに光弾の数を増やしていく。
もう彼女たちの姿は光弾で完全に見えなくなってしまっているが、それでも攻撃の手を緩めない。
チェルシーもそれに呼応するように、光の雨を降らせる。
空間ごと焼き尽くすような光の奔流が、荒れ狂う嵐のようにエマたちを襲った。
「あ~あ、もう終わっちゃったかしら……つまらないの~」
「最初から強くし過ぎたんだよ~、もっとゆっくり遊びたかったのにね~」
アンとチェルシーはそう言ってようやく攻撃の手を緩めた。
光が晴れると、2人の姿は跡形もなくなっている……はずだった。
しかし、そこには巨大な土……いや、砂の塊のようなものがあった。
「うん? なにこれ?」
チェルシーが首を傾げるが、アンはフフッと笑みを零す。
「へぇ……あれだけの光弾を凌ぎきるだなんて……。お姉様の奴隷のくせにやるじゃない」
アンが言い終えると、塊は一瞬で砂のように地面に落ちる。
中には無傷のエマとルルの姿があった。
「褒めていただけるのは嬉しいですが、私はマリナ様の奴隷ではありません。私はマリナ様に仕える者、そしてマリナ様の盾です」
エマはアンとチェルシーを見据えながらそう答える。
アンはその言葉に対して不敵な笑みを浮かべる。
少しは楽しめそうだ、と感じたからだ。一方のチェルシーも自分たちの攻撃が防がれたことに一瞬苛立ちつつも、強気なエマを見てアンと同様にまだ憂さ晴らしができることに歓喜するのだった。
「エマちゃん……。す、すごい……!」
ルルもまた、一瞬で自分たちを取り囲んだ光弾の嵐から無傷で防ぎきったエマに驚愕する。
「ルルちゃん、ご無事ですか?」
エマが尋ねると、ルルは頷く。
「うん! あ、ありがとう……!」
「いえ」
エマは短くそう答えると、再びアンたちの方に向き直る。
(あれくらいの攻撃なら問題ない……。だけど、彼女たちは光弾のスペシャリスト。あの程度の攻撃が全力なわけがない。恐らくはさっきの技だって彼女たちにとってはお遊び程度。……攻撃に転じて一気に決めるしか勝ち目は無いかもしれない……。だけど、ルルちゃんを守りながらじゃ……)
エマはルルの方に少し視線を向ける。自分1人であれば防御しながら攻撃を行うことができるが、誰かを守りながらとなると全力を出すことは難しい。
エマが考えを巡らせていると、アンとチェルシーが再び攻撃態勢に入る。
(くっ……。考える時間すら与えてもらえない……! それなら!)
「ルルちゃん、ここは私が1人で残ります。ルルちゃんは、今すぐにここから逃げてくださいっ!」
「えっ……?」
ルルは一瞬何を言われているのかわからなかったが、すぐに我に返る。
「そ、そんな……! エマちゃんを置いて逃げるなんて出来ないよ!」
「このままでは2人ともやられてしまいます! 私は大丈夫です。必ず後から追いつきますから」
2人の会話を聞いていたアンは首を傾げる。
「あれれ~? 誰が逃げるのかしら?」
「あはは! 逃がさないわよ~」
2人は光弾を乱射しながら、エマとルルに攻撃を加える。
再び砂を固めて防御壁を作り出すエマ。
しかし、今度の一撃は辺り一面が閃光に染まるほどの集中砲火だ。
耳をつんざく破裂音と共に、砂壁の表面に無数のひびが走る。
その中で、エマはルルに伝える。
「ここは私に任せて。マリナ様もきっともうすぐ戻って来ます。ルルちゃんは次に光弾が止んで、私がこの防御壁を解除したらすぐに走って逃げて! ルルちゃんへの追撃は私が防ぎます」
「そ、そんな……エマちゃん!」
ルルは不安そうな表情でエマを見るが、彼女は微笑む。
「大丈夫。私は絶対に負けません」
「……っ! わ、わかったよ……! でも、無理しないでね……!」
ルルはそう言うと、アンとチェルシーの攻撃が止んだ瞬間に走ってその場から離れようとする。
「どこに行こうって言うの~?」
「逃げていいなんて言った~?」
光弾がルルに迫るが、それをエマの防御壁が防ぐ。
(よし……ルルちゃんが逃げてくれれば心置きなく戦える。それに、マリナ様が戻ってくれば形勢逆転できるはず)
そんな考えを巡らせるエマだったが、その希望はすぐに打ち砕かれる。
「はぁい♪ 残念でした☆」
アンの楽しそうな声とともに、彼女の放った光弾は一瞬で形を変化させる。
光の矢が空中で蛇のようにくねり、鎖へと形を変えると、ルルの体を拘束する。
「きゃあっ!」
ルルの悲鳴が響き渡った。
「あはは、お姉様の奴隷は知らないのかなぁ? 私たちは兄弟の中でも特に光弾の扱いが上手いんだよ~? 放った光弾の形を自由自在に変化させることができるんだよね~! 防いだと思ったでしょ~? ざ~んねん♪」
チェルシーもエマを嘲笑うように手を叩いて笑う。
(しまった……!)
自分の考えの甘さに、エマは唇を噛む。
それもでも身構える彼女に、アンは残酷に告げる。
「動いちゃダメよ~? 動いたらこの子、死んじゃうんだから」
「っ!」
ルルはアンの放った光弾に縛られている。少しでも動けば、即座に形状を変化させてルルの命を奪うことなど容易いだろう。
「あ、安心してください……! 絶対に守りますから……!」
エマは、絶望的な状況に心臓の鼓動が早くなるが必死に笑顔を作る。自分が不安な表情をすればそれがルルにも伝染してしまうのではないかと感じたからだった。
「エ、エマちゃん……!」
彼女は喉をつまらせながらエマを見る。
そんなエマにチェルシーが言う。
「あれぇ? 奴隷のお姉さぁん……もしかしてこの状況で私たちに勝てるとか思っちゃってる~?」
チェルシーの鋭い指摘に、エマは思わず言葉を詰まらせてしまう。
「あはは! そんなわけないじゃ~ん☆」
「私たち2人を相手にして勝てると思うなんて……バカも休み休み言いなよね~」
アンとチェルシーは、エマを嘲笑う。
「くっ……!」
悔しさから歯噛みするエマ。しかし、そんなエマに対してアンがさらに追い打ちをかける。
「ねぇねぇ、奴隷のお姉さぁん。私たちさぁ、マリナお姉様にこの間やられた仕返しに来たのよねぇ~」
「あはは! でもマリナお姉様はマシューお兄様に取られちゃったから、退屈なんだぁ~。アンタで憂さ晴らしさせてよ」
アンとチェルシーは顔を見合わせて楽しそうに笑っている。
ルルの手は震えており、彼女の精神的な限界は近いようにエマには思えた。
「……ルルちゃんを放してください」
怒りを抑えながら2人に言うエマ。
が、2人は同時に首を傾げ、同じような意地の悪い笑みを浮かべるだけだ。
どうやらルルを人質に、エマのことを一方的にいたぶるつもりらしい。
「ねぇ、チェルシー。あの奴隷のお姉ちゃん、どんな声で鳴くと思う?」
「あはは! きっといい声だよ~? 楽しみ~」
「っ……!」
2人はそう言うと、エマに向けて同時に手を翳す。
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