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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー
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うちのメイド長はヘビースモーカー 1話

チリリリーン


「ご主人様のご帰宅です。」

「「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」」


一人の男が慣れた動きで店に入店をする。

年齢は50近くの男性、仕事は確かIT系の仕事をしている。

結婚はしていないとの事だ。


ちなみに、彼は13年通い続け、ざっと計算しても四千回以上、私に会いに来ている。


「ふっ……ここは変わらないね〜。」

「ご主人様!メニューは何にされますか?」


人気メイドの舞衣ちゃんが代わりに接客をしてくれる。

この子は最初は虐められていたけど、何らかのきっかけで乗り越えてからイキイキと仕事をしている。


珍しい、メイド喫茶を10年と4ヶ月働き続けた私にとってはいじめの対象になった子は物を盗まれたり、掲示板である事ないこと書かされて辞める子飛ぶ子なんてザラにいる。


「もちろん……ドリンクセットでアイスコーヒー、チェキは……ことねちゃんで。」

「おお!やっくんご主人様〜今日もことねさんに会いに来たんですね〜。」

「もちろんさ!あ……でも舞衣ちゃんも素敵だから舞衣ちゃんとのチェキもお願いしてもいいよ。」

「もう〜やっくんご主人様はDD(誰でも大好き)なんだから!」


やっくんご主人様はとにかくお店の為に貢献してくれる。人気の独占よりも売上を気にしなきゃ行けない。


私は神宮寺ことね、28歳。

このメイド喫茶で1番人気のメイド長である。


今は私の撮ったチェキにお絵描きをしていてその作業に追われつつ、伝票管理で手が離せなかった。


メイド長という役職故に秋葉原にある店舗を日毎に変えなきゃいけない。


メイド長として、各店の売上や雰囲気を見て回るのも私の仕事のうちだ。


そして、私が出勤する店舗は開店して30分足らずで満席になってしまうのだ。


「やっくん〜!お待たせ〜!チェキ撮ろ!」

「ふふふ……今日も君は美しいな。スタイルも最高だ。」


仕事じゃなければセクハラまがいの言葉をくれるのだが、私はどうにも仕事中はお客様を動物園の動物のように人間観察をする。


チェキを撮る時にぼんやりと……店舗を見る。


非日常を与える側のはずの私が、逆に彼らの滑稽な“人間臭さ”という非日常を味わっている。それが私にとっての中毒だった。


例えば、何故かメイド喫茶でパソコンで作業をしてる男がいる。

彼は特にコードも書けないし、PCのスキルは皆無なのだがかまって欲しいからああやってアピールをしている。


他にも、難しい本を読んでいる青年がいる。

彼のXをたまたま見て見たのだが、実は活字は読めないのでこれもアピールだ。


奥の席では……あまり上手では無いメイクをした男性が居る。

大学デビューをしようと言う一環でメイクをしてメイドにアピールをして褒めてもらうためである。


このように、メイド側が奇怪な様子を体験させてくれるのだ。だからこそ、私はメイド喫茶が好きだ。


彼らは一貫して1つのニーズを示してくれる。

それは、承認してもらうということである。


パシャリ。

人間観察を終えると私の姿が撮られていく。

そうだった、今はチェキの最中だった。

同じ事を繰り返すとルーティン化されるので、次の優先順位が高そうな作業など考えてしまう。


昔は一人一人に前頭葉が全面に働いて疲れたのだが、今は小脳だけで一連の動きをこなして喜ばしてしまう。


人の体はよく出来ている。


「いや〜ことねは今日も最高だったよ。」

「やっくん〜!いつもありがとう〜!これから仕事?」

「もちろん!私は営業部長なのだが、外回りと言っておかないと行く時間が無いからね。」

「えー!大丈夫なの?仕事!」

「大丈夫、仕事っていうのは成果が出ればサボっていいもんなのだよ。営業マンはパチンコをしたり昼寝したりするのが仕事だからね。」


そう言いながら、やっくんはドヤ顔でお店を出ていった。

一般的にはあまり評価されるべきでは無い人物かもしれないが、お店に貢献してくれるので私は最大限の敬意を払う。


そして、私は次の行動に出る。

他の子はそんなご主人様を仕事の忙しさで放置してるが、私はそこを見逃さない。


「お兄さん!パソコン使えるなんてすごいね!」

「えっ……あ……!」

「知的で素敵だと思います。よく触るんですか?」

「そ……その……ブログを書いてるんですよ。」

「えー!Xで公開してます?みてみたい!」

「あ……じゃあことねさん、フォローさせていただきます。あと、チェキお願いしてもいいですか?」

「もちろん!」


私はハンディーのiPhoneをつかって素早く伝票を出す。

次に……本を読んでる彼だ。


「お兄さん!難しい本読むんですね!」

「あ……ことねさん。」

「え!私の事知ってるんですか!?」

「知ってるも何も……人気投票1番でしたもん。グッズ買ってしまいましたよ。」

「えー!隠れファン様だったんですね!?」

「そ……そりゃあ……綺麗ですし、気になってはいました。」

「えー!もっとXでコメントしてくださいよ〜。なんなら、撮影会とかもきてもいいんですよ!ちなみに私読書しますよ〜!今度感想交換しましょうよ。」

「じゃ……じゃあ、今度撮影会参加しますね。」

「ありがとうございます!」


他の子はXを頑張っているのだが、正直結果を出すのなら日々の業務にこだわるべきだ。

最近の子はドリンクを作るとか、テーブルの下げ物ばかりを見ている。

作業は手早く済まして、空いた時間をこう言ったことに割くべきである。


最後に……ホスト風の青年か。


「お兄さん!メイク素敵ですね。」

「お!?ことね様がおいでなすったか〜お目が高い。」

「お兄さんホストですか?」

「いやいや、普通の大学生です。地下アイドルたちも俺の事褒めてくれるんでね。今日も配信でもしようかなって思ってます。」

「地下アイドルさんの事とか話すんですか?」

「もちろんっすよ。誰が可愛いとか、チェキとか触れ合いが楽しいとか言いますね。」

「じゃあ……私とはチェキどうです?」

「え?いいんすか?めっちゃレビュー言っちゃいますよ。」

「もちろん。じゃあお互い美男美女ということでパーフェクトに移りましょ。」

「おおおおおお!」


正直、仕事というのは広報活動をするよりも、こうやって目の前の人を満足させてから勝手に口コミをしてくれるのでこう言ったご主人様を満足させるのは人気と売上を狙うなら必須である。


可愛いだけじゃダメ、承認欲求というグラスにシャンパンを注いであげないと人気は出ないからだ。


「ことねさん!」

「舞衣ちゃん。どうしたの?」

「そろそろ休憩行かれてはどうですか?もうぶっ通しで5時間は働いてますよね。客足も減りましたし。」

「そうね……、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。休憩いただきます。」

「行ってらっしゃい!」


私は駆け足気味に秋葉原の喫煙所に駆け寄る。

ちなみに喫煙所に行く時は自分だと分からないように少し変装をする。

なんせ、看板とかプロモーションビデオ、ダンスなどで私の顔は秋葉原に芸能人みたいに飾られてるので、タバコを吸ってるとイメージダウンになりかねないからだ。


そして、お気に入りのセブンスターのタバコを肺に送り込む。

ああ……幸せだ。

私の体はメイド喫茶の水と、賄いと、タバコの煙で出来ている。それだけ私はメイド喫茶にいることで人間であることを強く感じていた。


セブンスターの煙を肺に掛けめぐらせ、ドーパミンのような快楽が全身を駆け巡る。

心地よい、さっきまで体を酷使していたからニコチンが優しく私を抱きしめてくれるようだった。


私は、神宮寺ことね。

メイド喫茶のメイド長で……タバコを吸う事とメイド人間として生きることで自我を保つことの出来るそんなどこにでもいるようで、少し変わった人間。


夢を見せる側が夢を持たない。それが、うちのメイド長という生き方。


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