瑞希と彩奈のオタ活サマー 7話
ここは東京の某ホテルのラウンジ。
今日のメインイベントである。
私たちはチーズアフターヌーンティーを食べに私たちはホテルのラウンジにいた。
「あわわ……ホテルなんて初めて。」
どうやら、瑞希ちゃんは高級感に圧倒されている。
パッと見はあなたもその雰囲気になじめる所まで垢抜けたんだけどね。
「大丈夫よ!素敵なアフターヌーンティーがある訳だし……チーズいっぱい食べれるわよ!」
「……チーズ!」
瑞希ちゃんはチーズという単語で耳をぴくんと立てて、無いはずの尻尾が生えて左右に振っているのを感じる。
やはり、彼女は前世は子犬な気がする。
そんなことを思いながら、ホテルのビルのエレベーターを上り、フロントを過ぎてラウンジに到着する。
「うわあ〜!めっちゃ景色綺麗!」
「カーペットもフカフカで……ソファーもラグジュアリーね!」
さすがはホテル。
内装もシンプルながら洗練されていて、白を基調とした内装だけど、観葉植物の配置や椅子の位置が一糸乱れぬほどに揃っている。
これだけでも期待値は上昇してしまう。
そして、支配人らしき黒服の男が礼儀正しく程よい距離感で話しかけてきた。
「川崎様、本日は当ラウンジをご利用頂きありがとうございます。私支配人の亀谷と申します。」
男は背筋を伸ばし、きれいなお辞儀をしていた。
支配人とはいえ、こういったサービスのお仕事にも一切手を抜かないという気持ちが伝わってきて、緊張感も伝わってきた。
「それではご説明致します。本日は予約のアフターヌーンティーを15分掛けてお出し致します。こちらは最初のアミューズのスプーンアペタイザーのチーズとトマト、そしてバジルを添えたカプレーゼでございます。」
「あの……アミューズって……?」
「ああ、失礼致しました。例えば居酒屋とかでいうお通しのようなものです。料理を運ぶまでに1口食べて貰いながら待ち時間を楽しんでいただくんですよ。」
「ほぇ〜、そんな意味が。」
男は丁寧に分かりやすくこの食べ物の意味を説明してくれた。
落ち着きと気品に溢れるが……どこか安心感も与えている所は流石プロとの言葉に尽きる。
「こちら、コーヒーか紅茶は飲み放題です。ウェイターを呼んで頂ければご用意致します。」
「……(ボソッ)ドリンクバーなんて概念がない……!?」
瑞希ちゃんにとってドリンクバーがない事が余程衝撃的だったようだ。
一つ一つの事に凄まじいリアクションを取る瑞希ちゃんを眺めるのはなんとも楽しいものだ。
とても可愛くて、ずっと見ていられる。
私は何回かアフターヌーンティーは経験してるのでそこまで抵抗感はなかった。
今日はかなり上品な方だけど、瑞希ちゃんもドレスアップしてあるし、雰囲気は負けてないはずだ。
「それでは、心ゆくまでお楽しみください。」
支配人の亀谷さんは一例をすると、ゆっくりとした足取りでサービスカウンターについては、お酒をシェイキングしていた。
そっか、ここバーも兼ねてるのかな。
いつか大人になったらカクテルを飲んでみたいものである。
さて、このスプーンに乗ったカプレーゼを食べる。
モッツァレラチーズはもう現代の日本にとっては馴染み深いものだと思い、1口運んだ。
「うまい!?」
「これはあたりね!」
私たちは驚愕した。
モッツァレラチーズは普段は固くて弾力があるのだが、このチーズは柔らかく、中まで塩味と酸味が入り込んでいて、噛むと旨みが溢れてくる。
さらに、トマトが甘みが強くてチーズの塩味と濃厚さを引き立てていた。
「これが……1口……もっと食べたい。」
「瑞希ちゃーん!まだこれから!これからだから!」
どうやら私のチーズ評論家は大絶賛のようだった。
おいおい、この調子で大丈夫かな?
私は苦笑した。
暫くすると、よく見る鳥籠の様なものを支配人の亀谷さんはもってきた。
「お待たせいたしました。チーズアフターヌーンティーです。」
鳥籠の中には色鮮やかにチーズを使った料理が並べられていた。
白いお皿に盛り付けすぎず余白の空間を楽しんでもらうためにチーズソースがかけてあったり、ハーブののせ方も絶妙でひとつの絵画のようだった。
「この泡泡してるのは?」
「エスプーマというものです。炭酸ガスで一気に泡を作ります。甘くてチーズの香りを楽しむことが出来ますよ。」
「美味しい!?泡からクリームチーズの味と香りがする!」
なんということだろうか。
とても女子高生に対してはレベルの高いものが多かった。
私は料理に対して恐れおののいてしまう。
他にも見ると、ブルーチーズを使ったミニタルトや、下の段には生ハムの原木を削ったものが並べており、真ん中にはブラータというモッツァレラチーズを使ってクリームと混ざったチーズを包むものがあった。
ブラータを開けて食べると、贅沢にもドライフルーツが入っていて、生ハムの塩味とあわさって食欲をさらに注いだ。
何よりも、この削りたてのチーズをバゲットと一緒に食べるのも美味しい。
オープンキッチンからは直径1m弱の巨大なチーズをスライサーでけずっていた。
「美味しい……幸せ……。」
私は、幸せの絶頂にいた。
細部まで拘った料理はこんなにも感動を与えてくれるのかと、料理だけでなく空間と時間も合わさって最高の体験である。
「失礼致します、ラクレットチーズを炙ったものをバゲットにかけさせて頂きます。」
「え!?まさか……ハイジとかでみるあれ!?」
「ええ、あれでございます。」
男は柔軟に瑞希ちゃんににこやかと微笑むとバーナーに火をつけて、ラクレットチーズを炙り出し、表面が熔けてグツグツとしだした。
そして、男はベストの瞬間を見極めるとパンにチーズを流し込んでいた。
「お待たせいたしました。ラクレットチーズの炙りでございます。」
「きゃあああ!」
瑞希ちゃんは感動のあまり黄色い悲鳴を上げてしまう。
確かにこんなもの食べれる機会は全くないぞ。
食べるとびよーんとチーズが伸びて、チーズの糸が出来る。
なんと、コシのあるチーズなのだろう。
私と瑞希ちゃんは美味しさのあまり頬に手を当ててしまった。
予約してよかった。
なんと素晴らしい体験なのだろうかと思っていると、瑞希ちゃんのチーズは一瞬にして消えていた。
「瑞希ちゃん!チーズがない!チーズはどこへ消えたの!?」
「あはは〜、瑞希ちゃんの胃袋の中よ。」
店に入ってようやく私たちはボケる余裕が出てきた。
最後は、クロテッドクリームを使ったスコーンと、マスカルポーネチーズを使ったティラミスをほうばる。
そのタイミングでコーヒーの存在を忘れていたので飲んでいく。
コーヒーも超一流である。
普通コンビニのコーヒーは酸味のイメージがあるけど、このコーヒーはキリッとした苦味がしつこくなく少しだけ舌に感じる程度で、舌触りが滑らかなコーヒーだった。
「……どうだったかな?瑞希ちゃん。」
「私……今日ほど幸せな日はないかも。」
最高の褒め言葉である。
私も一緒の気持ちなのだから。
「私、人が嫌いだったからさ……群れて何かをするのは自分がない人の行動だと思ったの。」
「あはは、ある意味的を得てるのかもしれないわ。」
「でも、違うんだね。1人でできないことを誰かと共有する気持ちって……こんなにも変え難いものなんだね。
私、彩奈ちゃんと出会ってよかった!それが何よりの喜びだよ。」
私は、そんな瑞希ちゃんの言葉に心が打たれてしまった。
そっか、普段色んな人に囲まれてるけど……ホントの友達ってこんな感じで心を通わせてるものなのかもしれない。
同調圧力もない、ただ好きな物を共有し合える……そんな関係。
「グレートだぜ!瑞希ちゃん!」
「私たちは……4部の仗助と康一君なのかもしれない。彩奈ちゃんは強いから仗助ね。」
「じゃあ、瑞希はこれから康一としてスタンドを進化させないとだね。」
「だね!」
ここは、東京の某ホテルのラウンジ。
周りには高級感漂う夫婦であったり、ドレスアップした女性や何かに考えるエグゼクティブなんかもいたりする……そんな非日常の頂点のような場所。
そんな場所にいる女子高生の私たちは、誰よりもこの空間と時間を堪能していた。
だって、非日常は誰にでも行動すれば与えられるものなのだから。




