うちのメイド長はヘビースモーカー 7話
あれ、私何を話してたっけ。
昨日、そういえば私はサウナに入っていた。
そこから…偶然さやかと話して…記憶が曖昧だ。
見慣れた天井はと…すこしかぐわしい香りのする畳、そして部屋に置かれているいくつかのビール缶。
そして、サウナで疲れた体ごと空っぽになった私と床にぐっすりと眠るさやかが居た。
サウナによって優位になった副交感神経は…体に気だるさとリラックスを朝まで継続させてくれた。
私は家に帰ってもXをブログのように発信したり……返信に追われていたので家に帰っても休んでるようで休めていなかった。
私は、どうにも休むのが苦手だ。
たまに…また舞衣ちゃんを誘ってもいいのかもしれない。
「んー?ことねえおはよう〜。」
「おはようさやか。あなた、いくつになってもどこにでも寝れるのね。」
「まあねえ〜えへへ〜。とりあえず…迎え酒〜。」
さやかは朝一番だと言うのにいつの間に購入していた鬼ころしを1杯飲んでいた。
彼女は体が驚く程に細い。150cmくらいなのに体重50kgもなさそえなほどほっそりとしていた。
「ねえ、ことねえのちゃぶ台使っていい?」
「いいわよ。」
私は、ベランダでアウトドア用のチェアを広げて、灰皿とタバコを吸う。
朝の日差しとともに…タバコの煙が美味しい。
私たちは…朝から不健康な嗜好品に快楽を委ねていた。
さやかは…バッグから原稿と万年筆を走らせていた。
「あはは…本当に小説家なんだね。」
万年筆も懐かしい…私が彼女の誕生日プレゼントに2000円の万年筆をプレゼントしたのだが…まだ使っていた。ステンレスでてきてる…とっても使いにくい万年筆。
「あなた…高いものとかは買わないの?先端が金の方がしなって書きやすいって聞くわ。」
「んー、これがいい。」
彼女はそういうと、また鬼ころしを飲む。
彼女は案外酒が弱いというのに酒を飲み続ける。
酔いが回る度に筆の速さは加速していった。
彼女は……汚れたけど強く成長をしたようだった。
まるでビンテージ物のジーンズのように、色あせたからこその価値があるのだ。
それを見ながら吸うセブンスターは…なんとも美味い。
私は普段は仕事ギリギリまで寝てると言うのに…朝早く起きるというのはこんなに素晴らしいものなのだろう。
気がついたら…1時間が経っていた。
「ふぅ〜。」
「え、もう終わり?」
彼女は1時間ピッタリだと言うのに…書くのをやめてしまった。
「書き終わったの?」
「んーん、途中!たまに8時間とかぶっ通しで書くことはあるけど…普段は1日1時間と決めてるの!コツコツと…日常を楽しむから感性がアップデートされていい作品がかけるんだ〜!」
確かに、彼女の言うことには一理ある。
私も1人のご主人様というより、いくつものご主人様にちょっとずつ信用を重ねてるからこそ今の人気がある。
内容は違えどコツコツやるという本質は同じだ。
「あなた…そういえばなんで金がないのよ。」
「あのね、個人事業主は…収入が安定しないのよ…。そして、税金は前年の収入を参考にしているわけだからベストセラーを売った後に売れないと…鬼のような税金がかかってきて…。」
「あ〜なるほど。」
彼女は金遣いが荒い。
恐らく確定申告とか経費とかは乱雑な傾向にあるので、収入だけを参照にした税金にお金を取られたのかと納得してしまった。
「今はスランプ?」
「うん!ぶっちゃけね!」
「でも書くんだ。」
「んー、なんというか…もう習慣になってるからやる気とかじゃない。」
「…理解できないな。私、そういう積み上げ型じゃないから。」
「ほら、食べ物を食べたら歯を磨くでしょ?なんでだと思う?」
「磨かないと気持ち悪いからね。」
「ご名答!私にとって書くことはそれなのよ。」
「つまり、書かない日が、気持ち悪いと。」
「ピンポーン!さっすがことねえ!筋がいいよ〜!」
さやかは万年筆をくるくるとさせている。
彼女はどこまでも小説家だった。
私は……昨日の話を踏まえて考える。
メイド喫茶をやりたい。まずは問題として資金不足が懸念される。
正社員とかの履歴もないし、源泉徴収票を見せても融資は数百万程度である。
私はどこまでも社会弱者である。
さて、どうしたものか…今日はメイド喫茶はお休みである。
予定もなければ…やりたいことも特にない。
「さやか、少し散歩に行かない?」
「もちろん!」
さやかは快く…私の誘いを受けてくれた。
この子となら…何かが見えてきそうだった。
☆☆
私たちは、何となく街を歩く。
都会の喧騒と…暑さで頭がやられそうだった。
休みの日にやりたい事なんて特にない。
だからこそ、歩くのだけれど。
気がついたら、浅草という街に出ていた。
東京の中でもレトロかつ観光としてはメジャーな街である。
634m…通称ムサシの高さを持つスカイツリー、滝廉太郎の歌にも登場をふる隅田川。
「ねえ、あの建物の金色で浮かんでるのって…うんこだよね。」
大勢の前だというのに、突然さやかがそんなことを言い出した。
「うん、あれはうんこだ。」
「やめなさい、あれは聖火台の炎を表してるみたいよ。うんこじゃないわ。」
「へー!なんで炎じゃなくてあんなうんこみたいなんだろうね。」
「ちょっと!?もううんこっていうのやめなさいよ!?」
「………うんこ!」
「……あんた、言いたいだけじゃないの!」
ザワザワ…
そんなうんこを連呼する私たちを尻目に…周りの人達はザワついて腫れ物をみているようだった。
アラサーだと言うのに…年甲斐も無いことを言ってしまった。
「少し…移動しましょう。」
「そうね。」
隅田川の上の橋を歩く私たち。
夏というのはどこまでも私たちを焼き付けてくるのだが、隅田川の上にいる時は…どこか潮の香りが混ざったような…そんな塩っからさが私たちの体を一瞬だけ涼しくさせてくれていた。




