表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

第13話「開戦 新たなる刺客」

「それじゃあ、ルルとワカヤ・ウシカタとの関係、そしてわたくしたちについて、話し合いますわよ。これから共に行動する者同士、隠し事は無しですわ」


 ルルが仲間になったことで、今持っている情報を全て交換しようということになったのだ。だが、まさにその瞬間——。

 町全体に大きな鐘が鳴り響く。その激しい鳴らし方から、明らかに緊急事態を告げるものだ。


「な、なんでしょう!? この鐘の音!?」

 あわてて窓の外を覗くエマ。マリナとルルも一緒に覗き込む。3人は一瞬言葉を失った……。

 宿の窓から見える水平線の向こうから、頭部だけでも小さな山ほどもある、巨大な蛇のような生物が町に向かってきているのだ。


「シーサーペント……にしては大きすぎますわね」

 マリナの言葉に、2人も頷く。あれだけの大きさとなると、緊急の鐘を鳴らすのも当然のことだろう。だが、ここは帝国の本拠地であるアルセィーマ地方。

 いくら首都から遠く離れた港町といえども、周囲の帝国軍が迅速に対応するだろう。

 そう考えていたマリナたちだったが、帝国軍は反響魔法を使用して町人たちに、今すぐ内陸部の方へと避難するようにと伝える。帝国軍の兵士が海岸備え付けの大砲や魔法で攻撃しているものの、巨大な生物には全くといっていいほど効いていないように見える。

 どうやらこの町にある帝国軍の戦力だけでは、撃退することはおろか、町を守りながら戦うことすら難しいようだ。次第に巨大な生物は、町へと近づいて来る。町の人々は恐怖に駆られ、いよいよ避難を始める。



「さぁ、わたくしたちも避難しますわよ!」

 マリナは窓から離れると、2人に呼びかける。

「え? で、でも帝国軍の人たちと一緒に戦った方が……。ルルたちだって戦えるよ?」

 ルルは帝国軍に加勢すべきだと考えたようだが、マリナは首を横に振る。

「まだきちんと話しておりませんが、わたくしたちはこの地であまり目立つ訳にはいかないんですの」

「そ、それは……。そうなのかもしれないけど……」

 マリナの言葉を聞き、窓の外に視線を戻すルル。帝国軍の兵士たちが懸命に攻撃を続けている。その強大な敵と、それに立ち向かおうとしている帝国軍の兵士たち。そんな光景を見てはいてもたってもいられないのだろう。


 加勢したいという思いがマリナにもないわけではない。しかし、あれだけ大きな敵との戦いではあまりに目立ちすぎる。帝国軍の前で目立つのも問題だが、近くで待ち伏せしており、こちらに対する攻撃の機会を窺っているであろう、アンとチェルシーに見つかる方が厄介だ。

「ルルちゃん。気持ちはわかるけど、ここは逃げましょう。あなたの旅の目的は、ワカヤ・ウシカタを見つけることなんでしょ?」

 エマがルルの肩に手を当てて諭すように言う。

「……うん」

 ルルは小さくうなずいたものの、窓の外で戦う兵士たちを見つめ続けるのだった。そんな彼女の心中は察するに余りある。



 と、その時だった。

 あとわずかで町に上陸しようとしていた巨大な生物に、複数の砲弾が放たれる。それは港からの攻撃ではなく、海上から放たれたものだった。

 砲弾が発射された方角を見てみると、複数の大きな船が近づいて来ている。どうやら、帝国軍の艦隊が援軍に駆け付けたようだ。船から放たれた砲弾の威力は、港に設置されたものよりも強力だったようで、巨大な生物も体勢を崩し、うめき声を上げている。

 そしてすぐに反響魔法で、町中に声が響き渡る。


「遅くなって済まない。市民のみなさんは、兵士の指示に従って一時避難を。大丈夫……。皆さんの大事なこの町は、必ず守り抜く。このワシ、ルーガ・ピウス率いる帝国軍海兵隊第一部隊が来たからには、もう安心だ!」

 その声に町の人たち、そして帝国兵士たちからも大きな歓声が上がる。

「話しているのは帝国軍海兵隊第一部隊の隊長? ビブルスさんが第二部隊の副隊長でしたわね……。ということは……」

 マリナの言葉にエマが頷く。

「ええ、海兵隊のトップが自ら指揮を執っているみたいですね」

 留まることのない大歓声。いかに彼が慕われているのかがよくわかる。



「さ、あの方の言う通り、ここは彼らに任せて避難しますわよ?」

 先ほどのルーガの声を聞いて、ルルも彼らなら大丈夫だと感じていた。

「うん! 行こう!」

 こうして3人は宿を出る。

 町中で帝国軍の兵士たちが、避難誘導や逃げ遅れた人がいないかの確認を行っている。

「そこの3名のお嬢さんたち! こちらです! 誘導に従って避難してください!」

 帝国軍兵士の1人が3人を避難誘導する。

「この道をまっすぐ進んでください。すぐに他の避難者たちに追い付けるはずです」

「わかりましたわ、親切にありがとう」

 3人は彼の言う通り、その道を進み木々が生い茂る場所までたどり着いた。


 歩き続ける3人だったが……。

 マリナが強力な気配を感じると同時に、3人がいた場所に光弾の雨が降り注ぐ。

 間一髪でエマとルルの腕を掴んだマリナが高速移動していたため、3人とも無傷であった。

「……な、なに? どうしの?」

 ルルが突然のことに驚きながらそう漏らす。

「アンとチェルシーに見つかった!?」

 エマが上空を見て叫ぶが、マリナの頭の中には彼女の想像とは別の人物が浮かんでいた。

「この気配……そんな……。……まさか、マシュー?」

 マリナがそう呟くと、近くの木の上から拍手が聞こえてきた。


「ご名答……。さすがマリナ姉さん。素晴らしい直観だね」

 木の上にいたのは美しい顔立ちの少年だった。

 マリナは少年としばらくの間、視線をぶつけ合っていた。が、マリナの方が先に口を開いた。

「お父様は、アンとチェルシーだけじゃ荷が重いと思って、あなたまで送って来たのかしら?」

 マリナの言葉に、少年は笑顔のまま首を横に振る。

「違うよ。別にお父様の命令じゃない。ボクが、久しぶりにマリナ姉さんに会いたかっただけだよ」

 少年は嘘偽りの無さそうな、屈託の無い笑みを浮かべてマリナを見つめている。一方のマリナの表情は一切変わることなく、鋭い視線を少年に向け続けていた。



「マリナ姉さんって……もしかして……?」

 ルルが疑問を口にすると、エマがそれに答える。

「ええ。あの少年の名前は、マシュー・フォスター。最強国家グレイトバースを牛耳るフォスター家の王子であり、マリナ様の弟君なの」

「えぇ!? あ、あの少年がマリナちゃんの!?」

 ルルはマシューとマリナを交互に見比べる。確かに顔立ちや雰囲気はよく似ており、2人とも息を呑むほどの美貌を持っている。だがマリナと異なり、少年の瞳には冷徹なものが宿っているように見えた。


「ねぇ、マリナ姉さん。久しぶりにボクと遊んでよ」

 そう言ってマシューはマリナに左手を差し出す。

「あなたの遊びに付き合っている暇はありませんわ、マシュー。わたくしも忙しいんですの…… "インパクト"!」

 マリナは手から衝撃波を放つと同時に、ルルの手を引いてその場から凄まじいスピードで移動する。エマも少し遅れてではあるが、素早いスピードでマリナたちの後を追う。

(逃げ切ることは不可能……。でもせめて、もう少し開けた場所まで移動して時間稼がないと……。ルルを巻き込んでしまいますわ)

 そう考えたマリナは、エマとルルを両脇に抱えた。


「え!? マリナちゃん、何してるの!?」

 ルルが驚きの声をあげる。そんな彼女にマリナは笑顔を向けた。

「ご安心を。2人ともしっかり掴まっていてくださいませ」

 爆発能力を利用して一気にスピードをあげ、マシューが簡単には追って来られない場所まで移動した。



「ふぅ……。ここまで来れば一旦は安心ですわ。ルル、まだちゃんと説明もしていないうちに、あなたを巻き込んでしまいましたわね……」

 マリナが疲れた様子でルルに謝罪する。だが彼女は首を横に振った。

「もう仲間なんだから、気にしないで? ……ルルの方こそ、突然のことにビックリしちゃって……。何もできなくて、ごめんね……」

 そして、彼女はマリナとエマの手を取り、ギュッと握った。


「マリナちゃん、エマちゃん! 色々聞きたいことはあるけど……。でも今はとにかく逃げよう!」

 ルルの言葉に頷くエマ。しかし、マリナは立ち上がると2人に背を向けた。

「わたくしはここでマシューを迎え撃ちますわ。2人は先に近くの町に避難を」

 エマはその言葉を聞き、辛そうな表情をして俯く。

 一方のルルは、マリナの予想外の言葉に、思わず彼女の服を掴む。

「ダ、ダメだよ! マシューって子は……マリナちゃんの弟なんでしょ!? マリナちゃんは弟と戦うつもりなの!?」


 ルルの言葉を受けて、マリナは真剣な眼差しを向ける。

「ルルが驚くのも無理はありませんわね。でもそうしないと、わたくしたちが殺されるだけ……。フォスター家は、わたくしの抹殺を最優先に命令されておりますの。例え、それが兄弟姉妹であっても容赦は一切してこない」

「マリナちゃん……」

 ルルは、マリナの服から手を離す。


「エマ、後のことはお願いできますわね。ルルを頼みましたわよ?」

 エマは小さくお辞儀をして、

「かしこまりました。マリナ様のお邪魔はいたしません。どうかご無事で……」

 とだけ告げ、ルルと共に走り去っていった。

 マリナはその背中を見送った後、マシューがやって来るのを待つのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ