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第1話「始まりは突然に ~闇に煌めく陽星~」

このエピソードは、「みっしょん!! 第12話」とほぼ同時期のものでストーリーがリンクしています。

「お~ほっほっほっほっ~!! この程度? わたくしを捕らえるために派遣されたグレイトバースの兵士にしては、あまりにだらしがないんじゃなくて? この程度ではわたくしを屈服させる事など到底不可能ですわ! おーっほっほっほっ!!」

 お嬢様、もしくはお姫様と誰もが一目見て分かる服装、口調、口元に手を添えるポーズ。

 その少女、マリナは足元に跪く大勢の兵士たちを前に、上機嫌に高笑いするのだった。


「くそっ……どうして……!? なぜ、我々がここまで圧倒的な力の差を見せつけられているんだ!? こんな馬鹿な話があってたまるか! こいつは失敗作で国を……」

 そう言いかけた1人の兵士は、全て言い終える前に背中をマリナに踏みつけられていた。

 先ほどまで上機嫌に高笑いしていたマリナの眼光は鋭く、その威圧感に兵士たちは恐怖で体がすくみあがる。

「《《失敗作》》? 今……あなたはわたくしの事を失敗作だと罵りましたの?」

 踏みつけられている兵士は、真っ青になった顔で頭を振る。

「い……いや、それは……」

「……やっぱり一般の兵士達の間でも、わたくしは失敗作の出来損ないだったと噂になっているようですわね……」

 その冷たい声に、そのまま殺される覚悟をした兵士だったが……。


 マリナは踏みつけている足を退けると、再び高笑いする。

「おーっほっほっほっ!! 帰ってお父様やお兄様たちに伝えなさい? 兵士じゃなくて兄弟の誰かを送りなさい、ってね。あなた達みたいな兵士じゃ、いくら束になったところでお話になりませんわ!」

 彼女の言葉を聞いた兵士たちは、武器を捨てて我先にと逃げ出す。

 その様子を見て、尚も嬉しそうに高笑いするマリナ。

 だがその笑い声には、どこか悲しみの色が混ざっているようにも見えた。


「……はぁ……お父様も本当にしつこいですわね……。まぁ、いずれ思い知らせてあげますわ! 追放したこのわたくしこそが最強だったということを!!」

 自分に言い聞かせるように宣言すると、彼女は美しい所作で歩き出すのだった。



「マリナ様……。マリナ様……」

 自分を呼ぶ声がしてマリナは、重たい瞼を開ける。

「……ん? ……な、なによぉ……? 寝てるときは、緊急時以外起こさないでって言ったでしょ」

 そう言いながら再び目を閉じ、その声の主に背を向けて二度寝を試みるマリナ。

「それがマリナ様! 行商人がマリナ様の大好きなベリーパイを売っているみたいでして! 買ってきましょうか?」


 ベリーパイという単語を聞いた瞬間、マリナの目はパチリと開いて彼女は飛び起きた。

「ベリーパイ! いつぶりかしら!? エマ、買えるだけ買ってきてちょうだいな!」

 マリナの言葉にその声の主、エマは笑顔でうなずくと部屋を勢いよく出ていく。そしてしばらくしてから、両手いっぱいにベリーパイを持ってエマは帰ってきた。


「ただいま戻りましたマリナ様! どうぞ、お好きなだけお食べください!」

「まぁ!! こんなにたくさんっ!! あぁ……夢のようですわ~」

 マリナは、お姫様のような外見からは想像もつかないスピードでベリーパイを口へと運ぶ。

 その豪快な食べっぷりに、エマは心底嬉しそうに微笑む。


「あ~幸せ……やっぱりこの甘酸っぱい味と香りは最高ね……」

「はぁ~、マリナ様♡ なんと愛らしくも勇ましい食べっぷり——! エマはもう幸せです~!」

 エマの愛の言葉を聞いて、マリナはふふんと得意げに鼻を鳴らす。

「エマ、あなたもお食べなさいな。こんなに美味しいベリーパイをこの辺りで食べられる機会なんて、そうはありませんわよ?」

「えっ! わ、私がいただいてもよろしいんですか!?」

 エマは喜びと驚きの入り混じった表情でマリナを見る。


 そんなエマにマリナは優しく微笑むと……。

「当たり前じゃない! ほらっ、お食べなさいな」

 そう言ってマリナはベリーパイを1つ手に取ると、それをそのままエマに差し出した。

「あぁ……マリナ様~♡ ありがとうございます!! それでは失礼して……」

 そう言うとエマは、差し出されたベリーパイを1口……かぷり、とかじった。

「美味しい~! しかもマリナ様からの手渡しなんて、いいのかしら~! はぁ~幸せ~♡」

 あまりの美味しさ、だけでなくマリナからの優しさを噛みしめ、頬を赤くしながら幸せそうな笑みを浮かべるエマ。


 そんなエマにマリナは、優しく微笑む。

「ほら、まだまだあるからどんどん食べなさいな」

 こうして2人はベリーパイを心行くまで堪能するのだった……。


「ふぅ~、久しぶりにとことん食べましたわね……。流石にお腹が重くて動けませんわ……」

 マリナの部屋で、エマが淹れたお茶を飲みながらお腹をさするマリナ。

 その向かいでエマは、満足そうに微笑んでいる。

「ふふ、大好物のベリーパイを召し上がるマリナ様のお姿、本当に愛らしゅうございました♡ はぁ~尊い♡」

 そんな彼女の様子に少し呆れながらも、彼女が淹れてくれたお茶を啜るマリナ。



「はっ! そういえば!!」

 突然我に返ったようにエマが声を上げる。

「ど、どうしたの? いきなり」

 大声に驚いたマリナの問いかけに答えるように、エマは懐から新聞を取り出した。

「どうやらユーレイドレシア地方で、勇者一行に魔族の王が討たれたみたいなのです!」

「あらそう……。そんな事がねぇ……」

 エマの報告を聞きながら、興味なさそうにお茶を啜るマリナ。


 そんなマリナにエマは、さらに続ける。

「なんでもその勇者一行のうちの1人は『異世界』から召喚されたらしいですよ?」

 エマのその言葉にマリナは目を見開く。

「異世界……ですって? ……そう、それはぜひ戦ってみたいわね」

 マリナはニッコリと微笑むと……。

「ふふっ、決まりね。明日にでも早速ユーレイドレシア地方へ向かいましょう。ここからなら数日で追いつけそうですわね。そいつを倒してお父様や世界に知らしめてあげないとね、わたくしが最強だということを……」


「マリナ様……相変わらず素敵です~♡ 私、どこまでもついていきます!!」

 エマの言葉にさらに微笑むと、マリナは窓の外に見える星々に向かって小さく呟いた。

「待っていらしてね、転生者くん……」




 それから数日の時が流れた。

 ここはユーレイドレシア地方、ウェーラの首都ソフィア。

「えぇ!? 勇者ファブリス一行とワカヤは別の大陸に旅立ったですって!? せっかく長い日数をかけて、移動してきたのにぃ~!」

 冒険者ギルドの受付嬢から聞いた情報に、マリナは大きな声を上げ頭を抱える。


「は、はい……。彼らは数日前に船に乗ってモルディオへと向かったとかで……」

 申し訳なさそうに言う受付嬢だったが、マリナはさして気に留める様子もなく、ため息をつくと……。

「……まぁ、いいでしょう! モルディオならばここからそう遠くないですわ。さぁ、エマ行きますわよ!」

 くるりと踵を返し歩き出すマリナ。


「え、えぇ!? もう行くんですか? せっかくソフィアに来たんですから、もっと観光していきましょうよマリナ様~!!」

 エマの制止にマリナは足を止め、振り返る。

「観光なんてしている暇はなくってよエマ。こうしている間にもワカヤたちは移動しているのだから!」

 その迫力に、仕方ないといった感じでエマはうなずく。

「はぁ~。美味しいシチューにガレット、ピカタなんか食べてみたかったんですが……うぅ……」

 彼女の言葉を聞いたマリナはゴクリと喉を鳴らす。

「ま、まぁ……エマがそこまで言うのであれば……。」

 マリナの言葉にぱぁっと表情が明るくなるエマ。


 コホンと咳払いをしてマリナは続ける。

「そ、そろそろディナーのお時間ですものね~。ターゲットはそう簡単に逃げませんわ! わたくしたちがディナーをいただくときは、彼らも同じ。わたくしたちが眠る時は、彼らもまた同じ! つまり少し休んだところで問題はないのですわ!さぁ! 行きますわよ!」

「は、はいっ!! エマもとても楽しみでございます! たくさん食べましょうね、マリナ様♡」

 こうして2人は、冒険者ギルドを出てレストラン街へと向かうのだった。



「あぁ~! お腹いっぱいです! マリナ様、本当に美味しかったですね~!!」

「えぇ! さすがウェーラの首都、ソフィア! やっぱりこの地方は料理が美味しいですわ~!」

 宿に戻ると、明日に備えて早めに寝ることにした2人。

 シャワーを済ませて、ベッドに入るとすぐにマリナから、すーすーと寝息が聞こえてきた。

 その寝顔を見てエマは微笑むと……。

「あぁ~♡ もう本当に可愛いっ!! この寝姿だけでご飯3杯いけちゃいますよ!!」

 そんな独り言を呟きながら、彼女は枕に顔を埋めて悶えるのだった。


「ぅんん……」

 そんな声と共に、マリナはゆっくりと目を開けた。

 窓の外はすでに明るくなっており、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

「あら……もう朝ですのね……ふあぁ」

 あくびをしながら起き上がると、エマはすでに起きていたようで……。

「おはようございます! マリナ様」

 その声にマリナも笑顔で答えた。

「あらエマ、おはよう」

 マリナはもう一度大きなあくびのあと、伸びをした。

「ん~っ!よく寝ましたわぁ~」

 そんな様子を見て、エマがクスッと笑った。



 準備を終え、町を出た2人は船着き場でモルディオ行きの船を待っていた。

「モルディオ行きの船はまだ来ないのかしらね……。まぁ……こんな小さな港町ですもの、仕方ないですわね」

 マリナがぼやく隣で、エマが黙って水平線の果てを見ている。

「ボーっとして……。エマ、どうかしましたの? もしかして寝不足?」

 マリナがそう声をかけるも、彼女は依然として海の方に視線を向けている。

「……い、いえ……あのさっき一瞬だけ空全体が光りませんでしたか? 気のせいでしょうか……」

 突然そんなことを言われて、マリナはキョトンとした表情になる。

「空が光る? ……う~ん、雷? こんなに晴れてるのに?……」

 そう言われてエマは困った表情を浮かべる。

「そ、そうですよね!ごめんなさいっ!たぶん気のせいです!」

 慌てて謝るエマにマリナは首を傾げる。


 2人がそんな会話をしていると、遠くから船員の声が聞こえてきた。

「モルディオ方面行きの船はこちらです! お乗りの方はお急ぎくださーい!!」

 それを聞いた2人が船に乗り込もうとしたその瞬間だった。

 辺りが一気に暗くなっていく。2人を含むその場にいた全員が上を見上げると、空全体に黒い雲が広がっていた。


「あら……大雨でも降るのかしらね?」

「やだぁ、傘持ってきてないわよ~」

 マリナたちの前に船に乗り込もうとしていた婦人たちが空を見て、ため息をこぼす。

 空はさらに暗くなっていく。だが……。

 それは天気が悪いというよりも、まるで夜に逆戻りしたかのような暗さだった。


「なんだか不気味ですね……」

 エマがそう呟いたころには、辺りは夜を通り越してまるで闇の中に引きずり込まれたかのような暗黒に包まれる。

 目の前は黒一色。

 生まれつき特殊なマリナには辛うじて周りが見えているが、周りの一般人たちは急に目が見えなくなった感覚だろう。


 阿鼻叫喚の悲鳴が辺りに響き渡る。

「な、なんですの……これ?」

 マリナですらさすがに驚きを隠せない。



 と、次の瞬間。空が一気に真っ赤に燃え上がったように煌めく。

 そして遠くの水平線で、遥か上空から海面に赤い光が次々と落下していくのが見えた。

 その数は尋常ではなく、まるでこの世の終わりを見ているかのようだ。

 驚きのあまり固まっていたマリナだったが、あの場に圧倒的な存在がいる気配を感じ、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 そして自らもその場へ向かおうと、力を溜めはじめた。


 そのことに気付いたエマは必死の形相で、彼女を引き留める。

「ま、待ってください! マリナ様!! 一体何をなさる気ですか!!」

 その言葉にマリナは、不敵な笑みを浮かべた。

「何って……あの赤い光の正体を確かめ、倒してやりに行くのですわ」

 エマは彼女の手を握りしめる。

「危険です! いくらマリナ様と言えど、あんな高エネルギー体の近くに行けばどうなるか分かりません!」


 必死に説得しようとするエマだったが、彼女は聞く耳を持たなかった。

「ふんっ……仮にそうだったとしても関係ありませんわ! わたくしは最強を目指す者。ならばいずれあの存在とも戦うことになるはず……遅かれ早かれね!」

 そう言ってマリナはエマの手を振り払うと、遥か上空に浮かぶ赤い光に向かって飛び立った。

「お、お待ちくださいっ! マリナ様ーっ!!」

 そんなエマの叫び声を無視し、水平線の彼方を目指そうとするマリナだったが……。


 ふと思いとどまる。

(ここから目視で見えるということは、あの無数の赤い光、1つ1つが相当大きいということになりますわ……。それに……まだまだ降って来ている……。あんな場所に飛び込むのは……自殺行為ですわ)

「くっ——!」

 あの存在に自分は勝てない、という屈辱感から唇を噛む。


 そして、次の瞬間だった。

 闇に飲まれながらも顔を出している太陽だと思っていた、ひと際強く輝く光が凄まじいスピードで移動したかと思うと、空中で大爆発が起きた。

 その爆発の衝撃は途轍もなく、マリナたちがいる場所にまで大波が押し寄せた。


「きゃああああ!!」

 波に飲まれそうになる、乗船を待っていた客たちだったが、間一髪のところでマリナが両手から衝撃波を放ち、波を押し留める。

「こんなところまで大きな波が——!!」

 程なくして波は落ち着き、ゆっくりと空を覆う暗雲は晴れていった。

「も、申し訳ありません! マリナ様! 私がお守りすべきところを……」

「いえ……それよりも……何が起きたというの?」

 2人はただ静かに海を眺めていた。



 結局、モルディオ行きの船はその日欠航となってしまった。

「まぁ、仕方ありませんわね……。それにしてもあんな現象、わたくし聞いたことありませんわ……」

 マリナの言葉にエマもうなずく。

「えぇ……私もあんなの初めて見ました……」

 その後、2人は仕方なく町に戻り宿に泊まることになった。


 翌日の新聞や町の話題は、昨日の件で持ち切りだった。

「なんでも、赤い光の正体は隕石らしいよ」

「えぇ!? 隕石って……あの隕石?」

「そうさ! あんなもの町に落ちたらひとたまりもないよ!」

 そんな会話を聞きながら、マリナはあの光に怖気づいてしまった昨日の自分に腹を立てた。

「まったく……わたくしとしたことが情けないですわ!」

 そんなマリナを見てエマはため息をつく。

「もう……またそのようなことを……」


 そんな時……町の中央広場に人だかりができているのが見えた。

「何かしら?」

 2人はその人だかりへ向かっていく。

「どいたどいたっ! 見世物じゃないんだ!」

「彼らを急いで休ませる必要があるんです! みなさん、どいてください」

 大きな声を上げているのは、モルディオの兵士と治癒魔術師たちだ。

 彼らは人々を押しのけて何かを運んでいる。それは横になって目を閉じている、何人もの人間だった。

 布で覆われてあまり見えなかったが、彼らのほとんどが身体中に酷い火傷を負っているようだ。

 昨日の赤い光の近くにいた被害者たちであろうことは、容易に想像できる。



「まさか魔王を倒した勇者ファブリス一行が、あの赤い光の近くにいたなんてね……」

 マリナは号外新聞の記事を読みながら、そんなことを呟いていた。

「でも死傷者の中に、ワカヤの名前はなかった。行方不明にでもなったのかしら?」

 マリナのつぶやきを聞いていたエマも新聞を覗き込んできた。


「そうみたいですね。その後、彼の姿を見た人はいないようですし……。勇者一行が回復したら、詳しいことがわかるかもしれませんね」

 エマの言葉通り、勇者一行が回復次第、状況の聞き取り調査を開始すると新聞の端の方に書かれていた。

 運び込まれていた人たちの中に、ファブリス一行がいたのだろう。

 その記事を読み終えたマリナは新聞をテーブルに置き、新聞に掲載されている勇者一行の絵を眺める。


「あの赤い光について早く情報が欲しいですわ。それに……勇者一行とワカヤ、その強さがどれほどのものか早く見てみたいですわね」

 マリナは、またもや不敵に微笑むのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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