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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー
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うちのメイド長はヘビースモーカー 2話

休憩が終わり…

私はタバコの吸殻を捨てて職場に戻る。


休憩は30分を2回取る形式となる。

最初はタバコを吸うことにして、次に食事をする。


タバコは美味しいけど、食べ物を食べて美味しいという感覚は無い。

ただのカロリー補給としか考えてない。

そう考えると、甘いとか辛いとか…そんな感覚が薄れていったのだ。


ちなみに言うと私は空腹時の方がパフォーマンスが高かったりする。

お腹が空くとイライラしてそれが逆に頭が冴えたりして、その結果今の人気に繋がるのも秘訣の一つだ。


「戻りました。」

「ことねさん!おかえりなさい!」


舞衣ちゃんが店を守っててくれたみたいだけどどうにも粗が沢山見えてしまう。

チェキが終わったらお会計をしてご退店頂くのが普段の流れなのだけれど、伝票が整理されてないからほかの女の子からみて今どんな状況なのかがわからない。


それに、急いで掃除をしたのかテーブルの上が少し汚く感じてしまう。


フードも…作ってからお出しするのに時間がかかって冷めてしまっている。


私には…メイド喫茶のそんな声が聞こえてくる。


「結構大変だった?」

「そ…そうなんですよ!急にお店が回らなくなって!いま結構バタバタしてます!」

「…任せて。」


私はまずバックヤードの人間に冷めたフードを1分だけレンジでチンしてもらうように支持をした後に、

伝票を整理する。


終わったタスクにはチェックをして、入店順に整理をする。


その後は、ご主人様にコミュニケーションを取りながら、飲み終わったジュースなどを片付けて、1回通る度に最低2つの仕事をしていたら、ものの3分で落ち着いてしまった。


そして、食べ物も暖かく最高に美味しい状態でご主人様にお出ししてみると、とても美味しそうに召し上がっていた。


「すごい…魔法みたい。」


舞衣ちゃんはうっとりしている。

私はもう10年近くやっているから、最適化されているのかも知れない。


「舞衣ちゃんは、ご主人様への対応は素晴らしいわ。敢えて改善点をあげるとしたら、伝票を分かりやすくしてみんなの協力を得るといいかも。後は仕事の移動が無駄に多いから、あそこに行くついでにテーブルを吹く、下げ物をする、他のメイドさんに声掛けをしたりお願いする。ここをやるとお店はより良く回すことが出来るわ。」

「あ…ありがとうございます!」

「期待してるわ。」


ぶっちゃけ人には期待してないけど、期待しているという言葉を与えるだけで人は頑張りたくなるものだ。


私は、メイドであると同時に中間管理職のようなものにもなっていた。

実態は、メイド喫茶のアルバイトなんだけどね。


その後も一通りご主人様が途絶えることはなく、一日はあっという間に過ぎてしまった。


☆☆


「お疲れ様でしたー!」

「うん、お疲れ様。」


他の子が徐々に着替えを終えて店を出る。

今日の売上も絶好調、さすがは東京である。

固定客も一日に10回もリピートしてくれたおかげで今日も私の完璧な一日は終わろうとした。


ああ、最高。

そろそろニコチン摂取したくなってきたけど。


そろそろ私も店を出ようとすると、まだ1人残っていた。


「あら、舞衣ちゃん。」


そう、先程から私を慕ってくれる可愛い後輩の舞衣ちゃんである。忘れ物かな?


「ことねさん…今日よかったら一緒にご飯どうですか?」


なんと、お食事のお誘いである。

私としてはニコチン吸いたい気持ちはあるのだけど、こうしてメイドさんのケアもしなきゃという気持ちがある。


「わかったわ…、少し離れたところでも大丈夫?今日は少し美味しいものでも食べに行きましょ!」

「え!いいんですか!私も出しますよ。」

「いいのよ、ここは先輩の私に肩を持たせてよ。」


私は、そんな素敵な先輩を演じる。

しかし、タバコが吸いたい。

今は上手く演じてるけど…慢性的なニコチン中毒の私にとってはガタが来てしまいそうだった。


☆☆


秋葉原は知名度とプライベートの観点で見送りたいので私は赤坂見附のオイスターバーに行ってみることにした。


赤坂見附はビジネス街と、繁華街が混ざったようなところで私のご主人様は比較的少ない。

どうにも有名になると、そういった肩身の狭い暮らしになってしまうのがどうにもくたびれてしまう。


「私!港区でご飯なんて初めてです!」


舞衣ちゃんはウキウキしている。

新しいドッグランを見つけた犬のようでもあった。


「あれ、舞衣ちゃん…今いくつ?」

「17です!」

「おっと…めっちゃ20歳くらいだと思ったわ。」


しまった。軽く飲みに行くつもりだったが、相手は未成年…増してや高校生である。


「そういえば、ことねさんは…?」

「28、もうババアよ。」

「ばば!?いえいえ…めちゃくちゃ綺麗なお姉さんじゃないですか!まだまだこれからですよ!」


舞衣ちゃんはそう言ってくれる。

とはいえ…28というのは婚礼適齢期、親にもいい人はいないの?とかそういった声も会う度に言われてしまう。


結婚すべき、正社員であるべき…日本にはそんなしみったれた同調圧力しかない。


「ごめん、今回オイスターバーでもいい?健全な時間に解散するようにするから。」

「もちろん!」


私は、オイスターバーに入る。

そこには氷が敷き詰められたところに牡蠣が沢山並んでいる。


お店は木を基調とした少しレトロな雰囲気を出していて、海の近くのお店のようだった。


「いらっしゃいませ、ことねさん。」

「松澤さん!ご無沙汰しています。」


ここの店長の松澤さんだ。

今日もスーツを着こなし、縁の薄い眼鏡をつけていて清潔感もありダンディだった。


「お友達ですか?」

「んーん、同僚よ。ちなみに未成年だからノンアルカクテルをおねがいするわ。」

「承知しました。ことねさんは?」

「んー、牡蠣だから…シャルドネワインの少し樽の香りがするものをお願い。」

「承知しました。牡蠣はおまかせでいいですよね。」

「ええ、それでお願い。」


この店は月に1回ほど行くのが私の日課である。

普段栄養が偏っているのでマンネリ防止のためである。

あとは、ここの店長はメイドと分かっても真摯に対応してくれるので楽なのもある。


「すごい…大人の女性って感じでかっこいいです!」


そんな私とは裏腹に…舞衣ちゃんは私を羨望の眼差しで見つめている。

どうしよう、憧れは理解に最も遠い感情だと好きなアニメの中ボスが言ってた気がする。


「最近どう?慣れた?」


この子は入ってもう半年ほどになる。

SNSでも丁寧にファンに対応をしているし、見込みはありそうな感じではある。


「はい!最初は虐められたり、掲示板の悪口とか気にしてましたけど…プライベートが充実したのもあって気にならなくなりました!」

「そう…素敵な事ね。」


その時に飲み物が出される。

私は白ワイン、舞衣ちゃんは柑橘系のノンアルカクテルだ。


「乾杯!」

「か…乾杯!」


彼女は慣れない手つきで乾杯をする。


グラスの縁が私より高かったので失礼をしているのだが、きっとそれにも気づけていないと思う。

だが、少しずつ覚えればいいと直ぐに忘れてしまう。


「ことねさんは…掲示板の悪口とか見ないんですか?」

「んー、たまに見たりする事もあるけど…気にはならないわ。」

「凄いですね!やっぱことねさんレベルになるとそういったアンチも受け入れられるんですね。」


全く違う、私はそうやって妬みをするメイドの書き込みやご主人様からの見下された文章を見て、この残酷さや醜さこそ人間らしさなのだと思って楽しんでしまうのでかなり私を色眼鏡で見ているのかもしれない。


「まあ…そんな所ね。いちいち相手にして反応するのもめんどくさいってのもあるけど。」

「そうなんですね……。あれ、メイド以外の仕事とかは考えたりしてるんですか?あとは…結婚とか。」


私の鋼のメンタルは秒で崩壊してしまった。


「ぐ…ぐふっ…ま…まあ…おいおいね。」

「なんか…ごめんなさい。」


純粋な疑問は時折人にダメージを与えてしまう。

私は、そんな苦しみごと白ワインを喉に流し込んだ。


それと同時に、牡蠣が松澤さんから差し出される。

「お待たせしました。こちら…九州の唐津湾という所から取れた塩気が強い牡蠣、そして、広島の牡蠣、最後に五島列島から取れた岩牡蠣です。」


私たちのテーブルにガラス皿が氷を敷き詰められて差し出される。

私たちはそれをちゅるんと飲み込む。

牡蠣から出る海の香りと濃厚かつクリーミーな味わいが口の中に広がる。


美味しい…月に1回のそんな感情。

タバコを吸う時と同じくらい幸せになるのだ。


気分がいいから少し…この子に私の話をしてみよう。


「私はね…就職しないわ…出来ないの。」

「出来ない?」

「私は、メイド喫茶のメイドが天職だったの。それ以外の仕事だとどうにも気が狂いそうになってダメだったの…。ほんと…それだけよ。」

「じゃあ…ことねさんは根っからのプロだったんですね!私も…メイド以外のことねさんは想像できません!」


想像以外の言葉に面食らってしまった。

こんな私をポジティブに、受け止めてくれたのははじめてだった。


もう少し試してみよう。


「結婚願望はないわ…もちろん恋愛感情もない。

28年間恋人がいたことすらもなかったわ。

でも、ご主人様への愛だけはもっている。そんな私は…どう思う?」


彼女は、牡蠣をちゅるんと口に入れ…いつの間に注文されたフィッシュアンドチップスやワタリガニのパスタを口に運び、グイッとノンアルカクテルを飲み込むと…はっきりと言った。


「それがことねさんにとっての幸せなら…それでいいと思います!幸せは人それぞれだから比べて不幸になる必要はありません!私は逆にことねさんよりももってないことが多いのですから!」


ああ、この子は本当にいい子なのかもしれない。

基本的にメイドさんは物は隠したり壊したり掲示板で悪口を書くものだと思ったけど…この子はいい子だ。


妙に口に運ぶワインの風味が美味しく感じるのは…きっとワインだけじゃないだろう。


たまには人と触れ合うのも幸せなのかもしれない。


そんな感じで談笑をすると…気がついたら21時をすぎていた。


「そろそろ…帰りましょ。」

「はい!」


私たちは、オイスターバーを後にした。

そろそろ…ニコチンがきれそうで少し我慢の限界だった。


繁華街は勢いをまし、これからキャバクラに行こうとする会社員や…バーにいくOLがいてここはオフィス街のオアシスなのだと感じた。


人の流れが留まることがなく…川のように流れている。


「こ…ことねさん!」


目の前に舞衣ちゃんが恐れおののいた表情でこっちを見ていた。


気がつくと、私はセブンスターを手に取りライターの準備をしていた。


もう…耐えられない。


「すううううううううう……はああああ。」


仕事が円滑に進む、酒や食べ物の美味しさ、承認欲求が満たされる…そんなものとは比べ物にならないほどの快感が全身を巡る。


そう、この感覚を求めていた。

砂漠で長時間歩いた後に水を初めて飲むような…そんな快感だった。


「…ごめん、私はそんなにできた人間じゃないから…。」


普段絶対見せない面を初めて見た舞衣ちゃんは…失望したのだろうか。

それはそれで仕方がないことだ。

私はもっと…いい加減な人間なのだから。


「ことねさん、タバコ吸うんですね!ギャップとかっこよさに見とれてました!…でも、タバコは喫煙所で吸いましょう!」


私は、夢のない人間だ。

そんな私に…小さな理解者が初めて出来た瞬間だった。

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